『新しい労働社会』への連続ツイート
「kktsc」さんが、拙著『新しい労働社会』(岩波新書)について、次のように連続ツイートしていただいております。
濱口桂一郎『新しい労働社会』(岩波新書)。読めば読むほど、重要な本である。90年代半ば以降、「新しい貧困」がなぜ生まれたか。戦後近代家族モデルとリンクした日本型雇用システムが、時代に不適応になっているにもかかわらず、労働法制の歪みが放置されていることに、その原因がある。
これが左翼系の労働研究者だと、新自由主義批判、労働規制強化で終わり、となりそうなところ。でも「新しい貧困」は、新自由主義とはあんまり関係ない。「労働」の本質論から、法的枠組みを立て直すことで対処されるべき構造問題。いまこそ、原理論が必要とされている。
「教育の職業的レリバンス」の問題も、構造的に了解できる。これは教育システムだけをいじっても解決できない。日本型雇用システムが「職務 job」概念を本質としていないかぎり、「職務に応じた職業教育」が成立しないのは自明。しかし、この「自明さ」が指摘されているのはすごいと思う。
「子ども手当」問題についても、目からウロコが落ちた。正社員の賃金を「生活給」と見なすのか、それとも「職務に対する報酬」と考えるのか。賃金体系の見直しと、社会保障問題とはセットで考える必要がある。
家族のあり方が多様化している以上、男性正社員モデルで生活給(扶養手当)を考えるのは時代にそぐわない。としたら、「賃金」は職務に応じて、「生活保障」は社会保障で、という切り分けでいくべき。「子ども手当」の理念的文脈はじつはこの点にあったと考えるべきなのでは。
90年代以降、何かがおかしい日本社会。金融政策の正常化(リフレ政策)だけで難しいことを考えずに改善できる部分は大きいが、より丁寧に見れば、労働法制の立て直し(構造改革)は必須の課題だ。
いや、本当に考えさせられる論点がてんこ盛りである。タクシー運転手の規制緩和問題とか、たとえば純粋に経済学的アプローチで議論する話とかもあるけど(大竹文雄とかの)、よりマクロに社会にどのような変容が生じているのかを「現実」に直面するかたちで考えるなら、この本だわ。
日本型経営論を文化論的視角で見るとか、変ちくりんなゴミ議論は多いが、日本がなぜ長時間労働なのか、なぜワークライフバランスが実現できないのか等々、スッキリ明快に分かって、これはすごい。
変かな?いろんな疑問が連鎖的に解けて、すごい快感だったんだけど。まだ最後まで読み終えてないけど。
いや、労働問題について青少年に説明するときに、いろいろ勉強してもなかなかピンとくる本がなかったんだよ。これで面白く話せそうな気がする。いろんな知識同士のつながりを教えてくれる本だと思うな。
「シンプルな枠組み(+まっとうな規範的主張)」で、複合的な事象をよく捉えている、という意味で理論的な冴えを感じる。よって、私は絶賛。
だが、そのシンプルさとまっとうさが(実務家的関心からすれば)「評論家的・傍観者的」と映る可能性はあるかも。「歪んで解きほぐせそうもない現実」を目前にして、「それは歪んでいる」とまっとうに指摘されても、そんなの知ってるわ、という。
問題意識と議論の構図を的確に捉えていただいておりまして、有り難い限りです。
一点だけ些細なことを申し上げておきますと、最後の「(実務家的関心からすれば)「評論家的・傍観者的」と映る可能性はあるかも」という点については、むしろわたくしとしては(世間の凡百の議論の方が))「評論家的・傍観者的」なのであり、わたくしの方がずっと(その出自からしても)「実務家的関心」でもってものごとを論じているつもりでおります
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