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2012年3月29日 (木)

正社員の解雇には2千万円かかる!・・・のか?

最近、アマゾンの労働法部門でぶっちぎりの1位をキープしている『社長は労働法をこう使え!』の向井蘭さんの

http://diamond.jp/articles/-/16733(正社員の解雇には2千万円かかる! )

が話題を呼んでいるようです。

いやそれは、確かにその通りで『も』あるんです。経営法曹という弁護士の立場からすれば。いや、対立する労働弁護士という立場からしても同じでしょう。

経営法曹であれ、労弁であれ、弁護士の目には、わざわざ高い弁護士費用を払って、それ以上に何ヶ月も何年もの莫迦高い「機会費用」を払って、解雇の不当性を訴える極めてごく少数の奇特な労働者しか映る機会はないわけですから。

ほかのもっと有益なことにいろいろ使えたはずの自分の人生のとても大切な一時期を、会社相手の裁判闘争に費やそうというような労働者にぶち当たった不運な使用者にとっては、まさに「正社員の解雇には2千万円かかる」という世界が待っていると言ってもそれほど間違いではないかも知れません。

でも、それは、あえて言えば、弁護士であることによるバイアスが相当にあるように思います。

同じバイアスは、そうやって裁判所までやってきた事例だけを判例雑誌をめくりながら研究している労働法学者たちにもある程度まで言えるでしょう。

そういうごく少数の奇特な労働者の外側に、弁護士や労働法学者の目のなかなか届かない膨大な世界が広がっているのです。

その世界のうち、そもそも多くの事象はいかなるアンテナにも感知されないまま消えていっているわけですが、それでもその一部はたとえば労働局あっせんなどの非判定型の調整手続にかかってくることがあります。

そういう事象を1000件余り分析した結果については、既に報告書にまとめ、本ブログでも紹介し、またもうすぐ出版される『日本の雇用終了』でも詳細に分析しておりますが、向井さんの言われる「正社員の解雇には2千万円かかる」については、現実の世界が本当にそうかどうか、労働局のあっせんにかかる限り、こういうデータが出ています。

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2010/0123.htm

 

1

49999

5000099999

100000199999

200000299999

300000399999

400000499999

500000999999

10000004999999

50000009999999

10000000円以上

不明・その他

合計

正社員

7(4.3%)

8(4.9%)

39(24.1%)

22(13.6%)

24(14.8%)

12(7.4%)

19(11.7%)

11(6.8%)

1(0.6%)

1(0.6%)

18(11.0%)

162(100.0%)

直用非正規

15(13.8%)

18(16.5%)

28(25.7%)

10(9.2%)

15(13.8%)

1(0.9%)

7(6.4%)

6(5.5%)

0(0.0%)

0(0.0%)

9(8.3%)

109(100.0%)

派遣

6(14.3%)

9(21.4%)

11(26.2%)

7(16.7%)

6(14.3%)

2(4.8%)

1(2.4%)

0(0.0%)

0(0.0%)

0(0.0%)

0(0.0%)

42(100.0%)

試用期間

5(16.1%)

8(25.8%)

5(16.1%)

6(19.4%)

2(6.5%)

2(6.5%)

2(6.5%)

0(0.0%)

0(0.0%)

0(0.0%)

1(3.2%)

31(100.0%)

その他

0(0.0%)

0(0.0%)

1(100.0)

0(0.0%)

0(0.0%)

0(0.0%)

0(0.0%)

0(0.0%)

0(0.0%)

0(0.0%)

0(0.0%)

1(100.0%)

不明

0(0.0%)

0(0.0%)

0(0.0%)

0(0.0%)

0(0.0%)

1(100.0%)

0(0.0%)

0(0.0%)

0(0.0%)

0(0.0%)

0(0.0%)

1(100.0%)

合計

33(9.5%)

43(12.4%)

84(24.3%)

45(13.0%)

47(13.6%)

18(5.2%)

29(8.4%)

17(4.9%)

1(0.3%)

1(0.3%)

28(8.1%)

346(100.0%)

確かに正社員は直用非正規や派遣よりも高くつきます。

それでも、4分の1は10万円台、そして大部分はその前後の金額で決着しています。

裁判所でとことん闘う人々だけ見ていると見えなくなる、日本社会の姿がここにあります。

(参考)

ちなみに、こういう事案はどういう理由でクビになっているかというと、こちらのエントリにずらっと並んでいます。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/02/post-a1c3.html(解雇するスキル・・・なんかなくてもスパスパ解雇してますけど)

これもほんのさわりです。全体の詳細は、繰り返しで恐縮ですが、近日刊行の『日本の雇用終了』をお読み下さい。

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コメント

> 何ヶ月も何年もの莫迦高い「機会費用」を払って、解雇の不当性を訴える極めてごく少数の奇特な労働者

> ほかのもっと有益なことにいろいろ使えたはずの自分の人生のとても大切な一時期を、会社相手の裁判闘争に費やそうというような労働者にぶち当たった不運な使用者

う〜ん(>_<)

社会正義を実現するために、自分を犠牲にしてでも不当解雇ととことん闘う労働者を、十把一絡げに馬鹿にしたような言いまわし…

話を分かりやすくするためにわざとそうされているのでしょうけれど、ちょっと残念です。


ロースクール時代から楽しく読ませて頂いています。
この人の記事は仮処分を起こせば,労働者は賃金の二重払いを受けられる,というのが見所なので「その通り」とは言いがたいのでは。
記事は後で言い訳を補足していますが,やはり事実上二重払いを免れられないような書き方をしています。

当方は一ハローワーク職員ですが、会社は解雇をすると一定期間雇用助成金が受けられなくなるので、そうした助成金を利用している会社は労働者を形の上では解雇せず、さまざまな形で自己都合退職に追い込む、というのが実態としてはかなりあるという印象があります。
失業して雇用保険を受ける際は、自己都合退職となると解雇より格段不利になるのですが。

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