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2012年4月30日 (月)

「緊縮の罠」から抜け出せるのか?ILO世界労働レポート

Ilo_2国際労働機構(ILO)が本日、「World of Work Report 2012」を公表しました。

本体は

http://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---dgreports/---dcomm/documents/publication/wcms_179453.pdf

要約は

http://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---dgreports/---dcomm/documents/publication/wcms_179450.pdf

です。

今回の報告のタイトルはは「Better jobs for a better economy」(より良い経済のためのより良い仕事)ですが、それよりむしろ、冒頭のタイトル

How to move out of the austerity trap?

緊縮の罠からいかにして抜け出せるのか?

が、現在の世界経済が陥った「罠」を良く言い表しているように感じられました。

Since 2010, and despite the job-friendly statements in successive G20 meetings and other global forums, the policy strategy has shifted its focus away from job creation and improvement and concentrated instead on cutting fiscal deficits at all costs. In European countries, cutting fiscal deficits has been deemed essential for calming financial markets. But even in countries which have not suffered from the effects of the crisis this remedy is being applied for pre-emptive reasons – fiscal deficits are being reduced to avert any negative reactions from financial markets. This approach was intended to pave the way for greater investment and growth, along with lower fiscal deficits.

2010年以来、雇用にやさしい宣言が繰り返されたにもかかわらず、政策戦略の焦点は雇用創出と改善から離れ、いかなるコストを払っても財政赤字をカットする方向にシフトした。ヨーロッパ諸国では財政赤字削減が金融市場をなだめるために必須とみなされた。しかしながら、危機の影響を受けなかった諸国ですらこの処方箋は予防的見地から取られている。このアプローチは財政赤字を縮小しつつ投資と成長を拡大することを意図している。

In addition, as part of the policy shift, the majority of advanced economies have relaxed employment regulations and weakened labour market institutions (Chapter 2), and more deregulation measures have been announced. These steps are being taken in the hope that financial markets will react positively, thereby boosting confidence, growth and job creation.

加えて、政策シフトの一環として、先進諸国の多数は雇用規制を緩和し、労働市場機構を弱体化させ、さらなる規制緩和が公表されている。これらのステップは金融市場がポジティブに反応し、信任と成長と雇用創出を産み出してくれるという希望に基づいている。

However, these expectations have not been met. In countries that have pursued austerity and deregulation to the greatest extent, principally those in Southern Europe, economic and employment growth have continued to deteriorate. The measures also failed to stabilize fiscal positions in many instances. The fundamental reason for these failures is that these policies – implemented in a context of limited demand prospects and with the added complication of a banking system in the throes of its “deleveraging” process – are unable to stimulate private investment. The austerity trap has sprung. Austerity has, in fact, resulted in weaker economic growth, increased volatility and a worsening of banks’ balance sheets leading to a further contraction of credit, lower investment and, consequently, more job losses. Ironically, this has adversely affected government budgets, thus increasing the demands for further austerity. It is a fact that there has been little improvement in fiscal deficits in countries actively pursuing austerity policies (Chapter 3).

しかしながら、こういった期待は満たされることはなかった。緊縮と規制緩和を最大限に追及した諸国、とりわけ南欧諸国では、経済と雇用情勢は悪化し続けた。財政状況を安定化させようとする措置はことごとく失敗した。こうした失敗の根本的理由は、これら政策が民間投資を刺激できなかったことにある。緊縮の罠はひび割れた。緊縮政策は、現実には、経済成長の劣化、不安定さ、銀行のバランスシートの悪化をもたらし、さらなる信用収縮、投資の減少を導き、結果としてさらなる失業の増加をもたらした。皮肉なことに、これは政府の財政に悪影響を及ぼし、そのためさらなる緊縮政策への要請を増大させる。つまるところ、緊縮政策を一生懸命追及した諸国において財政赤字はほとんど改善していないのだ。

等々と、縷々述べた後で、

It is possible to move away from the austerity trap.・・・

緊縮の罠から抜け出すことは可能だ。・・・

と論じていきます。さて、読者諸氏はどう考えるでしょうか。

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コメント

ソマビエ事務局長もコメントを出したようですが、欧州の労働組合は2009年以降、づうっと言い続けてきたことですよね。ゼンストや大集会もあちこちでなんべんもやりました。2010年にOECD-TUACなどグローバルユニオンが「危機からの脱出」という政策提言集を出してますし(スティグリッツさんが諸言を書いてます)、昨年暮れにはDGBのゾマー会長ら欧州5か国8ナショナルセンター代表の共同声明「新たな欧州社会契約に向けて」も出されました。これらの主張は一言で言えば、失敗した新自由主義に逆戻りするんじゃなくて、ケインズの「一般理論」に基づいた政策で福祉国家を目指せってことのようです。福祉国家に向けて、国民国家が国民経済を取り仕切り国民生活を守り抜く、そのためにEU指令などの欧州共同施策が側面支援するというビジョンをEU機関や各国の指導者がぶっ壊そうとしているという訳です。経済危機・国家債務危機はUEの弱い環を各個撃破してきましたから、指導部は狼狽えたのか見限ったのか裏切ったのか、ともあれ労働組合は怒ってます。そして「万国の労働者団結せよ」と呼びかけられているんでしょう。

現在EUがこういう風になってしまっている理由について、『生活経済政策』4月号に載せた「「失敗した理念の勝利」の中で」の最後のところで、こういうふうに述べております。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/seikatsurinen.html">http://homepage3.nifty.com/hamachan/seikatsurinen.html

2008-2009年には誰もが市場原理主義の失敗を語っていたのに、2010年以降それが復活した最大の理由は、まさに経済危機に対応するため破綻した金融機関の救済や企業や労働者への支援、そして大量に排出された失業者へのセーフティネットなどのために多額の公的支出が行われ、それが加盟各国の財政赤字を拡大させたからである。好況期に黒字を溜めて、不況期の景気対策やセーフティネットへの支出によって赤字になるというのは、マクロ経済学では当然の政策であるはずだが、その不況期には当然の財政赤字が、金融バブルの拡大と崩壊に重大な責任があるはずの格付け機関によって、公債の信用度の引下げという形で、あたかも悪いことであるかのように見なされるようになった。
   しかし、ここにヨーロッパ独自の特殊な事情が絡む。いうまでもなく、共通通貨ユーロの導入によって、「安定成長協定」という形で加盟国の財政赤字にたががはめられてしまっていることである。本来景気と反対の方向に動かなければならない財政規模が、景気と同じ方向に動くことによって、経済の回復を阻害する機能を果たしてしまうこのメカニズムは、自由市場経済ではなく協調的市場経済の代表格であるドイツの強い主張で導入され、結果的に市場原理主義の復活を制度面から援護射撃する皮肉な形になってしまっている。
   そして、欧州2020戦略*3の下で遂行されている欧州理事会主導の経済社会政策は、その「知的で持続可能で包摂的な成長」という謳い文句とは著しく乖離し、きわめて緊縮財政志向のものとなってしまっている。たとえば、2011年11月に欧州委員会が示した「年次成長サーベイ2012」では、その冒頭に「成長親和的な財政再建の追求」が掲げられ、「成長親和的」という形容詞はついているが加盟国に厳格な赤字削減を要求している。そしてドイツ主導で進められた財政規律強化条約が2012年1月末に非公式欧州理事会で合意され、各国の財政赤字はGDPの0.5%を超えない旨を各国の憲法で規定し、これを逸脱した場合には自動修正メカニズムが作動するようにしなければならず、これに従った法制を導入しない国にはGDPの0.1%の制裁金を課するという仕組みが導入されることとなった。
   このように事態がドイツ主導で進められる背景には、経済危機に対してドイツ経済が極めて強靱な回復力を示し、ドイツ式のやり方に他の諸国が文句を言いにくいことがある。しかしながら、上記報告書でIGメタルのウルバン氏が述べるように、ドイツの「成功」をもたらしたのは、危機からの脱却のために政労使がその利益を譲り合うコーポラティズムであった。労働側は短時間労働スキーム(いわゆる緊急避難型ワークシェアリング)により雇用を維持するとともに、さまざまな既得権を放棄することで、ドイツ経済における労働コストの顕著な低下に貢献した。これにより、他の諸国と対照的に、ドイツの失業率はむしろ低下傾向を示した。
   このドイツ型コーポラティズムの「成果」が、EUレベルでは緊縮財政を強要する権威主義的レジームを支えているというのが、現代ヨーロッパの最大の皮肉なのであろう。アングロサクソン型の市場原理主義が猛威を振るっているのではないのに、ドイツにおける協調的市場経済の「成功」が結果的に他国におけるその基盤となるべき雇用と社会的包摂への資源配分を削り取っていくというこのアイロニーは、あまりにも悲劇的であり喜劇的ですらある。

何故メルケルは、というよりドイツ財界、金融界はかくも財政規律に拘るのか?ひとつには1ドル=4兆2000億マルクあたりまで急落し、レンテンマルクの登場となった第一次大戦後のハイパーインフレのトラウマというか、インフレへの過度の警戒心はあるのでしょう。今日的に言えば、ついせんだってまでECBのチーフエコノミストでドイツ選出理事だった(ドイツ・マネタリズムの大ボス)ユルゲン・シュタルクの最近の発言の中に答えがありそうです。要はECBの大規模供給オペはFRBやBOEの量的緩和と一緒で担保規律を破壊しインフレの脅威が増しているという認識。同氏によるとECBのバランスシートは膨張しすぎの上に不良債権がゴマンとある。ECBのイタリア製スーパー・マリオ(ドラギ)総裁は、そんな意見は蛙の面になんとやらで、南欧ラテン系の利害を代表してドイツとはそりが合わないようです。
困ったことに緊縮財政にせよ量的緩和にせよ、勤労者が犠牲になり強欲資本が救済されることは共通。その二つが脈絡があるのかないのか、同時併行して行われている。ECBは銀行に債券を買わせるための大規模供給をする金があるなら、ギリシャやスペインにディーセントな雇用を生み出すための公共投資資金を貸してやればいいんじゃないのかね。各国政府は緊縮は棚上げして雇用と内需の拡大に精を出してもらいましょう。

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