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2012年1月14日 (土)

「成長」は左派のスローガンなんだが・・・

欧州社会党のメルケル・サルコジ路線に対する批判の文の中にも、

http://www.pes.org/en/politicalinitiative/economy/rescue-plan-for-eurozone(A rescue plan for the eurozone)

>The measures outlined so far in the economic governance package focus mostly on bringing national deficits down, with no regards to growth and jobs. While there is a need to keep national budgets under control, this cannot be the only objective of economic policy. Other than the fact that austerity measures tend to aggravate economic downturns, the EU cannot neglect the need to create jobs and spur growth to tackle the crisis. There should be a policy of investment in key sectors that can create new jobs and pave the way to a sustainable growth.

経済ガバナンスパッケージで示されている措置は、成長と雇用に何の配慮もなく、主に国の財政赤字を減らすことに焦点を当てている。国の財政をコントロールの下に置く必要はあるが、これは経済政策の唯一の目的ではあり得ない。緊縮措置が景気後退を悪化させるという事実だけではなく、EUは危機に取り組むために雇用を創出し成長を促進する必要があるということを無視している。新たな雇用を創出し持続可能な成長への道を切り開く鍵となる分野への投資の政策があるべきだ。

いうまでもなく、ヨーロッパでは、これが左派の代表的な発想なのであって、それがねじれている日本は、さて誰に責任があるのでしょうかね。

http://blogs.yahoo.co.jp/zhang_r/30072767.html(まあ賛成なんですよ )

>結局のところ、「経済成長」という言葉を出来る限り使わないで、みんな生活が今より楽になるという話を具体的にしてほしいわけです。そういう話をちゃんとすれば、反成長論なんて一部の文化左翼以外にきれいさっぱりいなくなると思いますけど、 「経済成長」をマジックワードで振り回している人が竹中氏や橋下市長に好意的なまなざしを向けているうちは、まあダメでしょうね。

http://blogs.yahoo.co.jp/zhang_r/30061056.html(さすがにもうやめないと )

>あの周辺の人たちは、それ自体根拠のありそうな「誤解」については大激怒するのに、リフレ政策に賛成していないあらゆる人を反成長論者呼ばわりという、誤解以前のレッテル張り。だから、「経済成長を語る人が割とろくでもない」ので、経済成長って言いたくないんですよ。

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コメント

日本では、経済(実質GDP)が成長したにもかかわらず労働者の生活水準は下落しました。その辺から、経済成長を疎むような論調が出てくるのかもしれません。

OECDの統計によると、日本は実質GDPだけが成長し、名目GDPはゼロ成長です。名目GDPが成長しないと給与は下がります。給与は下がったにもかかわらず、消費者物価はほとんど下がらなかったので、生活水準が落ちたのです。

実質GDPが成長し、名目GDPが成長しないということは、生産数量だけが増え、製品価格が下がったということです(液晶TVの価格が低下したことを想像して下さい)。GDPデフレーターは下り、物価は下がりました。物価といっても、輸出価格あるいは工業製品(例えば液晶TV)の価格が下がっだけです。日用品や消費者サービスの価格(消費者物価)は下がりませんでした。

デフレ経済下(GDPデフレーターが下落)では、実質GDPの成長が生活水準の下落と雇用の悪化に繋がったということです。

以下、2000年~2008年における名目GDP、実質GDP、GDPデフレーター、消費者物価指数、および給与の変化を日米仏で比較します。データは2000年基準=1として指数化し、2008年の指数値で表示します。給与はOECD.Statにおける2008年の”Wages and salaries”(指数値)を示します。

日本
名目GDP;1.003
実質GDP;1.102
物価指数;0.910
消費者物価指数(CPI):0.991
給与;0.968

米国
名目GDP;1.436
実質GDP;1.172
物価指数;1.226
消費者物価指数(CPI):1.249
給与;1.357

フランス
名目GDP;1.310
実質GDP;1.134
物価指数;1.183
消費者物価指数(CPI):1.166
給与;1.352

米国やフランスでは、名目GDPの成長に伴って給与が増え、給与の上昇幅が消費者物価指の上昇幅を大きく上回ったため生活水準は向上したのです。

投稿: hiro | 2012年1月15日 (日) 00時41分

経済成長、反原発、地方分権・・・。一見正論で誰も反対できないようにみえる言葉は、その詳細を考えないと意味がないのに、論争相手にレッテル張りをして論争に勝ったようにみせかけるマジックワードとして使われてしまっていることに問題があるのでしょう。論者の主張の詳細、すなわち規制緩和、小さな政府や日銀の直接国債引き受けで本当に経済成長をすることができるのか、歴史的には権丈教授のいう、古くも新しい詐欺話にすぎないことを一つ一つ示していくことで反論していくしかないのでしょう。また、小泉政権のときのように労働分配率が低下して経営者、投資家だけが経済成長の恩恵を得るような状況はおかしい。社会的に公正な経済成長が必要なのであって、経済成長そのものを否定しているのではないことも言っておかなくてはいけないでしょう。

投稿: dermoscopy | 2012年1月18日 (水) 22時39分

前回コメントの補足として、実質GDPおよびGDPデフレーターの意味を明らかにする。今回のコメントは、別のエントリー“スマイル0円が諸悪の根源”で筆者が投稿したコメントの再掲と重なっている。

OECDのデータより、2000年/2005年/2008年の名目GDP、実質GDP、GDPデフレーターを表示する(注1)。実質GDPは2000年基準とする。
(OECD.Stat > Economic projections > Economic Outlook No.90による)

名目GDP(兆円)・・・・・503.0 / 501.7 / 504.4
実質GDP(兆円)・・・・・503.1 / 536.8 / 554.1
GDPデフレーター・・・・・1.000 / 0.935 / 0.910

通常、実質GDPは毎年の成長率で表現され、“実質GDPの成長率”は次式で表される。
実質GDP成長率=名目GDP成長率-物価上昇率

ここでは、上記OECDのデータに示した、基準年に対する実質GDPの意味を明らかにする。実質GDPは、基準年との相対値で表示される(注2)。実質GDPは、基準年に対して物価上昇がないとした場合、生産数量がどのくらい増えたかを示す値である。

簡単のため単一製品を生産する経済を考える。基準年(例えば2000年)の名目GDPをN、物価をP、生産数量をVとすると、N=PVである。2001年の名目GDPの増分をΔN、物価の増分をΔP、生産数量の増分をΔV、とすると、2001年の名目GDPは次のように書ける。
N+ΔN=(P+ΔP)・(V+ΔV)
ΔN=P・ΔV+V・ΔP

基準年の実質GDPをRとすると、基準年においてN=Rである。実質GDPの定義より、2001年の実質GDPは次のように書ける。
R+ΔR=P・(V+ΔV)

GDPデフレーターは、名目GDPと実質GDPの比として定義される。従って、2001年のGDPデフレーターは次式で表される。
GDPデフレーター=(P+ΔP)・(V+ΔV)/ {P・(V+ΔV)}
=1+(ΔP/P)

(ΔP/P)は物価の上昇率であるから、
GDPデフレーター-1=物価上昇率

である。物価上昇率がプラスなら、GDPデフレーターは1より大きく、物価上昇率がマイナスなら、GDPデフレーターは1より小さくなる。

2001年の名目GDPの式において、両辺をN=PVで割ると、次式が得られる。
(ΔN/N)=(ΔP/P)+(ΔV/V)

一方、2001年の実質GDPの式において、基準年においてN=Rであるから、両辺をR=PVで割ると、次式が得られる。
(ΔR/R)=(ΔV/V)

従って、
(ΔN/N)=(ΔP/P)+(ΔR/R)

である。この式は、
名目GDP成長率=実質GDP成長率+物価上昇率

を表し、最初の実質GDP成長率と名目GDP成長率の関係式に帰着する。

以上の議論により、基準年に対する実質GDPの意味およびGDPデフレーターの意味が明らかになった。実質GDPは物価が変化しないとした時の基準年に対する相対的な生産数量である。

日本経済は、実質GDPが成長をしているにもかかわらず、名目GDPがゼロ成長であるという点で異常である。2000年代以降、GDPデフレーターは持続的に減少し、デフレ経済下にある。

実質GDPだけが成長し、名目GDPがゼロ成長であるということは、生産数量は増えたけれど、値段が下がったため、付加価値の成長はなかったということである。生産数量だけが増え続け、値段が下がり続けるという経済は異常である。

企業活動に例えると、売上数量は増えたが値が下がったため売上は増えなかったということである。売上が増えない中で利益を出すために、コストダウンをせざるを得なかった。給与が減り、雇用環境が悪化した背景にはこのような事情があった。

2000年代を通して日本はデフレ経済下にあった。しかし、デフレ経済の異常を認識しようとせず、経済政策の無謬性を主張する論調が優勢である。

日本はデフレなのかと開き直る論:
池田信夫、“日本はデフレなのか”、アゴラ
http://agora-web.jp/archives/1112224.html

デフレで何が問題なのと開き直る論;
小幡績、「デフレとは何か」、ブロゴス
http://blogos.com/article/11168/

また、生活水準は実質GDPの成長によるという論調もよくある。確かに、欧米のように名目GDPの年間成長率が3~5%の諸国では、物価も上昇するため実質GDPが生活水準(実質賃金)の決定要因になる。しかし、日本のようなデフレ経済下にあっては、名目賃金の下落の方が消費者物価の下落より大きい。日本では実質GDPが成長しているにもかかわらず、生活水準は下がっているのだ。生活水準は実質GDPの成長によるという論を暗に日本に当てはめて論ずる経済学者も多い。以下の記事でこのような主張を展開している。

小黒一正、「国民一人あたり実質GDP」vs「労働者一人あたり実質GDP」、ブロゴス
http://blogos.com/article/10862/

池尾 和人、“退屈な低成長の時代”、アゴラ
http://agora-web.jp/archives/1414823.html

wasting time氏、“名目賃金だって実質成長で決まる”、ブロゴス
http://blogos.com/article/12541/

(注1)OECDのデータで実質GDPは”Gross domestic product, volume, market price”と表記され、名目GDPは”Gross domestic product, value, market price”と表記されている。英語の表記は、実質GDPの意味を的確に表している。

(注2)内閣府は2004年より、実質GDPの算出方式を連鎖方式に変更した。連鎖方式は基準年を前年とし、基準年を更新する方式である。OECDの統計では、固定基準年方式で表示している。

投稿: hiro | 2012年1月23日 (月) 00時41分

賃上げ要求はスタグフレーションの引き金になるのか

2012年春闘は、連合の給与総額1%引上げの要求に対して、経団連は定期昇給の凍結も含めて議論すべきだとしている。大震災からの回復を急ぐ産業界にあって、円高や欧州危機の影響もあって経営環境は厳しさを増している。

池尾和人先生は、資源価格の上昇などのコストアップ要因がある中で、時間あたり賃金の引上げが行われるとコストプッシュ型のインフレーション(従って、スタグフレーション)になり得ると、次のように警告している(注1)。

>要するに、資源価格の上昇による実質所得の低下が生じているときに、・・・・率直に実質所得の低下を受け入れようとはせず、賃上げが実行されるならば、そうした事態(スタグフレーション)もあり得るということになる。

以下、池尾先生の論説を要約する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
生産物の価格を費用面から見るとき、生産物1単位あたりのコストは“労働コスト+非労働コスト+利潤”からなる。このうち、(非労働コスト+利潤)の労働コストに対する比率γをマークアップ率という。
γ=(非労働コスト+利潤)/ 労働コスト・・・・・(1)

このとき、生産物1単位あたりの価格は、次のように書ける。
価格=(1+γ)*単位労働コスト・・・・・(2)

一方、時間あたりの賃金は、次のように書ける(注2)。
時間あたりの賃金=労働生産性*単位労働コスト・・・・・(3)

従って、(2)式と(3)式より、次式が導かれる。
時間あたりの賃金 / 価格=労働生産性 /(1+γ)・・・・(4)

(時間あたりの賃金 / 価格)は“実質賃金率”と呼ばれ、労働生産性を上昇させない限り、マークアップ率の上昇(原材料費の上昇)は実質賃金率の下落で吸収せざるを得ない。

もし、実質賃金率の低下(実質所得の低下)を受け入れないならば、コストプッシュ型のインフレーション(スタグフレーション)もあり得る。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

上記は、筆者の理解によるところである。

しかし、資源価格の上昇は、日本に限らずどこの国でも同じである。日本に限って、賃金の上昇が許されないなどという話はないだろう。調べてみよう。

式(2)の両辺を指数化(当該年の基準年に対する相対値)すると、次のように書ける。
物価指数=(1+γ)の指数値*単位労働コスト指数・・・・・(5)

ここで指数値は、例えば2000年の値を基準とする2007年の相対値である。物価指数として様々な指数があるが、池尾先生が実質所得について述べている趣旨からすると、消費者物価指数(CPI)を考えるのが妥当だろう。

OECDのデータより、CPIおよび単位労働コストの2007年の指数値(2000年基準=1)を式(5)に代入して、(1+γ)の指数値を計算する。マークアップの上昇率を日、米、仏、独、韓で比較評価する。ここで使うOECDのデータは(注2)を参照のこと。

日本(2000年基準、2007年指数値)
消費者物価指数・・・・・・・・0.978
単位労働コスト・・・・・・・・0.869
(1+γ)・・・・・・・・・・・・1.125

米国(2000年基準、2007年指数値)
消費者物価指数・・・・・・・・1.204
単位労働コスト・・・・・・・・1.154
(1+γ)・・・・・・・・・・・・1.043

フランス(2000年基準、2007年指数値)
消費者物価指数・・・・・・・・1.134
単位労働コスト・・・・・・・・1.149
(1+γ)・・・・・・・・・・・・0.987

ドイツ(2000年基準、2007年指数値)
消費者物価指数・・・・・・・・1.120
単位労働コスト・・・・・・・・0.965
(1+γ)・・・・・・・・・・・・1.161

韓国(2000年基準、2007年指数値)
消費者物価指数・・・・・・・・1.235
単位労働コスト・・・・・・・・1.258
(1+γ)・・・・・・・・・・・・0.982

2000年におけるマークアップ率をγ、2007年におけるマークアップ率をγ+Δγとすると、
(1+γ)の指数値=(1+γ+Δγ)/ (1+γ)
=1+{Δγ / (1+γ)}

労働分配率は0.5近くにあるからγ=0.5でΔγを評価する。2000年から2007年にかけてのマークアップの上昇率(Δγ/γ)は次のように評価される。

マークアップ上昇率(2000~2007年)
日本(0.38)、米国(0.13)、フランス(-0.04)、
ドイツ(0.48)、韓国(-0.05)

ここで、生活水準を次式で定義する(以下ことわりなしに、すべてのパラメーターは指数値とする)。
生活水準=時間当たり賃金/ 消費者物価

(4)式の両辺を指数化すると次式が得られる。
生活水準=労働生産性 /(1+γ)・・・・・(6)

OECDのデータより、労働生産性の2007年の指数値(2000年基準=1)を(6)式に代入して、生活水準(指数)を評価する。また、労働分配率(指数値)およびGDPデフレーターを以下に併記する。これらのデータは後で、マークアップの上昇が何で吸収されるかを調べるために使われる。ここで使うOECDのデーターは(注2)を参照のこと。

日本(2000年基準、2007年指数値)
労働生産性・・・・・・・・・・・・1.152
労働分配率・・・・・・・・・・・・0.943
GDPデフレーター・・・・・0.920
生活水準・・・・・・・・・・・・・・1.024

米国(2000年基準、2007年指数値)
労働生産性・・・・・・・・・・・・1.154
労働分配率・・・・・・・・・・・・0.963
GDPデフレーター・・・・・1.199
生活水準・・・・・・・・・・・・・・1.106

フランス(2000年基準、2007年指数値)
労働生産性・・・・・・・・・・・・1.104
労働分配率・・・・・・・・・・・・0.995
GDPデフレーター・・・・・1.154
生活水準・・・・・・・・・・・・・・1.119

ドイツ(2000年基準、2007年指数値)
労働生産性・・・・・・・・・・・・1.127
労働分配率・・・・・・・・・・・・0.898
GDPデフレーター・・・・・1.075
生活水準・・・・・・・・・・・・・・1.006

韓国(2000年基準、2007年指数値)
労働生産性・・・・・・・・・・・・1.353
労働分配率・・・・・・・・・・・・1.071(注3)
GDPデフレーター・・・・・1.174
生活水準・・・・・・・・・・・・・・1.110

単位労働コストに関して、労働分配率=(雇用者報酬 / 名目GDP)として、次式が成立する(注2)。
単位労働コスト=労働分配率*GDPデフレーター・・・・(7)

式(7)を式(2)に代入すると、次式を得る。
(1+γ)=消費者物価 / (労働分配率*GDPデフレーター)・・・(8)

式(5)で既に(1+γ)を評価したが、式(8)を使うことにより検算することができる。誤差範囲で一致する。

式(8)より、マークアップの上昇は労働分配率の下落およびGDPデフレーターと消費者物価指数との乖離によって吸収される。

日本およびドイツでは、マークアップの上昇率が大きい。日本では消費者物価指数とGDPデフレーターの乖離が大きく、GDPデフレーターの消費者物価指数に対する相対的下落率は0.941である。

また、労働分配率の下落は0.943であるから、GDPデフレーターの消費者物価指数に対する相対的下落率とほぼ同じである。先に計算した(1+γ)の上昇1.125は、両方の要因がほぼ同程度ずつ寄与していることになる。

ドイツでは、消費者物価指数とGDPデフレーターの乖離はほとんどないため、(1+γ)の上昇は労働分配率の下落による。

上記の分析は、マークアップの中身に関するものではない。2000年から2007年の期間において、日本の労働生産性の上昇率は米国と同程度、フランスより大きい。しかし、日本では労働生産性の上昇が生活水準の上昇に繋がらなかった。(原材料費の上昇によるコストアップ要因はどの国にもあったはずである。)

むしろ、この期間、日本では人件費の抑制、非正規採用の増加、新規雇用の抑制、と雇用条件の悪化が進んだ。一方、企業は利益を増やし、株主への配当、役員報酬を上昇させ、内部留保を増やした。

「原材料費の上昇に対して、実質所得の低下を受け入れなければスタグフレーションもあり得る」という池尾和人先生の言説は脅し以外のなにものでもない。

(注1)池尾和人、“スタグフレーションはあり得るか(改)”、ブロゴス
http://blogos.com/article/9940/

(注2)hamachanブログのエントリー“ほんとうの日本問題とは人口問題なんだよ@クルーグマン”の筆者によるコメントを参照のこと。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/post-2030.html

(注3)OECDのデータで韓国の労働分配率は空欄になっている。ここでの労働分配率(指数値)は式(8)より計算により推定した。

投稿: hiro | 2012年2月 9日 (木) 01時31分

経済成長の要因分解

池尾和人先生は次式で経済成長を要因分解し、2000年代以降は労働人口が減少していくことから労働生産性の持続的上昇が不可欠であると指摘している(注1)。
実質経済成長率=労働生産性上昇率+労働力増加率・・・・・(1)

式(1)は、次式から導かれる(注2)。
実質GDP=労働生産性*総労働時間・・・・・(2)

この式で労働生産性は、単位労働時間あたりの実質生産数量である。ところで、名目GDPは次のように書ける。
名目GDP=実質GDP*GDPデフレーター

従って、式(2)は次のように書ける。
名目GDP=労働生産性*総労働時間*GDPデフレーター・・・・・(3)

このとき、名目経済成長の要因分解は次式で表される。
名目経済成長率=労働生産性上昇率+労働力増加率
+GDPデフレーター上昇率・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

OECDのデータから2000~2007年の日米仏の名目経済成長率の要因分解を比較する。

日本(年平均成長率;2000~2007年)
名目経済成長率・・・・・・・・・0.352
実質経済成長率・・・・・・・・・1.559
労働生産性上昇率・・・・・・・2.041
労働力増加率・・・・・・・・・・・-0.468
GDPデフレーター・・・・・・-1.184

米国(年平均成長率;2000~2007年)
名目経済成長率・・・・・・・・・5.082
実質経済成長率・・・・・・・・・2.348
労働生産性上昇率・・・・・・・2.065
労働力増加率・・・・・・・・・・・0.299
GDPデフレーター・・・・・・2.622

フランス(年平均成長率;2000~2007年)
名目経済成長率・・・・・・・・・3.929
実質経済成長率・・・・・・・・・1.816
労働生産性上昇率・・・・・・・1.420
労働力増加率・・・・・・・・・・・0.386
GDPデフレーター・・・・・・2.070

日本では労働力増加率のマイナスが実質経済成長率を下方に押下げているが、日本の労働生産性上昇率は米仏と比べても遜色はない。しかし、問題は名目経済がほとんどゼロ成長であるという点にある。

式(4)より、名目経済成長率の要因として、労働生産上昇率と労働力増加率に加えてGDPデフレーターの上昇率に分解される。日本の名目経済成長を抑制している要因として、労働力増加率の寄与もあるが、上記のデータから分かることは、最大の要因はGDPデフレーターの下落にある。

単位労働時間あたりの雇用者報酬を“賃金”と呼ぶとして、賃金の要因分解を考える。

雇用者報酬=労働分配率*名目GDP・・・・・・・・・・(5)

であるから、式(4)と式(5)より、賃金(単位労働時間あたりの雇用者報酬)の要因分解は次式で与えられる。

賃金の上昇率=労働生産性上昇率+労働分配率上昇率
+GDPデフレーター上昇率・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

消費者物価指数(CPI)の上昇率を差引いた実質賃金の要因分解は次式で表される。

実質賃金の上昇率=労働生産性上昇率+労働分配率上昇率
+GDPデフレーター上昇率-CPI上昇率・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

OECDのデータを式(7)に適用すると、実質賃金の上昇率は次のように評価される。

日本(年平均成長率;2000~2007年)
労働分配率・・・・・・・・・・・・・・・・・・・-0.834
賃金(時間あたり)・・・・・・・・・・・0.023
消費者物価指数・・・・・・・・・・・・・・・-0.317
実質賃金(時間あたり)・・・・・・・0.340

米国(年平均成長率;2000~2007年)
労働分配率・・・・・・・・・・・・・・・・・・・-0.541
賃金(時間あたり)・・・・・・・・・・・4.416
消費者物価指数・・・・・・・・・・・・・・・2.669
実質賃金(時間あたり)・・・・・・・1.747

フランス(年平均成長率;2000~2007年)
労働分配率・・・・・・・・・・・・・・・・・・・-0.067
賃金(時間あたり)・・・・・・・・・・・3.423
消費者物価指数・・・・・・・・・・・・・・・1.814
実質賃金(時間あたり)・・・・・・・1.609

式(7)より、実質賃金(時間あたり)の上昇率は、労働生産性の上昇、労働分配率の上昇、およびGDPデフレーターの消費者物価指数に対する相対的な上昇に依存する。

日本の実質賃金(時間あたり)が抑制された最大の理由は、消費者物価指数がほとんど下がらなかったのにGDPデフレーターが下落したことによる。すなわち、GDPデフレーターの下落に起因するところが最も大きい。

今後、雇用者あたりの年間労働時間が減ると同時に、高齢化によって労働力率が低下することが予想される。これらの要因を加味して式(7)に加えると、日本全体の生活水準の要因分解は次式で表される。

生活水準の上昇率=実質賃金(時間あたり)の上昇率
+年間労働時間上昇率+労働力率の上昇率・・・・・・・・・・・・・・・(8)

2010年代以降さらに日本経済は厳しくなることが予想される。生活水準の低下を防ぐためには先ずデフレから脱却し、時間あたり実質賃金を上げる必要がある。要するに、景気を引き上げる必要がある。また、労働力率低下のペースを落とす必要がある。労働力率の低下を防ぐためには、高齢者および女性の労働参加を促す必要もあるだろう。

池尾先生は、労働生産性の上昇が必要であると述べているが、日本では需給ギャップが大きく供給が需要を凌駕している。筆者は、デフレからの脱却により、需要が全要素生産性の上昇に繋がると考える。


(注1)池尾和人、経済成長の簡単な要因分解、ブロゴス
http://blogos.com/article/26422/?axis=b:197

(注2)式(2)で、A=実質GDP、B=労働生産性、C=総労働時間とする。それぞれの変数の年平均の増分をΔA、ΔB、ΔCとすると、
(1+ΔA / A )=(1+ΔB / B)*(1+ΔC / C)

である。ΔA、ΔB、ΔCが小さければ、高次の微小項は無視することができ、上式は次式で近似される。
ΔA / A=ΔB / B+ΔC / C

この式でΔA / A=実質経済成長率、ΔB / B=労働生産性上昇率、ΔC / C=労働力増加率であるから、式(2)から式(1)が導かれる。

投稿: hiro | 2012年2月22日 (水) 00時26分

デフレ容認論

2012年度~2013年度の国家公務員の給与を平均7.8%削減するという法案が衆議院で可決されたという。前原政調会長は、これだけひどい財政状況を考えれば、2年間でまた元に戻しますということにはならないだろうと述べている。国家公務員の給与削減は、地方公務員の給与にも、そして民間企業の労働者の賃金にも影響が及ぶだろう。日本経済はデフレスパイラルの縁に立たされている。

日本では1990年代半ばからマイルドなデフレが恒常的に続いている。その中で、デフレ容認論が幅をきかせてきた。彼らは給与が上がらなくても消費者物価が安定していれば問題ないという。デフレのスパイラルに落ち込めば、さらに給与所得は下がり雇用環境は悪化する。

かくも長きにわたって、日本国民がデフレを容認してきた理由がわからない。デフレを積極的に肯定するのか、敢えてデフレから脱却する必要はないというのか、あるいはデフレから脱却出来ないというのか、日銀はデフレから脱却しようとしているのか・・・その辺りがよくわからない。

デフレ容認の根拠を語る人はほとんどいない。そうした中で、小幡績先生は円高デフレを積極的に容認する理由を次のように語っている(注1)。

>円高デフレで、原材料コストと賃金コストを下げないと一定の価格競争力を維持できないのです。

>ちなみに、日本はデフレ傾向で賃金が下がってきていますが、それは90年代までの中高年の賃金が高すぎたことが原因です。だから生産性に応じた賃金が支払われるようになるというか、賃金が下がってくるのは仕方ないこと。それが構造変化・・・・

>対米輸出は85%がドル建てだったため円高になるとすごく困る。しかし対アジアの輸出は円建てが50%であるため円高になってもさほど困らない。

>日本が輸出しているものはプラントや基幹部品。・・・日本が輸出しているのはなくてはならない商品であるため円高でもそれほど価格変動はおおきくない。

>だから円高デフレは日本が生き抜く唯一の手段で、円高になればなるほど、外国の資産が買える。それで物も安く買えるし、リターンを得ることもできるわけです。

>ドル円が安いのは、ドルに要因があり、日本でじたばたしても何もできない。

>円高にはメリットも多く、原発事故後のエネルギー輸入コストの低下、資源、採掘権、関連企業の買収にもプラス。海外企業買収にもプラス。海外からの買収防衛にもプラス。

>大企業は、以前は中国、今はそのほかのアジア地域に円高を活かして工場をポートフォリオとして分散活用しているから、急激な円安はマイナス。

>円高の一番の弊害は、中小企業の雇用。・・・中堅企業には海外進出の支援・・・小企業は大企業との連携、買収など・・・総合的に経済に統合していく。

これだけ、はっきりと円高デフレを礼賛する人もめずらしいが、財務省や日銀など金融界の中枢にいる一部の学者やエコノミスト達の考え方が透けて見えるようにも思われる。実際、早水優(元日銀総裁)、鈴木淑夫(元日銀理事)、藤井裕久(元財務大臣)、与謝野馨(元財務大臣)、行天豊雄(元大蔵省国際金融局長)、榊原英資(元大蔵省国際金融局長)等々、金融界の重鎮達が円高を容認してきた。

米国においてもバブルが崩壊した後、ユーロ危機も重なって、景気回復に手間取っている。雇用情勢においても住宅市況においても、改善の兆しは見えつつも、回復軌道を確かにしたというわけではない。米国においても日本型のデフレに陥るのではないかという懸念が語られている。デフレ先進国日本の経験に学べということで、これまでの日銀の金融政策が注目されている。日本は“デフレの罠”に捕らわれ、10数年にわたってそこから抜け出せないでいる。中央銀行の金融政策によりデフレに陥らないですむのか、あるいはデフレから脱却できるのかという議論である。

東大の岩本康志教授はブログの中で、米国の経済学者達が日銀の金融政策をどのように評価しているのか述べている。岩本先生は、彼らを4種類に分類している(注2)。

1.サムナー教授:
日銀はさらなる金融緩和政策の追加でデフレから脱却できるはずである。日本経済がデフレから脱却していないのは、日銀がそのような選択をしている。日銀はデフレを好み、デフレを選んでいるという解釈である。

2.バーナンキ教授:
金融政策によってデフレを予防できたはずであるし、デフレから脱却することもできたはずである。(場合によっては財政政策の助けが必要かもしれないが)日本経済がデフレから脱却していないのは、日銀がデフレを選択しているわけではないが、日銀の失政によるという立場である。

3.クルーグマン教授:
追加的な金融政策を行ったとしても、確実な効果を持つとは断定しきれない。しかし、結果が定かでないとしても、デフレ脱却のために行動を起こすべきであるという立場である。

4.日銀:
デフレから脱却するために、日銀はゼロ金利政策、量的緩和政策、時間軸政策などの政策を行ってきた。デフレから脱却できていないのは、日銀の失政によるものではないという立場である。(日銀についてのコメントは筆者による)

岩本先生のブログ記事では、日銀の金融政策に対して辛口の批評で知られるクルーグマン教授も、(他の2人の教授より)日銀に対して親和的である。そのクルーグマン教授も、週刊現代の独占インタビュー記事で、日銀の金融政策について次のように批判している(注3)。

>実は、日本の不況の原因は、マクロ経済学がやるべきだと説いていることを実行しないことにあるのです。

>また金融政策面では、日銀自体にやる気がないので大変難しいことですが、インフレ・ターゲット政策を採用させる必要がある。本当に人々が今後、年間1.5%でなく、4%の物価上昇率になると信じれば、景気回復に向かう可能性が大きいからです。4%はほぼ市場の期待値でもあります。

>まず価格の安定とハイパーインフレとの二者択一しか頭にない人が多いことです。・・・私の主張する、緩やかなインフレと、ジンバブエのハイパーインフレでは、まったく違うはずです。

>私だって、もし自分が日銀やFRBの役人なら、100%成功するかどうか分からないことに責任は持ちたくない。日本やアメリカのように「流動性の罠」に陥った状況下でインフレ・ターゲットを機械的に実行しても、容易にうまく行くものではありません。

>たしかにこれから5年間、3%のインフレ目標を設定すると日銀が宣言したとして、5年後に何も変わらなかったら、それは日銀にとってずいぶん具合の悪いことになるでしょう。

>中央銀行の独立性への介入に関しては、もはやあれこれ躊躇すべきではありません。日本のGDPデフレーター(名目GDPを実質GDPで割った値。経済全体の物価動向を示す)は、ここ13年間、下がりっ放しです。それなのに今、日銀が重い腰をあげないというなら、(その責任者たる総裁は)銃殺に処すべきです。

>緩やかなインフレを拒否し、銀行のバランスシート保護を優先しようとする日銀の考え方は、まったく正気とは思えません。私はハイパーインフレを発生させろなどと主張してはいない。年に数%の緩やかなインフレを目標に据え、就職できない若者たちの人生を救えと言っているのです。

>日本の場合、もし本当にインフレが始まったら、債務の問題の大部分は解決します。たとえ緩やかなものでも本当にインフレになれば、借りた時よりもお金の価値が下がって返済の負担が減るため、債務問題の解消には劇的な効果を発揮するからです。

>もし、日本の債務がどんどん膨らんで国家予算の破綻が見えてきた時、・・・「日銀はいよいよインフレを起こして、債務を帳消しにするつもりなのかもしれない」と。その時こそ、インフレへの期待が高まり、この経済問題が解決に向かうのです。

>長期国債の持ち主は激しいショックに見舞われるでしょうが、マイナス面はそれだけではないでしょうか。

>中央銀行というのは、常に実効性のある金融政策の革新や実験に挑戦しなければいけない存在です。その方法が「中央銀行になじまないから」といって実施しないのは間違っている。私は、「インフレへの期待」という心理的側面こそが、景気回復へのレバレッジ(てこ)になると考えている。

筆者は、日銀の金融政策に関する論壇を、4つに分類する。(ここでは、財政政策、財政再建、増税、社会保障、に関する議論とは切り離す。)

1.積極的デフレ容認論:
円高デフレが国益であるとする論である。池田信夫、小幡績、池尾和人、野口悠紀雄、に代表される論壇で、円高はむしろチャンスであるとする。榊原英資、鈴木淑夫、行天豊雄などもこの論壇にカウントされる。海外での資源権益の確保、M&Aによる海外企業の買収等、海外直接投資を勧める。彼らは多くの場合、供給サイドの経済(新古典派経済)を信奉し、生産性の向上、規制緩和、雇用流動化の必要を説く。

2.消極的デフレ容認論:
“流動性の罠”に陥っている状態で、日銀による金融政策の限界を説き、日銀に失政はないという日銀擁護論に繋がる。日本経済がデフレから脱却できないのは、人口動態や労働生産性の低さなど構造的な要因にあるという。金融系のエコノミストはこの範疇に分類され、マスコミも彼らに同調している。大瀧雅之、小野善康、岩本康志、脇田成、宮尾龍蔵、などがこの論壇を代表する経済学者である。彼らは幅広いスペクトラムから構成され、所属する団体の利害や立場によってその主張は様々であるが、以下は代表的な論調である。

 ゼロ金利政策や量的緩和などの金融政策を尽くした
 さらなる金融緩和をしても効果がない
 さらなる金融緩和は日銀のバランスシートを毀損する
 さらなる金融緩和はハイパーインフレを招く恐れがある
 さらなる金融緩和は国債価格の下落を招く恐れがある
 日銀はマネーサプライを、従って物価を制御できない
 デフレからの脱出を財政政策に求める
 規制緩和や雇用の流動化など構造改革の必要を説く
 技術革新による潜在成長率の上昇が必要という

3.インフレターゲット導入論:
日本経済がデフレから脱却するために、インフレターゲットを設け、人々のインフレ期待に働きかけるべきであるとする。金融政策だけでデフレから脱却できるわけではなく、財政政策あるいは構造改革も必要であるとする。伊藤隆敏、伊藤元重、土居丈朗、福田慎一、竹森俊平、深尾光洋などがこの論壇を代表する経済学者である。

4.リフレ論:
デフレは貨幣的な現象であるとし、構造デフレ説と対立する。デフレから脱却するためには、日銀による金融政策が一義的な役割を持つとする。インフレターゲットの設定、マネタリーベースの拡大、国債の購入、あるいは国債の日銀引受など、人々が将来のインフレを確信するまで金融緩和政策を続けるべきだという。岩田規久雄、浜田宏一、高橋洋一、若田部昌澄、飯田泰之、星 岳雄、などがこの論壇を代表する経済学者である。

上記、日本における論壇の分類は、岩本先生による米国の経済学者の分類と次のように対応する。(日銀は米国の経済学者ではないが)

1.積極的デフレ容認論 ⇔ サムナー
2.消極的デフレ容認論 ⇔ 日銀
3.インフレターゲット導入論 ⇔ クルーグマン
4.リフレ論 ⇔ バーナンキ

デフレ容認論の区分はともかく、住宅バブル崩壊後の世界経済の変調にあって、FRBのバーナンキ議長は米国経済がデフレに陥らなよう、あらゆる手段を取ると宣言し、矢継ぎ早に金融政策を講じている。

ゼロ金利政策、QE1、QE2と量的緩和策を繰り出し、欧州危機の影響もあって景気の回復が未だ不十分であると判断するや、FRBは1月のFOMC(連邦公開市場委員会)で、事実上のゼロ金利政策を少なくとも14年末まで続けるとし、長期的な物価目標(ゴール)として2%とすることを表明した。それでも景気が上向かないならば、さらに量的緩和策QE3を伺っている。

欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は昨年12月、1回目の資金供給オペを断行し、欧州銀行にキャッシュを提供し、欧州銀行が保有している国債(PIIGSを含む)を買い入れると宣言した(無制限の買い入れ、3年の返済、1%の利子で資金を供給)。さらに先日、欧州の信用収縮回避および法人への融資促進を目的として2回目の資金供給オペを行った。1回目と2回目を合わせて1兆ユーロ以上の資金を供給した。

経済の収縮を防ぐために、米国および欧州は大胆な金融政策を繰り出している。日銀も遅ればせながらインフレターゲットを打ち出し、国債買い入れ枠を10兆円増額することを表明した。金融緩和への期待から日本でも久しぶりに株価や為替が反応している。

公務員の給与削減が議決されるに至るまで、なぜ10数年にもわたってデフレを放置してきたのだろう?


(注1)テレビ東京、ニュースモーニングサテライト、2010.12.27
http://www.dailymotion.com/video/xgcd9x_yyyyyyyy_news

(注2)岩本康志のブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/33716324.html

(注3)クルーグマン、“間違いだらけの日本経済、考えかたがダメ”、現代ビジネス
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/994?page=3

投稿: hiro | 2012年3月 3日 (土) 00時16分

デフレは悪である

先だって、hamachanブログのエントリー“デフレは日銀の会議室で起こっているんじゃない”で、「日銀にとって、円高デフレを悪とするという見方はほとんどない」とコメントした。このコメントで筆者は「日銀の金融政策はこのような考えに沿ったものである」ことをデータで示した。

池尾和人氏は “デフレ:原因と症状の取り違え”という記事で次のように述べている。
http://agora-web.jp/archives/1463344.html

>そもそもデフレといっても、消費者物価指数の下落率は年率1%未満に過ぎない。この程度のデフレが日本経済の諸悪の根源になっているというのは、いかにも無理がある。・・・デフレ・スパイラルといった事態は、現代の日本では起こっていない。

日本では、このようなデフレが10数年以上にわたって、続いているのである。このような、長期にわたるデフレこそが日本経済の諸悪の根源ではないか。日銀と池尾氏の考え方にはパラレルなものがある。池尾氏の記事から、デフレに対する考え方を読み解く。

この記事で、池尾氏は次のような趣旨の発言をしている。

>デフレは、症状であって原因ではない。

しかし、一般的に認められる、経済成長とインフレの因果関係は、「経済が成長するならば、(マイルドな)インフレになる」である。この命題において、(マイルドな)インフレは経済成長の必要条件である。この命題の対偶をとると、「デフレ(インフレでない)ならば経済成長はない」である。デフレだと、経済成長がないのだから、デフレこそ日本経済の諸悪の根源である。

日銀は、「インフレの不確実性は所得や富の再分配を招き、リスクプレミアムの上昇から金利の上昇を招く」とし、インフレの不確実性を抑えるために、インフレ率はできるだけ低い方がよいと考えている。実際、2000~2010年における消費者物価上昇率(年平均)は-0.3%、GDPデフレーター(年平均)は-1.2%である。

日銀はインフレ率を抑え、インフレの不確実性を抑えることに成功した。しかし、経済のダイナミックスは非平衡な開放系である。そこに、新たなイノベーションがあり、新たな経済秩序の形成がある。そこには、富の再分配もあるだろう、またミニバブルの消長もあるだろう。経済のダイナミズムに伴う、負の側面を抑制し共存しながら、経済を成長させていく必要がある。

経済が完全な均衡状態になり、経済の成長もなければ経済は悪化する。日銀官僚は均衡した経済環境の中で、既得権に守られて安住できるのかもしれないが・・・。自転車は動いていないと倒れるように、経済は成長していないと、悪化する。自転車が完全静止していられないのと同様に、経済も均衡状態にあって、成長することはない。デフレから脱却しなければならないのだ。経済成長を目指すならば、(マイルド)なインフレが伴うのである。インフレ率2~3%が世界の常識である。

池尾氏は、次のように述べている。

>交易条件の悪化が日本経済の不調の原因を端的に表している。

確かに、何故デフレかという問いを発すれば、どこかにその原因があるはずである。池尾氏は、交易条件の悪化が日本経済が不調の原因だという。交易条件とは、貿易で輸入価格指数に対する輸出価格指数の比率である。1バレルあたりの原油の輸入価格が上昇し、日本からの液晶テレビの輸出製品価格が下落すれば、交易条件は悪化する。輸入価格指数あるいは輸出価格指数は、貿易品を対象として価格を平均化して指数化することにより算出される。

欧米諸国の交易条件はほとんど変化していないのに、2000年代になって日本の交易条件は悪化している。資源価格の高騰、素材価格の高騰、新興国の台頭、によって交易条件が悪化したと考えられるが、日本だけが不利な環境におかれたわけではない。日本の交易条件について考える。

1.為替レート
円高になると、円ベースで輸出価格が据え置きだとすると、輸入価格が低くなるため交易条件が改善するという論がある。実際、2008年の円高で交易条件は一時的に改善した。しかし、2009年以降円高が進んでいるにもかかわらず交易条件は悪化している。産業構造が似ている韓国も交易条件は悪い。しかしOECDのデータによると、円高が進んだ日本よりウォン安が進んだの韓国の方が、交易条件は良い。2000年を基準年として、2011年の日本の交易条件は0.68、韓国の交易条件は0.79である。通貨高になると交易条件が有利になるという通説は誤りである。むしろ、通貨高はデフレを促し、輸出産業に対するダメージが大きいため、有害である。

2.国際競争力
1985年のプラザ合意以降、趨勢的な円高が続いている。国内製品価格を下げない限り、円高になるとドル建て輸出価格は高くなり、国際競争力は落ちるはずである。円高にもかかわらず、日本の貿易黒字は続いた。

日本の国際競争力は、長時間のサービス残業も厭わないで働いた労働者の生産性向上の努力に支えられた。生産性向上は、製造コストを下げ、円高にあっても製品価格を下げることで日本の国際競争力を維持した。趨勢的な円高にもかかわらず、2000年以前に交易条件が悪化しなかったのは、国際競争力があったからである。

円高は“強い国力”の反映でもあり、円を国際通貨にしようという期待が語られたのもこの頃である。

しかし、2000年以降、新興国の台頭によって、「円高にあっても生産性を上げることで、国際競争力を維持する」という成功体験は当てはまらなくなる。円高も進行し、新興国との競合も激化した結果、生産性の向上で国際競争力を維持できなくなった。輸出数量を維持するために、製品価格を下げて輸出した。ここに交易条件の悪化がある。

3.産業政策
半導体大手のエルピーダは倒産した。ルネサスエレクトロニクスの業績は大幅に悪化し、リストラを進めている。ソニーやパナソニックも例外ではない。かつては、ハイテク産業の旗手としてもてはやされたこれらの企業も、国際競争力を失った。

これらの企業は、かつて経済産業省が成長分野として指定したハイテク産業に属する。経済産業省の音頭のもと、これらハイテク企業をメンバーとする社団法人や財団法人が設立され、官民が一体となって技術開発を推進した。ソニー、パナソニック、シャープ、日立、東芝、三菱電機、等々、が似たような液晶テレビを開発し、コスト競争すれば、技術の希少性もなくなるというものだ。これだけの数の日本企業が、同じような技術を共有しているのだから、韓国や台湾の企業が同じような技術を持っても不思議ではない。その上、人件費は安い。

日本の技術に希少性がなくなったことが交易条件の悪化の原因である。また、特定の産業を選んで重点的に振興した産業政策に交易条件の悪化の原因がある。恣意的な産業政策が多様な分野で、多岐の技術開発がなされるのを阻害した恐れがある。

経済産業省に限らず、日本の行政は供給者サイドを中心とする。政府は、業界団体との関係の中で縦割りの組織を作ってきた。生活者あるいは労働者の目線からの行政がなされていれば、産業のあり方も違ったものになったであろう。生活に密着した需要が育ち、多様な分野で、多岐にわたるサービスの供給を促したはずである。日本では、供給が需要を作ると考えられきたのである。需要が供給を育てるという考えはほとんどない。

行政が生活者の目線から行われていれば、老人が病院と特別擁護老人ホームの間でたらい回しにあうようなこともなかったはずである。働くお母さんが保育園を見つけられないで苦労するということもなかったはずである。行政が労働者の目線から行われていれば、無法ともいえる長時間のサービス残業を野放図に放置しなかったはずである。

4.サプライサイドの経済
日本の経済政策は、サプライサイドの経済であり、「供給が需要を生む」というセイの法則で特徴づけられる。サプライサイド経済のもとでは、供給力の強化こそが経済成長であり、需要が不足すれば価格が下がって需給バランスがとれるという考え方である。供給が過多であり、需要が不足しているというのに、さらに供給力を増やそうという考え方に問題がある。海外との輸出競争になると製品価格を下げた。ここに交易条件の悪化がある。

5.名目と実質の区別
日本の経済政策は実質GDPの成長あるいは潜在GDPの成長に焦点をあて、名目GDPの成長に目をつぶる。日銀が、GDPの成長を名目で論ずるのを聞いたことがない。

実質GDPの成長は、製品価格の変動がないとする場合の生産数量の増加である。そこには、「デフレは経済活動に中立である」という考え方がある。デフレで(名目)賃金が下がっても、物価が下がっているのだから実質的な賃金は同じではないかという考え方である。また、デフレで(名目)売上が減っても、物価が下がっているのだから実質的な利益は同じではないかという考え方である。

売上高および利益の増加を問題にしないという企業経営はありえないのと同じく、経済成長を名目で語らない経済はありえない。生産数量の増加(実質GDPの成長)だけに焦点をあて、販売高の増加(名目GDPの成長)を論じない経済はありえない。そこには、製品価格の変動が抜け落ちている。製品価格の下落こそ、交易条件の悪化につながったのだ。

デフレあるいはインフレは貨幣的現象である。単純な貨幣数量説を主張するつもりはないが、原則は「物量が同じで、貨幣量が増えれば物の値段は上がり、貨幣量が減れば物の値段は下がる」のである。日銀の擁護論によると、「貨幣は単に取引の仲介に使われるのであり、経済の実態は供給量の増減に反映される」と言いたいのであろう。

以上、日本の交易条件が悪化したと思われる理由について書いた。池尾氏が述べているように交易条件の悪化は、日本経済の不調の原因である。

同じ記事の中で、池尾氏はこうも述べている。

>デフレ脱却というスローガンに支持が集まりやすいのは、名目と実質の区別がついていなくて、名目値が上昇すると実態もよくなるように何となく思われているからではないか。

筆者は、以前“「成長」は左派のスローガンなんだが”のコメントで、2000年~2008年における名目GDP、実質GDP、GDPデフレーター、消費者物価指数、および給与の変化を日米仏で比較した。そして、米国およびフランスでは消費者物価の上昇以上に賃金が上昇し、日本では消費者物価の下落以上に賃金が下落したことをデータで示した。

この期間、日本はイザナミ景気を享受した時代でもあり、実質GDPの年平均成長率は1.2%、名目GDP年平均成長率はゼロだった(OECDのデータによる)。この時代、日本の労働者の賃金は下がり、雇用環境は悪化した。住宅販売戸数は激減し、新車販売台数も大幅に減った。デフレ経済下にあって、実質金利も上昇し、若者が住宅を購入し、新車を購入することが難しくなった。ちなみに、この期間の日本における労働生産性の上昇率は欧米諸国とほぼ同じである。これでも、デフレ脱却は必要なしと言うのだろうか。


投稿: hiro | 2012年7月 2日 (月) 00時36分

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