拙著短評+契約期間短縮による雇止めの効力
拙著『日本の雇用と労働法』について、事務屋稼業さんがついったで短評していただいていたことに気づきました。
http://twitter.com/#!/jimuyakagyo/status/158181419850539008
>濱口桂一郎『日本の雇用と労働法』読了。日本的雇用の本質を「職務の定めのないメンバーシップ型」とし、法と判例を引きつつその来歴を語る。特定のイデオロギーを喧伝するものではなく、雇用における制度と「世間」の通念のありよう(おもに後者の優越)を明瞭にあぶり出している。好著です。
好意的な書評をいただきありがとうございます。
というだけだと、いつものエゴサーチ結果だけなんですが、この事務屋稼業さんの前後のついったをぱらぱら見ていたら、
http://twitter.com/#!/jimuyakagyo/status/159244986259476481
>派遣切りの話。直属の上司や役員をまじえて討議の結果、ふたりのうちひとりを「切る」ことに。無念。
http://twitter.com/#!/jimuyakagyo/status/159251908102594561
>「こんなときは真っ先に切られる。派遣ってそういうもんだからな」と役員。ちみっとキレて、「当人たちはそんなつもりで働いてるわけじゃないと思いますけどね」と言い返して黙らせた。俺の抵抗なんかこんなもんです。こんなもんですよ。
http://twitter.com/#!/jimuyakagyo/status/159254999929585664
>契約期間を短縮というか圧縮したのですよ。両社および当該派遣社員が書面にて「合意」の上で。そんなもんです。RT @tobetobetombe: よくわからない。派遣って、期間が決められてる契約。それを途中で切るとは?
http://twitter.com/#!/jimuyakagyo/status/159256632478539777
>6カ月ごとの契約を2カ月ごとに圧縮→3月いっぱいで契約終了ハイサヨウナラ、というだけの簡単なお仕事です。
http://twitter.com/#!/jimuyakagyo/status/159257475755950081
>書面上は契約破棄ではないのですよ。巧妙なことに。単に契約期間を「変更」しただけ、ということになっております。RT @tobetobetombe: ちなみに、そうした場合は、解除側が補償というか、契約破棄に対するキャンセル料的なものの支払いはあるんでしょうか?
http://twitter.com/#!/jimuyakagyo/status/159259661122543618
@bunz0u そうですね。使えないから切るとかいうわけでは決してないので、あとは派遣会社の担当者に対して、彼のスキルに太鼓判を押しておくとか、僕にできるのはその程度です…
せっかく書評していただいたので、労働法の実務的なことを。
これはけっして「単に契約期間を「変更」しただけ」と言うわけには逝かないように思われます。
これと似たようなケースがアンフィニ事件(東京高決平21.12.21労働判例1000-24)です。
>(1) 疎明資料によれば、平成21年3月ころ、資生堂から相手方に対し、本件工場の勤務時間が変わり、発注額の減少が見込まれる旨の通知がされたこと、そこで、相手方は、従業員との間で既に締結されていた、期間を同年1月1日から1年間とする契約を、期間を2か月とする契約に変更することとしたこと、同年4月9日、相手方の営業所の課長であるIは、藤沢労働基準監督署を訪れ、退職者募集の場合の上積み条件の要否、整理解雇の場合の人選基準、解雇の場合のスケジュール等について相談したことが一応認められ、相手方が解雇の対象者を選定する基準として、入社半年以内の者及び出勤率の低い者から順に20名に満つるまでとしたこと、相手方は同年4月10日ころ、本件工場に勤務する従業員全員を一人づつ順次呼び、契約期間を同月1日から同年5月31日までに変更する契約(本件契約)を締結したこと、同年4月13日及び同月15日に退職希望者の募集がされたこと、同月17日、相手方が抗告人Aら5名を含む22名の従業員に対し、解雇の通知をしたことは前記前提事実のとおりである。
(2) 上記の事実関係によれば、相手方は、資生堂からの受注の減少が続くことを見込み、本件事業所に勤める従業員の約3分の1に当たる20名程度の従業員を削減するため、退職希望者の募集及び整理解雇を行うこととし、整理解雇の対象者が解雇の効力を争っても、当該従業員について雇止めとすることにより同年5月31日には確実に雇用関係を終了させる目的で本件契約を成立させたものと推認することができる。
これに対し、疎明資料によれば、抗告人らは、相手方が鎌倉工場における就労者の雇用者となった平成18年6月以降、相手方と雇用契約を継続し(多くの者は、それ以前から同工場で就労していた。)、平成21年についても、既に前年の期間を1年間とする契約を更新して、契約期間を同年12月末日までの1年間とする雇用契約を締結していたことが一応認められる。したがって、抗告人らは、その期間の途中で契約期間を短縮する合意をしたからといって、同日までは契約が更新されるものと期待して当然であり、少なくとも、本件契約を締結することにより同年5月31日に雇止めとされることを予期し得なかったことは相手方においても認識していたものと推認されるところ、相手方が本件契約を締結するに当たり、抗告人ら従業員に対し、契約期間の途中にその期間を変更する趣旨を十分に説明したことを認めるに足りる疎明はなく、むしろ、疎明資料によれば、相手方の担当者は、就業時間の変更についての説明に重点を置き、契約期間変更の趣旨については、その質問をした者に対しても、曖昧な返答をするにとどまったことが一応認められる。
以上の諸点を総合すると、契約期間を同年5月31日までと変更することが、抗告人ら従業員には現実にも著しく不利益となるにもかかわらず、相手方がそのことを抗告人らに告げずに本件契約を成立させたことは、著しく不当であり、相手方が、抗告人らの意思に反して、本件契約後最初の期間満了の日である同年5月31日をもって更新を拒絶し、雇止めとして雇用契約を終了させることは信義則上許されないというべきである。
なお、疎明資料によれば、抗告人らは、相手方から解雇された後、相手方に対し、有給休暇の買取りを求め、相手方がこれに応じたことが一応認められるが、上記の経緯に照らせば、これをもって雇用契約終了の合意がされたと認めることはできない。
(3) 以上によれば、相手方が抗告人らについて同年5月31日をもって雇止めとすることはできず、抗告人らは同日以降も賃金請求権を失わない。
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判例のご紹介、ありがとうございます。
なにぶんその場の怒りにまかせてつぶやいたものなので、「圧縮」云々については、やや舌足らずな面がありました。
まず、当該派遣社員は弊社に派遣されて以来、6 カ月ごとのサイクルで契約を更新していました。それが一旦切れるのが今年の1月末で、次は7月末までの契約なんだろうと思っていたら、今回の契約時には2カ月後の3月末までに 「圧縮」されていた、ということです。
ご紹介くださった判例とは微妙に異なるように思われますが、素人ゆえ判断いたしかねます。
また、これは別の問題になりますが、仮に違法性を指摘できるとしても、裁判その他に要するさまざまな負担を考えると「泣き寝入り」せざ るをえない現状というのもあろうかと思いま す。おそらく裁判で争われるのは、氷山の一角なのでしょう。 もちろん現状を是とするつもりは毛頭ありません。
投稿: 事務屋 | 2012年1月19日 (木) 15時28分
ああ、「それを途中で切るとは」「契約期間を短縮というか圧縮したのですよ」というやりとりで誤解していました。
従前の契約が一応終わったところでそれまでより短い契約を結んで雇止めするということですね。
確かに、上で引用した判例とは異なります。
こういう事例としては、ヘルスケアセンター事件(横浜地判1999年9月30日労働判例779号61頁)が、1年契約を4回更新した後6か月契約になり、3か月契約になって雇止めされたというがありますが、やはりちょっと違うようです。
>医薬品の調剤を業とする会社Yで期間を一年とする雇用契約のもとで薬剤師として勤務し、唯一の契約社員であった労働者Xが、右契約を四回更新した以降、期間を六か月に短縮されて契約を更新したが、Yでは通院患者の減少等に伴い経営状態が悪化したこともあって、社長の指示により副社長から、期間を三か月として契約更新しこれをもって終了させるということが事前に説明されたが、更新時において社長から期間満了により終了することが告げられなかったため、異議も唱えず期間を三か月とする契約を更新したところ、右期間満了時に雇止めされたため、本件雇止めは解雇権の濫用であり無効であるとして、雇用契約上の地位の確認及び賃金支払を請求したケースで、本件雇止めは、今直ちに人員削減の必要性があるとは認められず、合理的な理由がないとして更新拒絶権の濫用で無効であるとして請求が一部認容された事例。
投稿: hamachan | 2012年1月19日 (木) 16時46分