日本のフォーク・レイバー・ロー
『労基旬報』3月25日号に掲載した「日本のフォーク・レイバー・ロー」という小文ですが、
http://homepage3.nifty.com/hamachan/roukijunpo120325.html
今月、労働政策研究・研修機構から過去3年間実施してきた個別労働関係紛争の内容分析の最終報告書として、『日本の雇用終了』を市販書として刊行した。そこでは、労働局あっせん事案から窺われる日本の労働社会における「生ける法」を「フォーク・レイバー・ロー」と呼び、次のような諸特徴を抽出している。
まず第1の特徴は、雇用終了するかどうかの段階において、労働者の適性を判断する最重要の基準がその「態度」にあるという点である。これは、明示的に「態度」を雇用終了の第一の理由に挙げている事案が多いことのみならず、言葉の上では「能力」を理由に挙げているものであってもその内容を仔細に見れば「態度」がその遠因にあるものも多いなど、極めて多くの雇用終了に何らかの形で関わっていることからも、強調される。また、雇用終了の理由となるほどの「態度」の悪さといった時に、判例法理から通常想定されるような業務命令拒否や業務遂行態度不良といった業務に直接かかわる態度だけではなく、それよりむしろ上司や同僚とのコミュニケーション、協調性、職場の秩序といったことが問題とされる職場のトラブルが多くの事案で雇用終了理由として挙げられているという点に、職場の人間関係のもつ意味の大きさが浮き彫りにされているといえる。
第2にこれと対照的なのが、雇用契約の本旨からすればもっとも典型的な雇用終了理由となるはずの「能力」の意外なまでの希薄さである。使用者側の主張において労働者の「能力」を主たる雇用終了理由としている事案の数がそれほど多くない上に、抽象的かつ曖昧なものが多く、具体的にどの能力がどのように不足しているかが明示されたケースはあまりない。むしろ、主観的な「態度」と客観的な「能力」が明確に区別されず、一連の不適格さとして認識されている事例が目立つ。これは、日本の職場において求められている能力が、個別具体的な職務能力というよりは、上司や同僚との人間関係を良好に保ちつつ、職場の秩序を円滑に進めていく態度としての能力であることを物語っているといえる。
第3に労働局あっせん事案が判例法理と極めて対照的な姿を示すのは経営上の理由による雇用終了に係る事案である。多くの中小企業における実態をみると、経営不振という理由を示すだけで極めて簡単に整理解雇が行われており、むしろ経営不振は雇用終了における万能の正当事由と考えられているとすらいいうる。このことを側面から立証すると思われるのが、表面上は経営上の理由を掲げているが、真に経営上の理由であるかどうか疑わしいケース(表見的整理解雇)の存在である。裁判所において適用される労働法と、現実の労働社会で通用している「フォーク・レイバー・ロー」の落差をこれほど明確に示す領域はない。
冒頭のセンテンスで「刊行した」と過去形で述べておりますが、現時点でまだ未刊行ですので、適宜未来形に直して読んでいただければ、と。
なお、この『日本の雇用終了』の目次は、こちらに掲げてありますので、ご参照いただければ幸いです。
http://homepage3.nifty.com/hamachan/mokuji4.html
個別事案の詳細な解説のあとの、第4章、第5章あたりの目次を紹介しておきますと・・・
第4章 日本の職場の「フォーク・レイバー・ロー」
1 労働法への法社会学的アプローチ
(1) 労働法学と法社会学
(2) 「生ける法」
(3) フォーク・レイバー・ロー
2 日本の職場の「フォーク・レイバー・ロー」
(1) 「態度」の重要性
(2) 「能力」の曖昧性
(3) 「経営」の万能性
(4) 職場環境の劣悪化
第5章 政策的含意
1 経済学からの解雇規制批判の検討
2 規制改革会議の答申の検討
3 金銭解決制度の導入の検討
4 個別労働紛争解決システムの設計
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>「刊行した」と過去形で述べておりますが、現時点でまだ未刊行
記事を読んですぐにアマゾンおよびJILPTのサイトにアクセスしましたが・・・。
ともあれ楽しみにしております。
投稿: 仁平 | 2012年3月27日 (火) 09時49分