大内伸哉・川口大司『法と経済で読みとく雇用の世界』
大内伸哉・川口大司『法と経済で読みとく雇用の世界』(有斐閣)をお送りいただきました。ありがとうございます。大内さんは息つく暇もない勢いで本を書かれますね。
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641163898
様々なシーンで働く人々の姿を描いたストーリーから問題を探り,複雑で奥深い「労働」というテーマを考えていくための視点を提供。法学・経済学の両面,そして両者の協働から学び,労働市場をみつめ直す。雇用の世界に生きるすべての人に贈る指針となる一冊。
各章ごとに冒頭のやや長めのストーリーから始まり、論点を述べていくというスタイルは、大内さんのこれまでの本と共通していますが、そこに共著者の川口さんの経済学的分析が随所に挟まれることで、ひと味違った雰囲気を醸し出しているという感じです。
序 章 法学と経済学の協働は可能か:自由と公正のあいだで
第1章 入社する前にクビだなんて:採用内定取消と解雇規制
第2章 パート勤めの苦しみと喜び:最低賃金と貧困対策
第3章 自由と保障の相克:労働者性
第4章 これが格差だ:非正社員
第5章 勝ち残るのは誰だ?:採用とマッチング
第6章 バブルのツケは誰が払う?:労働条件の不利益変更
第7章 残業はサービスしない:労働時間
第8章 つぐない:男女間の賃金・待遇格差
第9章 わが青春に悔いあり:職業訓練
第10章 捨てる神あれば,拾う神あり:障害者雇用
第11章 快楽の代償:服務規律
第12章 俺は使い捨てなのか?:高齢者雇用
第13章 仲間は大切:労働組合
終 章 労働市場,政府の役割,そして,労働の法と経済学
なかなかうまい具合に解け合わない法学と経済学の協同の一つの成果ということができるでしょう。
ただ、実をいうと、いま現在のわたくしからすると、
法と経済<だけ>で雇用を読み解けるの?
というもう一つ別の次元の疑問が湧いてきたりします。
それは、今月にも刊行される『日本の雇用終了』で描き出されている現実の中小零細企業の実態は、膨大な費用と機会費用をかけて初めて得られる裁判所の判例法理に立脚した法解釈学や、形式的に整合的な契約理論の上で美しく描き出される経済学の世界とは、かなりかけ離れた姿を呈しているからで、「法と経済」だけで描かれるのは、どっちみち上澄みの世界ではないのか?というやや斜め方向からの筋違い気味の疑問を抱いたままでは、なかなか素直に読めないところがあったりします。
いずれにしても、かつてのいろんな人を総動員した『雇用社会の法と経済』では、ごく一部の論文を除いて、いささか法と経済がうまく融合しておらず、よく振る前のドレッシングみたいな感じでしたが、今回の大内・川口共著は、よく振られてほどよく混じり合った美味しドレッシングになっています。
(参考)
http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2008/08/pdf/116-124.pdf(書評 荒木尚志・大内伸哉・大竹文雄・神林龍編『雇用社会の法と経済』 by 濱口桂一郎)
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