OECD『PISAから見る、できる国・頑張る国2 未来志向の教育を目指す:日本』
昨日ビデオクリップを紹介したOECD『PISAから見る、できる国・頑張る国2 未来志向の教育を目指す:日本』ですが、その中身をいくつかピックアップしておきたいと思います。
第2章の「PISAというプリズムを通してみる日本の教育」です。それこそテレビ等で根拠レスに叫ばれる「ゆとり」がどうしたこうしたというたぐいのキョーイク論とはかなり違った姿が浮かび上がってくると思います。
一般的には日本の成績は低下しているという認識があるかも知れないが、PISA調査の成績を見る限り、日本は2000年以降、読解力で良い成績を維持しており、得点でOECD平均を約20点上回っている。数学的リテラシーと科学的リテラシーでも、成績を見る限りそれぞれ2003年調査及び2006年調査と大きな差はない。最も重要と思われるのは、日本の読解力の成績が、知識を再現するだけでなく生徒が自分自身で答を考え出すことが求められる自由記述形式問題において、向上してきている点であろう。
日本は、学習と学校に対する生徒の態度や姿勢において大きな改善が見られたが、これはPISA調査が重要な成果と考えているものである。・・・
2000年調査に比べ、日本は楽しみで本を読み、読むことに対して意欲のある生徒が増えた。・・・
そして、OECDが指摘する教育への支出の少なさと成績の良さとのギャップについて:
PISA調査の結果から、教育費全体、つまり公財政教育費も私費教育費も、日本は対GDP比でOECD平均をかなり下回っているにもかかわらず、日本の教育システムは高い成績を生み出していることが明らかとなっている。・・・
このことは日本の平均得点は、生徒一人当たり教育支出から期待される得点より高いことを示している。・・・
マスコミ的歪んだ教育論を正すための一服の清涼剤がたくさん含まれているのもお薦めの点です。
生徒の回答によれば、日本ではOECD加盟国中最も規律ある雰囲気で国語の授業が行われている。・・・
日本は教職を非常に魅力あるものにすることに成功したが、教員給与の魅力は年々薄れている。・・・
・・・しかしながら日本は、不利な背景を持つ生徒も、有利な背景を持つ生徒も、資格をもつ教員に同じように教えられている。
・・・日本では、生徒の11%が不利な状況を克服した生徒であると考えられる。
とりわけ、近ごろ教育に関するOECDの報告書など一冊も読んだことのない人々が唱道したがるトピックについて、
国の中で学校間を比較すると、競争と成績には関連があるように見えるが、生徒と学校の社会経済的背景を考慮すると、両者の関連は弱い。有利な背景を持つ生徒の方が、条件や状況の良い学校に通う可能性が高いからである。・・・日本では生徒及び学校の社会経済的背景や人口的背景を考慮しても、この学校間の競争は生徒の成績に関係しない。
・・・しかしながら、日本では、生徒たちの成績を公開することと生徒の成績の間に関連はなかった。ほとんどの国では、生徒の成績データを公開している学校は社会経済的に有利な背景の学校であったため、社会経済的背景を考慮するとこの成績の優位性は見られなかった。
まあ、これはほんの一部ですが、これくらいのことは教育を論じようとする人々であればいの一番に頭に置いておいてもらいたい基礎知識ではあるのですが、日本ではそういうのを知らない人ほど居丈高に教育を論じたがるという弊風がありますもので。
ちなみに、OECDの原書はこちらに全文がありますので、英語で読みたい方はどうぞ。
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ここ10年ほど「学力低下」を問題にする言説が一部で活発になっておりましたが、あれは一体何だったのでしょうね。ショックドクトリンの一環だったのでしょうか。もちろんOECD、PISAによる肯定的な調査結果も多少は新聞紙上等で紹介されていた記憶もございますが。
投稿: 小野山 | 2012年3月 5日 (月) 21時02分
追記ですが、教育や学力の問題に関しては、西村和雄氏の意見が載る新聞が否定的なニュアンスで報じることが多かったと思います。それに比べれば、朝日新聞はPISAの報告書を報じるなどしていることから、マスコミの中では比較的冷静に伝えていた方かも知れません。
投稿: 小野山 | 2012年3月 6日 (火) 00時12分