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過労死企業名公表訴訟判決

昨年11月10日の大阪地裁判決(行政文書不開示決定取消請求事件)が最高裁HPにアップされました。

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120119151418.pdf

その時の新聞記事で概要を見ておくと、

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/111110/trl11111021570008-n1.htm(企業名の開示命じる「不開示情報に当たらず」と大阪地裁)

>社員が過労死認定を受けた企業名を大阪労働局が開示しなかったのは不当として、「全国過労死を考える家族の会」代表、寺西笑子(えみこ)さん(62)=京都市伏見区=が、国に不開示処分の取り消しを求めた行政訴訟の判決が10日、大阪地裁であった。田中健治裁判長は「個人や法人の利益を害する不開示情報には当たらない」として、労働局の決定を取り消した。弁護団によると、過労死認定を受けた企業名の公表を命じる判決は全国で初めて。

 情報公開法で不開示が認められている個人情報や法人の利害情報に、企業名が該当するかどうかが最大の争点だった。

 判決理由で田中裁判長は「企業名だけで、過労死した労働者を特定することはできない」として、個人情報には当たらないと判断。法人の利害情報か否かについて、国側は「企業名が明らかになれば取引先から不利な扱いを受け、人材確保の面でも影響が出る」と主張したが、田中裁判長は「企業評価に直結する情報とはいえず、抽象的なリスクに過ぎない」と退けた。

重要なのは「法人の利害情報」というところなので、そこを判決から引用しますと、

>被告は,本件文書に記載されている事業場名が開示されれば,労働災害を発生させた事実のみから法令違反の事実の有無にかかわらず法令を遵守しない事業場であると認識され,当該事業場に対する社会的評価が低下する旨主張する。

この点につき検討するに,近時,企業における法令遵守が重視され,労働者の職場環境に対する関心の高まりもあいまって,過労死等の労働災害認定を巡る紛争等が報道されることも多く,その中には使用者側に対し批判的な報道がされることも少なくないこと,労働者が過重労働により死亡や発病等した事案では長時間の勤務がその一要因と思われるものも少なくないこと等の事情からすると,ある事業場において過重業務に起因する脳血管疾患及び虚血性心疾患等の発症及びそれに基づく死亡等の労働災害が発生したという事実が明らかになれば,そのこと自体から当該事業場について一定の社会的評価の低下が生じる可能性は否定できない。しかしながら,労働者災害補償保険制度は,業務上の事由又は通勤による労働者の負傷,疾病,障害,死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため,必要な保険給付を行い,あわせて,業務上の事由又は通勤により負傷し,又は疾病にかかった労働者の社会復帰の促進,当該労働者及びその遺族の援護,労働者の安全及び衛生の確保等を図り,もって労働者の福祉の増進に寄与することを目的とするものであり(労災保険法1条),その支給決定に当たって使用者に労働基準法等の法令違反があったか否かを問題とするものではないから,ある事業場における労働災害に対して労災補償給付の支給決定がされたとの事実が当該事業場において法令違反行為が存在したことを意味するものではなく,当該事実自体は当該事業場に対する社会的評価の低下と直ちに結びつくものとはいえないところであって,当該事実が明らかになることにより一定の社会的評価の低下が生じ得るとしてもそれは多分に推測を含んだ不確かなものにすぎないといえる。さらに,本件で問題となっている脳血管疾患及び虚血性心疾患等そのものは,労働時間等の労働環境以外に年齢,生活習慣等の様々な要因が影響するものとされており,一般的には単純に労働時間の長短や労働環境の影響のみによって発生するものとまで認識されてはいないものと解されるところである。

また,上記説示の諸点に照らせば,仮に労働災害に対して労災補償給付の支給決定がされたという事実により一定の社会的評価の低下が生じたとしても,そのことが直ちに当該事業場が取引先からの信用を失い,あるいは,求職者から当該事業場への就職を敬遠されるような事態を招く蓋然性が存するものと認めるに足りる的確な証拠はなく,そのようなおそれはあくまでも抽象的な可能性にすぎないものというべきである。

(3) したがって,本件文書中の事業場名は情報公開法5条2号イ所定の不開示情報には当たらず,この点に関する被告の主張は理由がない。

情報公開と社会的評価の低下のリンケージについて、やや否定的な判断をもとにこういう判決になっているわけですが、そして判決文に見られる原告の主張もそうなっているのでそれを受け入れる形でこういう判断になっているわけですが、しかし原告側の本音としては、過労死を発生させたような企業の社会的評価を低下させたい、それによって過労死を発生させるような労働環境をなくしたいということではないかと思われるので、やや本音の議論と法律論とがずれている感がないでもありません。

まあ、その辺をうまく回してこういう判決を勝ち取るのが腕のいい弁護士ということになるのでしょうが。

私としては、むしろ情報公開法時代においては企業名公表が原則で、公表しない方が例外ということが着々と進んでいるという印象を受けました。

話は飛ぶように見えますが、今回法改正予定の高齢法では、65歳継続雇用をしない企業名の公表というのが入っています。実は昔、60歳定年法で企業名公表というのをいれたことがありますが(実は私も担当者でしたが)、その時の感覚では、企業名というのは公表しないのがデフォルトで、公表する方が例外という感じだったので、その例外である企業名公表というのが、まさに「企業の社会的評価を低下させるぞ」という脅しとして使えるということで、制裁規定として設けられたという風に思います。

ところが、情報公開法により公表がデフォルトだとすると、わざわざ個別法で「やらない奴は公表するぞ」と規定することの意味は何なのか?という結構深刻な問題が出てくるように思われます。いや、障害者雇用率ではすでに起こっている問題ですが。

このあたり、統一的な観点からきちんと議論しておく必要性があるのではないでしょうか。

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