ホックシールド『タイムバインド』
アーリー・ラッセル・ホックシールド著、坂口緑、中野聡子、両角道代訳の『タイム・バインド《時間の板挟み状態》 働く母親のワークライフバランス』(明石書店)をお送りいただきました。ありがとうございます。そして、この本が一人でも多くの方々に読まれるように、微力ながら本ブログでも精一杯応援したいと思います。
http://www.akashi.co.jp/book/b100448.html
えーまず、ホックシールドというと「感情労働」と脊髄反射するわけですが、共働き問題も大きな柱でして、前著『セカンド・シフト』が夫婦関係に着目していたのに対し、本書では働く母親と子どもの関係に焦点を当てています。
共働き家庭は、とにかく時間がない。本書には、仕事と子育ての両立に悩む30人近くの働く母親が登場。子どもや家庭を犠牲にしながらも、常に前向きに厳しい現実と格闘する姿を描く。共感を呼ぶ内容でありながら、ワークライフバランスに関する学術書としても秀逸。
そして、本訳書で特筆すべきは、訳者の3人がいずれも現役の働く母親で、明治学院大学のそれぞれ社会学部、経済学部、法学部で教えながら、それぞれ8歳男子、12歳男子、そして8歳男子プラス3歳女子の母親であるという点でしょう(これら個人情報は本書の訳者紹介に掲載されている情報です)。
私が直接存じ上げているのは労働法の両角道代さんだけですが、大きなおなかを抱えながら労働法学会で報告されていた姿は良く覚えております。もうこんなに大きくなられましたか。いや、そういう話じゃなくって。
本書で一番深刻なテーマは、両角さんの訳した章に主として書かれていますが、仕事と家庭の逆転現象でしょう。以下、訳者あとがきのまとめを引用しますが、
20世紀の前半、テイラー主義的な労務管理が支配的であった頃、労働者にとっては職場は非人間的で過酷な場所であり、家庭こそ「無慈悲な世界からの避難港」であった。そのイメージは現在も私たちの頭の中で健在だが、実際には、多くの労働者にとって職場は家庭よりも快適な場所になっている。・・・その一方で、家庭は職場との競争に敗れ、かつての魅力を失いつつある。疲れて帰宅しても家事に追われ、育児や配偶者との関係に悩んでいても、そのような親を励まし、支え、評価してくれる存在はない。やるべきことの多さに比して、そこから得られる報酬はあまりに少ない。その結果、多くの働く親たちは会社の求める長時間労働を厭わず、職場の人間関係を楽しむ反面、本来は職場の理念であった「効率」を家庭において追求するようになる。そして子育てに関しても「ムダ」を省き、最小限の時間と労力で最大の成果を得ようと努力するようになる。このように家庭が「テイラー主義化」し、私的な時間が失われることによる最大の犠牲者は子どもたちである。その結果、多くの共働き家庭では、行き過ぎた効率化に対する子どもたちの抵抗を懐柔するという「第三のシフト」が発生し、働く親をますます疲弊させ、仕事への逃避を促進している・・・・・。
もちろん、現実の職場はそんな「アメルコ」みたいに「快適」なものばかりではありませんが、とはいえ過酷な職場で働く多くの親たちにとってもやはり同じように「家庭のテイラー主義化」が強いられてきているという姿も、本書が描く側面とは別の側面にあるのでしょう。
第I部 時間について――家族の時間がもっとあれば
第一章 「バイバイ」用の窓
第二章 管理される価値観と長い日々
第三章 頭の中の亡霊
第四章 家族の価値と逆転した世界
第II部 役員室から工場まで――犠牲にされる子どもとの時間
第五章 職場で与えられるもの
第六章 母親という管理職
第七章 「私の友達はみんな仕事中毒」――短時間勤務のプロであること
第八章 「まだ結婚しています」――安全弁としての仕事
第九章 「見逃したドラマを全部見ていた」――時間文化の男性パイオニアたち
第一〇章 もし、ボスがノーと言ったら?
第一一章 「大きくなったら良きシングルマザーになってほしい」
第一二章 超拡大家族
第一三章 超過勤務を好む人々
第III部 示唆と代替案――新たな暮らしをイメージすること
第一四章 第三のシフト
第一五章 時間の板挟み状態を回避する
第一六章 時間をつくる
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