または有難迷惑な応援団を謝絶する勇気
本日の日本経済新聞の30面に、去る3月6日に行われたCIETT(国際人材派遣事業団体連合)主催のワークショップについての全面広告が載っています。
日本で派遣業界の応援団を買って出ている人々の乱暴な言論とはだいぶ肌合いの違う言葉が並んでいるので、人によってはびっくりするかも知れませんが、いうまでもなくこれが世界標準の派遣業界のものの考え方です。
まず右上のフレッド・ファン・ハーステレンCIETT会長の言葉:
人材派遣は不安定な立場の労働者をディーセント・ワークに導くことができる。今後も労働組合との協働などを進め、業界の健全な発展に尽くしたい。
同じくデニス・ペネル専務理事の言葉:
・・・ただし、提供するのはディーセント・ワークでなければならず、それを確保するためには労使の対話が重要である。欧州では労使が共同して派遣社員の訓練や福祉、待遇改善などに取り組んでいる。
そして、このような人材派遣の効用を最大化するためには、適切な規制の枠組みを整備する必要がある。派遣業界を独立した産業として認識し、労働組合との協働などを積極的に推進すべきだ。また行政機関も、労働政策の立案・実施に派遣業界を関与させたり、ディーセント・ワークを提供する業界の機能を公的な雇用政策に取り入れたりするなど、人材派遣業界を有効に活用すべきである。
派遣業界のトップが揃って、ディーセントワークとか労使の対話といったILO好みの言葉をフルに使うというのが、少なくとも先進国の派遣業界にとっては当たり前のことなのですが、残念ながら日本では必ずしもそうではなかったというところに、ここ数年来の派遣業に対するバッシングの一つの原因があったということに、意識を深めていただきたいところです。
この点は、同じ全面広告の左上から下にかけて載っているわたくしも含めたパネルディスカッションの記録からも窺われるところだと思います。
ここでは、八代さんのリードに応じたわたくしの発言を引用しておきます。
八代 Ciettの調査リポート「変化への適応」を見ると、人材派遣に対する欧州と日本の常識の差がうかがえる。報告書の内容を踏まえて各氏から問題提起をお願いしたい。
濱口 なぜ日本は派遣事業規制を強化する方向に向かったのだろうか。日本で派遣業界を代弁する立場の人々が、「過労死は自己責任」と言ったり、ILOや労基署を否定したりするなど、ディーセント・ワークを敵視してきたことが大きい。むしろ、正社員型とは異なるディーセントな働き方に貢献すると主張すべきだった。また事業規制で困る派遣社員の声を適切に代表する仕組みもなかった。八代 提起された問題の解決策はあるか。また人材派遣が果たすべき役割をどう考えるか。
濱口 人材派遣に対する日本の法規制は、正社員の代替をしないようにという事業規制が中心で、肝心の派遣社員保護の仕組みが弱い。重要なのは、ディーセントな働き方がノン・ディーセントな働き方によって代替されないようにすることである。正社員モデルを最良とする発想から脱却し、重要なパートナーである労働組合と対話・協力を重ねるべきだ。
八代 派遣社員の保護を重視する点で各氏の意見は一致している。より良い派遣労働市場をつくる余地は大きく残されている。
濱口 派遣社員の声を代弁するシステムを構築すべきだ。トラブルを軽微なうちに解決できず、労働紛争化している実態がある。
派遣業界はただでさえ猜疑心で見られているところがあるわけですから、ディーセントワークや労使パートナーシップを目の仇にするようなたぐいの有難迷惑な応援団は、世間の誤解を招くおそれがあるのでと、毅然として謝絶するぐらいの態度が必要だと思いますよ。
少なくとも、上のCIETTの会長や専務理事の言葉を見せて「なにがでーせんとわーくや?」と鼻の先で嗤うような人は、余計な敵を引き込むだけで、何の役にも立たないことだけは明らかですから。
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