宮本太郎氏のいらだち@『世界』3月号
募集採用をめぐって話題を呼んだ岩波書店ですが、その『世界』3月号が「何のための「一体改革」か──税と社会保障を考える」という特集を組んでいます。
http://www.iwanami.co.jp/sekai/
【負のスパイラルを打開する】
「一体改革」を新しい構造改革へ
宮本太郎 (北海道大学)【執筆者からのメッセージ】【どのような社会を望むか】
ポスト成長時代の社会保障──トータルな社会構想と税のビジョンを
広井良典 (千葉大学)【ベターな税のあり方とは】
法人税減税の「嘘」──「負担増」論議から抜け落ちる企業の負担
西井泰之 (朝日新聞)【消 費 税】
民主党はなぜ消費増税に舵を切ったのか
峰崎直樹 (元参議院議員)
という記事の中で、ここではやはり宮本太郎さんの文章を取りあげます。
増税賛成・反対論議が政治の争点とされ、肝心の「一体改革」の目標が後景に退きつつある。
かつて日本を席巻した構造改革論は、「財政の持続可能性」のみを重視し、様ざまな制度構造を市場原理で置き換えた。現在、私たちが直面しているのは、その結果としてさらに広がった行政不信、そして貧困であるといえよう。
財政的制約を超えて、社会と経済をいかに再構築するか──この難題はグローバルに共有され、アングロサクソン型であれ、北欧型であれ、既存の仕組みに解決のモデルは求められなくなっている。では、本当の構造改革につながる道をどう確保していくのか? 「社会保障改革に関する有識者委員会」座長を務めた著者が、改革のビジョンを振り返りつつ提言する。
この要約にもにじんでいますが、本文を読むと、より強くいらだちの気持ちが顕れています。
振り返れば、宮本さんが与謝野大臣に呼ばれてこの改革に関わりだしたのは、自公政権の時だったわけですが、
・・・こうした「一体改革」の意義を考えると、この議論が、自民党政権が新自由主義的な構造改革路線からの転換を図り始めた時期に始まったのは偶然ではない。2008年に福田内閣時の「社会保障国民会議」が社会保障改革の道筋を示し、2009年には麻生内閣下の「安心社会実現会議」委置いて、社会保障と雇用の連携や税制改革との一体性が打ち出された。
この流れは政権交代を経て一旦絶たれたように見えたが、民主党の政権公約が困難に直面する中、菅内閣の下で再び政権の課題に据えられた。・・・
だが思い返すと、「集中検討会議」の議論のさなかに東日本大震災が起きた頃から、「一体改革」の流れにぶれが目立つようになった。震災後は、財源逼迫が叫ばれ、社会保障の効率化と給付削減ばかりが強調されるようになった。そして、解散総選挙の可能性も取り沙汰される中、最終盤の議論になると、今度は逆に負担の先送りばかりが目立つようになった。・・・
まともに動き出すと、かならずおかしな(信念に満ちた)連中によって妨害されてばかり・・・という、宮本さんのいらだちが伝わってきますね。
真の改革を邪魔するのは、そういう聞き分けのない分からず屋ばかりではありません。
・・・また、全世代対応の社会保障のもう一つの柱は、若年層を中心とした就労支援、積極的労働市場政策である。・・・
しかしながら、「成案」にも「素案」にもこの分野への具体的支出については一切触れられていない。実は「有識者検討会」の報告書を準備していた段階から、就労支援や積極的労働市場政策を「一体改革」の項目に挙げようとしても、財務省の堅いガードに跳ね返された。・・・
そして、今日の政局の下で、よりいっそう悪質で事態を悪化させるような議論がまかり通るようになってきています。
2012年の年明けの政局に立ち戻るならば、一方では「社会の持続可能性」の危機を軽視し、経済成長が全てを解決するといった議論が根強い。・・・他方では「財政の持続可能性」を無視した社会保障改革論も相変わらず多い。異なっているはずの立場が奇妙に共鳴して、反税ポピュリズムが強化されていく可能性もある。
可能性、どころか、今まさに目の前にあるのは、こういう本質的に相容れないはずなのに「共鳴」しあっているポピュリズムの様々な意匠なのでしょう。
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