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« OL型女性労働モデルの形成と衰退@『季刊労働法』234号 | トップページ | 集団的労使関係の経験がマクロな合意形成の基盤 »

2012年1月10日 (火)

ほんとうの日本問題とは人口問題なんだよ@クルーグマン

信頼するに足る数少ない経済学者として、その著書は必ず読むことにしているクルーグマン。

昨日のニューヨークタイムズ紙に「Japan, Reconsidered」(日本再考)というエッセイを寄稿。

http://krugman.blogs.nytimes.com/2012/01/09/japan-reconsidered-2/

邦訳はこちら(訳は一部修正)

http://econdays.net/?p=5678

その中で、

>The real Japan issue is that a lot of its slow growth has to do with demography. 

ほんとうの日本問題とは,その低調な経済成長の多くが人口動態に関連してるってことだ。

とさらりと言っています。

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コメント

日本経済の低迷を人口動態のせいにする論調が盛んです。労働生産性は、労働人口一人あたりではなく、労働時間あたりの付加価値で評価されるべきでしょう。

また、日米でGDPを比較するのに米ドル換算レートが問題になります。OECDの労働生産性の評価では、購買力平価(PPP$)で換算して評価しています。

以下、OECDの統計による日米の労働生産性を2000年と2007年で比較するものです。下記、相対付加価値/労働時間は米国に対する相対的な労働生産性です。
OECD.stat>Productivity>Productivity levels in the total economy>labour productivity growth

日本
GDP(PPP$評価)(10億)3,250 / 4,285
雇用者数(100万)・・・・・・65.26 / 64.43
労働時間/雇用者・・・・・・・・・・1821 / 1785
総労働時間(10億)・・・・・118.8 / 115.0
付加価値/労働時間(PPP$)27.4 / 37.3
相対付加価値/労働時間・・・・0.71 / 0.70

米国
GDP(PPP$評価)(10億)9,899 / 13,995
雇用者数(100万)・・・・・・147.74 / 153.47
労働時間/雇用者・・・・・・・・・・1739 / 1709
総労働時間(10億)・・・・・256.9 / 262.3
付加価値/労働時間(PPP$)38.5 / 53.4

上記の評価によると、2000年および2007年で日本の米国に対する相対的な労働生産性はほとんど変化していません。

クルーグマンの言うように、人口動態が日本経済に及ぼす影響は大きなものがあると思います。ただ、何でも人口動態のせいにすることについては疑問を持ちます。

>ほんとうの日本問題とは,その低調な経済成長の多くが人口動態に関連してるってことだ。

クルーグマンが言っているのは、日本の低成長という論点について、人口動態で説明がつくということです。
上の訳では、日本を悩ます問題の原因は人口動態だ、と誤解するおそれがあります。

当該エントリーの翌日、クルーグマンは、こう書いています。
And one more thing: whatever you think of Japan’s adjustment, the Bank of Japan fell down on the job by not taking advantage of the relatively good years from 2002-2007
to break out of deflation.

More On Japan (Wonkish)
http://krugman.blogs.nytimes.com/2012/01/10/more-on-japan-wonkish/

従来から、クルーグマンが日本経済の問題点として日銀を批判していることは、
「その著書は必ず読むことにしているクルーグマン」との濱口さんなら十分承知のことと思います。

もし濱口さんが日本経済の問題の原因が人口動態だと考え、その援用としてクルーグマンを引き合いに出したとしたのなら、それは不適切だと思います。

違和感があるので、読み返してみると、

>昨日のニューヨークタイムズ紙に「Japan, Reconsidered」(日本再考)というエッセイを寄稿。

と、濱口さんはお書きになってますが、
新聞への投稿ではなく、あくまで、ブログへのアップです。

クルーグマンは毎日、ブログに数件の記事をアップしていますが、ブログは、新聞への寄稿とは違い、説明が飛躍することがあります。
私はクルーグマンのファンで、すべてのブログ記事を追っているので直前の記事とのつながりのなかで読めますが、特定のブログ記事だけを読むと、誤解するおそれがあります。

池田信夫氏がクルーグマンを引用するとき、よくこの手の過ちを犯します。(彼の場合は、意図的かも知れませんが)
老婆心ながら、濱口さんが池田信夫氏と同列に扱われることのないよう、クルーグマンを引用するときは十分に注意を払って下さい。


1月11日にhiroはコメントを投稿しました。しかし、1月12日のhiroさんによるコメントは他のhiroさんからのものです。

”hiro"というハンドルネームがバッティングしてしまったようです。誤解を招かないようにコメントしておきます。

日本における労働生産性上昇の報い

前回のコメントで、日本および米国の労働生産性を比較した。前回の補足として、2000年と2007年フランスの労働生産性を記載する。

フランス
GDP(PPP$評価)(10億)1,533 / 2,114
雇用者数(100万)・・・・・・25.38 / 26.811
労働時間/雇用者・・・・・・・・・・1489 / 1448
総労働時間(10億)・・・・・37.79 / 38.82
付加価値/労働時間(PPP$)40.6 / 54.5
相対付加価値/労働時間・・・・1.05 / 1.02

日米仏の労働生産性および相対労働性(米国=100)を1985年 / 1990年 / 2000年 / 2007年にわたって比較する。

日本
労働生産性・・・・・・・12.2 / 17.9 / 27.4 / 37.3
相対労働生産性・・・0.58 / 0.68 / 0.71 / 0.70

米国
労働生産性・・・・・・・21.1 / 26.3 / 38.5 / 53.4
相対労働生産性・・・1.0 / 1.0 / 1.0 / 1.0

フランス
労働生産性・・・・・・・20.3 / 26.6 / 40.6 / 54.5
相対労働生産性・・・0.96 / 1.01 / 1.05 / 1.02

筆者の予想とは食い違い、経済成長期の1980年代、日本の相対労働生産性は低位にあり、1993年に0.7に達し、その後2007年に至るまでほぼ同じ水準にある。2008年~2010年にかけて若干水準を落とし2010年の相対労働生産性は0.67である。

これまた意外なのは、フランスの相対労働生産性は1990年代以降米国とほぼ同等あるいは若干上回る水準にある。

1990年初頭のバブル崩壊以降、日本の労働生産性は米国とほぼ同じ成長率で上昇している。2000年~2007年にかけて、労働生産性の年平均成長率は驚きの4.5%である(注1)。

デフレ経済下の2000年代の日本にあって、名目GDPの成長はゼロであり、給与は下がり、雇用は劣化した。労働生産性の上昇の報いはどこにあったのだろう。

労働生産性は、OECDのGDP購買力平価(PPP$)で換算されている。購買力平価の時系列を1985年 / 1990年 / 2000年 / 2007年にわたって調べてみる。

購買力平価(PPP$)
日本・・・・・・・208 / 189 / 155 / 120
米国・・・・・・・1 / 1 / 1 / 1
フランス・・・1.02 / 1.03 / 0.94 / 0.89

購買力平価は2000年の155円/PPP$から2007年の120円/PPP$へと円高になっている。2000年~2007年にかけて、円/PPP$の換算レート年平均上昇率は3.7%である。

米国との相対労働生産性において、日本では雇用者数が減り、また雇用者あたりの労働時間が減っている。一方、米国では雇用者数が増えている。2000年~2007年にかけての総労働時間の相対減少比(日本の総労働時間の減少 / 米国の総労働時間の減少)は0.948であり、総労働時間の減少による労働生産性の年平均上昇率は0.77%%である。

従って、日本の労働生産性の年平均成長率4.5%のうち、円/PPP$の換算レートの上昇分が3.7%、総労働時間の減少による労働生産性の上昇分が0.8%である。

2000年~2007年にかけて、円/PPP$の換算レートが上昇したのは日本はデフレ、米国はインフレで物価上昇率の比が反映されたと考えられる。2000年基準=1とする、2007年における日米両国のGDPデフレーター(物価上昇率)を比較する。

GDPデフレーター(2000年基準=1)
日本・・・・・・・0.920
米国・・・・・・・1.199

2007年における米国の日本に対する相対的な物価上昇は1.303(2000年基準=1)である。従って、米国の物価の相対的年平均上昇率は3.9%である。日米の相対的な物価上昇率が円/PPP$の換算レートに反映さたと考えられる。

結論:日本は米国とほぼ同じくらい労働生産性を上昇させている。しかし、日本における労働生産性上昇の報酬は円高デフレである。筆者は最近の“成長は左派のスローガンなんだが・・・”のコメントで、デフレによる生活水準の下落(インフレによる生活水準の上昇)を数字で実証した。円高デフレのため、労働生産性上昇の成果が労働者に還元されなかったのである。

(注1)EXCELの関数計算より、次式で計算
年平均成長率=(37.3/27.4)^(1/7)-1

単位労働コスト

最初のコメントで、日米の労働生産性を比較し、日米間で2000~2007年にかけての労働生産性を比較した。ここでの労働生産性は、単位労働時間あたりの名目GDP(購買力平価ベース)である(注1)。

紛らわしいが、労働生産性は、単位労働時間あたりの実質GDP(自国通貨ベース)でも評価される(注2)。むしろ、こちらの評価が一般的である。今回のコメントは、こちらの評価方法に従って労働生産性を日米仏で比較する。また、単位労働コストを評価し、賃金の上昇率および消費者物価の上昇率を日米仏で比較する。

以下、労働生産性に関するデータを、2000年を基準として2007年の相対値で表示する。括弧内はこの期間の年平均成長率(%)である。

日本(2000年基準、2007年指数値)
名目GDP(注3)・・・・・・・・・・1.025 (0.352)
実質GDP(注3)・・・・・・・・・・1.114 (1.559)
消費者物価指数(注3)・・・・・0.978 (-0.317)
GDPデフレーター(注3)・・0.920 (-1.184)
労働生産性(注4)・・・・・・・・・1.152 (2.041)
単位労働コスト(注3)・・・・・0.869 (-1.994)
総労働時間(注4)・・・・・・・・・0.968 (-0.468)
一人あたり労働時間(注4)・0.973 (-0.397)
雇用者報酬(注5)・・・・・・・・・0.967 (-0.485)
労働分配率・・・・・・・・・・・・・・・・・0.943

米国(2000年基準、2007年指数値)
名目GDP・・・・・・・・・・・・1.410 (5.028)
実質GDP・・・・・・・・・・・・1.176 (2.348)
消費者物価指数・・・・・・・1.204 (2.689)
GDPデフレーター・・・・1.199 (2.622)
労働生産性・・・・・・・・・・・1.154 (2.065)
単位労働コスト・・・・・・・1.154 (2.067)
総労働時間・・・・・・・・・・・1.021 (0.299)
一人あたり労働時間・・・0.983 (-0.248)
雇用者報酬・・・・・・・・・・・1.357 (4.460)
労働分配率・・・・・・・・・・・0.963

フランス(2000年基準、2007年指数値)
名目GDP・・・・・・・・・・・・1.310 (3.929)
実質GDP・・・・・・・・・・・・1.134 (1.816)
消費者物価指数・・・・・・・1.134 (1.814)
GDPデフレーター・・・・1.154 (2.070)
労働生産性・・・・・・・・・・・1.104 (1.420)
単位労働コスト・・・・・・・1.149 (2.003)
総労働時間・・・・・・・・・・・1.027 (0.386)
一人あたり労働時間・・・0.972 (-0.398)
雇用者報酬・・・・・・・・・・・1.304 (3.859)
労働分配率・・・・・・・・・・・0.995

上記データは2000年基準=1とする2007年の指数値であり、労働分配率のデータ以外は各項目ともOECDのデータによる。労働分配率は下記計算式による。下記の関係式が成立することは、上記データを代入して検算することができる。

GDPデフレーター=名目GDP / 実質GDP
労働生産性=実質GDP / 総労働時間
単位労働コスト=GDPデフレーター*労働分配率
労働分配率=雇用者報酬 / 名目GDP

単位労働コスト(ULC;Unit Labour Cost)は、物やサービスの1単位を生み出すのに必要な労働費用である。一国全体の単位労働コストは次式で表される。
単位労働コスト=雇用者報酬 / 実質GDP

この式はGDPデフレーターの式を使うと、次のように書ける。
単位労働コスト=(雇用者報酬 / 名目GDP)*GDPデフレーター
=労働分配率*GDPデフレーター

一方、単位労働コストの式は、労働生産性の式を使うと、次のように書ける。
単位労働コスト=(雇用者報酬 / 総労働時間)/(実質GDP / 総労働時間)
=時間あたり賃金 / 労働生産性

従って、時間あたり賃金は次式で表される。
時間あたり賃金=単位労働コスト*労働生産性

一人あたりの年収は、一人あたり年間労働時間より次式で表される。
年収=時間あたり賃金*一人あたり年間労働時間

また、消費者物価の上昇を除去した実質年収は次式で表される。
実質年収=年収 / 消費者物価指数

先のOECDのデータより、2000年基準=1とする2007年の時間あたり賃金、一人あたり年収、実質年収を日米仏で比較評価する。括弧内はこの期間の年平均成長率(%)である。

日本(2000年基準、2007年指数値)
時間あたり賃金・・・・・1.000 (0.000)
一人あたり年収・・・・・0.973 (-0.390)
実質年収・・・・・・・・・・・0.995 (-0.073)

米国(2000年基準、2007年指数値)
時間あたり賃金・・・・・1.332 (4.175)
一人あたり年収・・・・・1.309 (3.917)
実質年収・・・・・・・・・・・1.087 (1.196)

フランス(2000年基準、2007年指数値)
時間あたり賃金・・・・・1.268 (3.451)
一人あたり年収・・・・・1.233 (3.309)
実質年収・・・・・・・・・・・1.087 (1.204)

日本経済の低迷がいかに労働者の生活水準に影響を及ぼしているか、上記の日米仏の比較データを見れば明らかであろう。

日本では、消費者物価指数の低下はほとんどなく、単位労働コストだけが著しく低下している。2000年から2007年において消費者物価指数の低下は年率で約0.3%であるのに対して、単位労働コストは年率で約2%近くも下落している。時間あたり賃金は、まるで一定に制御されているように、全く動かない。万事安定を旨とする我が国の経済政策がその結果に見事に反映されている。

同じ期間、米国やフランスでは単位労働コストは消費者物価指数とほぼ連動して上昇している。米国やフランスでは単位労働コストは年率で約2%上昇している。この期間、物価は年率で2%程度上昇しているが、年収の上昇は3~4%であり、両国とも実質年収は年率で1.2%程度上昇している。

2000年から2007年にかけて、日本の労働生産性は年率で約2%の上昇を続けた。しかし、労働生産性の上昇はGDPデフレーターのマイナス成長に繋がり、単位労働コストを下落させた。生産量だけが増え、販売単価の下落を伴ったために名目GDPの成長に繋がらなかったのだ。実質GDPは成長しながらも名目GDPの成長がなかったため、一人あたりの年収は年率で約0.4%下落した。

購買力平価はプラザ合意後、過去25年以上にわたって上昇を続け、円高が今もなお進行している。円高で輸出競争力を維持するために、労働者に対して生産性の向上を強いてきた。国内にあっては、円高はデフレを誘引し、生産性の向上は労働者に還元されるどころか、むしろ労働者の生活水準を引き下げた。これ以上、円高デフレを放置してはならない。


(注1)Productivity > Productivity levels in the total economy > Labour productivity levels in the total economyによる。

(注2)Productivity > Labour Productivity total economy > Labour Productivity Growth による。

(注3)Economic Projections>Economic Outlook No.90による。

(注4)Productivity > Labour productivity Total Economyによる。

(注5)Annual National Accounts > Detailed Non-Finantial Sector Accountsによる。

前回のコメントを補足する。

OECDの統計で、労働生産性(Labour Productivity)が2つの異なる定義で使われていることを述べた。1つは、単位労働時間あたりの名目GDP(購買力平価ベース)であり、もう1つは単位労働時間あたりの実質GDP(自国通貨ベース)である。

2つの定義による労働生産性を2007年のデータを比較する。実質GDPあるいはGDPデフレーターは基準年に対する相対値であるから、基準年をいつとするかによって変化する。従って、名目GDPを実質値に変換する場合、基準年を決めて考える必要がある。以下、基準年を2000年とし、2007年の指数値で考える。

単位労働時間あたりの名目GDP(購買力平価ベース)をP1、単位労働時間あたりの実質GDP(自国通貨ベース)をP2とする。また、購買力平価(指数値)をQ、GDPデフレーター(指数値)をGとすると、次式が成立するはずである。
P2=P1*Q / G

OECDのデータより、P1=37.258 / 27.349、Q=120.31 / 154.75、G=0.920である。これらのデータを使い、上式に代入すると、
P2=1.151

を得る。一方、OECDのデータから得られる労働生産性(指数値)はP2=1.152である。従って、2つの定義による労働生産性の値に整合性があることが確かめられた。


韓国経済

韓国経済の成長は著しい。技術水準の発展も目覚しく、ウォン安もあって輸出市場において日本の強力なライバルとなった。

小黒一正先生はアゴラでの投稿記事“韓国のウォン安は成功したか”において、次のように述べていおられる。
http://agora-web.jp/archives/1400536.html

>デフレの日本からすると,韓国がインフレである状況を望ましいとする読者もいるかもしれないが,それは妥当な見方ではない。図表1の名目賃金上昇率(黒線,左目盛)と物価上昇率(青線,左目盛)をみれば一目瞭然であるが,韓国経済は,物価が上昇しても,名目賃金はそれほど上昇しない状況に陥っているからである。つまり,実質賃金は低下の一途を辿っている。

本当だろうか?OECDのデータで確かめてみよう。2000年~2007年までのデータを調べてみる。以下のデータで括弧内はこの期間の年平均成長率(%)である(注1)。

韓国(2000年基準、2007年指数値)
名目GDP・・・・・・・・・・・・1.616 (7.100)
実質GDP・・・・・・・・・・・・1.377 (4.676)
消費者物価指数・・・・・・・1.235 (3.063)
GDPデフレーター・・・・1.174 (2.315)
労働生産性・・・・・・・・・・・1.353 (4.418)
単位労働コスト・・・・・・・1.258 (3.329)
一人あたり労働時間・・・0.918 (-1.215)

前回のコメントで、次の関係式を確認した。

時間あたり賃金=単位労働コスト*労働生産性
年収=時間あたり賃金*一人あたり年間労働時間
実質年収=年収 / 消費者物価指数

OECDのデータをあてはめて、韓国における時間あたり賃金、年収、実質年収を計算してみよう。以下のデータで括弧内はこの期間の年平均成長率(%)である。

韓国(2000年基準、2007年指数値)
時間あたり賃金・・・・・1.702 (7.894)
一人あたり年収・・・・・1.563 (6.583)
実質年収・・・・・・・・・・・1.265 (3.415)

韓国経済はものすごい勢いで成長している。小黒先生が仰るように、韓国ではインフレのため実質年収は低下の一途を辿っているのだろうか?それどころか、韓国では2000年~2007年において、時間あたり賃金は年平均で年率で8%近くも上昇している。一人あたりの年間労働時間は減っているから、その減少分を加味しても一人あたりの年収は年平均で6.6%も上昇している。また、インフレによる消費者物価の上昇を除去しても、実質年収は年平均で3.4%も上昇している。年収が実質で毎年3.4%上昇を続けているのだ。

どこから、小黒先生が仰るようなことがいえるのだろうか?もしかして、米国のバブル崩壊やリーマンショックの影響で2007年以降のデータにその影響がでたのかもしれない。2007年~2010年までのデータを調べてみる。

韓国(2007年基準、2010年指数値)
名目GDP・・・・・・・・・・・・1.203 (6.350)
実質GDP・・・・・・・・・・・・1.089 (2.898)
消費者物価指数・・・・・・・1.235 (3.459)
GDPデフレーター・・・・1.174 (3.356)
労働生産性・・・・・・・・・・・1.126 (4.050)
単位労働コスト・・・・・・・1.076 (2.458)
一人あたり労働時間・・・0.918 (-1.661)

この期間の時間あたり賃金、年収、実質年収の変化は次のように評価できる。

韓国(2007年基準、2010年指数値)
時間あたり賃金・・・・・1.212 (6.607)
一人あたり年収・・・・・1.152 (4.837)
実質年収・・・・・・・・・・・1.040 (1.331)

2007年以降、経済成長のスピードは落ちたとはいえ、時間あたり賃金(名目)は名目成長率を凌ぐ年平均6.6%で成長している。一人あたり労働時間の減少を加味した年収でも年平均で4.8%成長している。実質年収においても、年平均で1.3%増えている。

小黒先生は、「通貨安のインフレ経済下では、実質賃金は下がり生活水準も下がるよ」と仰りたいのだろうか。事実は逆である。

(注1)EXCELの関数計算より、次式で計算
年平均成長率={(2007年の値 / 2000年基準値)^(1/7)-1}*100

ドイツ経済

同じ欧州にあって、ドイツ経済はフランスあるいは他のEU諸国と違った特徴を持つ。GDPの成長率は低く目に維持され、労働コストは抑制されている。2000年~2007年におけるデータを表示する。括弧内はこの期間の年平均成長率(%)である。

ドイツ(2000年基準、2007年指数値)
名目GDP・・・・・・・・・・・・1.188 (2.486)
実質GDP・・・・・・・・・・・・1.105 (1.431)
消費者物価指数・・・・・・・1.120 (1.635)
GDPデフレーター・・・・1.075 (1.041)
労働生産性・・・・・・・・・・・1.127 (1.726)
単位労働コスト・・・・・・・0.965 (-0.514)
総労働時間・・・・・・・・・・・0.979 (-0.309)
一人あたり労働時間・・・0.967 (-0.483)
労働分配率・・・・・・・・・・・0.898 

次の関係式より、ドイツにおける時間あたり賃金、年収、実質年収を計算する。

時間あたり賃金=単位労働コスト*労働生産性
年収=時間あたり賃金*一人あたり年間労働時間
実質年収=年収 / 消費者物価指数

ドイツ(2000年基準、2007年指数値)
時間あたり賃金・・・・・1.087 (1.204)
一人あたり年収・・・・・1.051 (0.715)
実質年収・・・・・・・・・・・0.938 (-0.905)

2000年~2007年におけるドイツ経済とフランス経済および日本経済のパフォーマンスを比較する。それぞれ、この期間の年平均成長率で比較する。

年平均成長率(%) 独 / 仏 / 日
名目GDP・・・・・・・・・・・2.486 / 3.929 / 0.352
実質GDP・・・・・・・・・・・1.431 / 1.816 / 1.559
消費者物価指数・・・・・・1.635 / 1.814 / -0.317
GDPデフレーター・・・1.041 / 2.070 / -1.184
労働生産性・・・・・・・・・・1.726 / 1.420 / 2.041
単位労働コスト・・・・・・-0.514 / 2.003 / -1.994
時間あたり賃金・・・・・・1.204 / 3.451 / 1.000
一人あたり年収・・・・・・0.715 / 3.309 / -0.390
実質年収・・・・・・・・・・・・-0.905 / 1.204 / -0.073

ドイツ経済の特徴は、抑制されたGDPの成長と、単位労働コストの削減である。フランスが名目GDPで年率平均で4%の成長であったのに対して、ドイツの成長率は年率平均で2.5%程度に留まる。また、ドイツの労働分配率は2000年の54.3%から2007年の48.9%まで大幅に低減し、その結果ドイツの単位労働コストは年率平均で約0.5%減少を続けた。フランスの単位労働コストが年率平均で約2%の上昇であったのと対照的である。

消費者物価指数が年率で約1.6%上昇する中で単位労働コストを削減した結果、雇用者一人あたりの年収は年率平均で実質約0.9%減少した。

ドイツでは、単位労働コストを抑えることにより、コスト競争力を強化し、貿易収支の黒字幅を大幅に増やした。一方、緊縮財政により財政赤字の膨張を抑制している。以下、2010年の経済パフォーマンスをドイツ、フランス、日本、米国で比べる。(ドイツの2010年の財政赤字は4%台であるが、2000年代を通してほぼ3%内に抑えている)

2010年経済データ(GDP比;独 / 仏 / 日 / 米)
輸出・・・・・・・・・・46.8 / 25.5 / 15.2 / 12.7
輸入・・・・・・・・・・41.4 / 27.8 / 14.1 / 16.3
貿易収支・・・・・・5.5 / -2.4 / 1.2 / -3.6
経常収支・・・・・・5.6 / -1.8 / 3.6 / -3.2
財政赤字・・・・・・-4.3 / -7.1 / -7.8 / -10.7

ドイツは通貨統合の受益者でもある。ドイツは国際競争力に比べて安いユーロ建ての価格で輸出を伸ばした。ドイツの輸出は実にGDP比で46.8%にも達する。ドイツのユーロ圏内における価格競争力を評価するため、購買力平価の対ドル為替レートの比率を他のユーロ圏内諸国と比べてみる。

購買力平価の対ドル為替レート比(2011年、ユーロ圏諸国)
ポルトガル(0.88)、ギリシャ(0.98)、スペイン(0.99)、ドイツ(1.11)、
イタリア(1.11)、オランダ(1.16)、オーストリア(1.18)、
ベルギー(1.20)、フランス(1.21)、フィンランド(1.32)

ユーロ圏諸国にあって、ドイツの購買力平価は南欧諸国なみに低い(物価が安い)。ドイツは賃金の抑制および緊縮財政によって、行過ぎたインフレを抑えてきたためである。通貨統合によって、ドイツは安いユーロ建ての価格で輸出を伸ばした。

ドイツが価格競争力を強化して貿易黒字を積み上げる一方、ギリシャ、スペイン、ポルトガルの貿易赤字は増大し、財政赤字は膨らんだ。経済力の格差が広がったにもかかわらず、通貨を統合したため政策金利や為替レートの変動による格差の是正がされなかった。放漫財政のギリシャと規律財政のドイツで、為替レートが固定されていることにユーロ通貨危機の原因がある。

統合通貨ユーロを守るためには、ギリシャやポルトガルなどの南欧諸国では財政規律を強化し、賃金の抑制をしなければならない(注1)。同時に、ドイツは金融を緩和し、賃金を上げなければならない。ドイツは国内市場の成長を促し、南欧諸国における緊縮財政とバランスをとる必要がある。

抑制的なGDPの成長および賃上げの抑制など、ドイツ経済は日本経済の手本になるのだろうか。日本の輸出競争力は強いということで、ドイツと対比されてきた。しかし、円高やアジア諸国との競合により日本の対外競争力は損なわれている。

日本の円高水準を、購買力平価の対ドル為替レートの比率により評価する。

購買力平価の対ドル為替レート比(2011年、ユーロ圏外諸国)
韓国(0.74)、米国(1.00)、イギリス(1.06)、カナダ(1.24)、
日本(1.34)、スウェーデン(1.37)、デンマーク(1.46)、
オーストラリア(1.60)、ノルウェイ(1.72)

購買力平価とドル為替レートはOECDのデータによるもので、2011年の日本円の為替レートは79.8円/ドル、購買力平価は106.9円/PPP$である。為替レートは通年の平均である。

日本の通貨(PPP$で換算した相対的物価水準)は米国やイギリス、あるいはユーロ圏諸国より高い。日本の通貨より高いのは、スウェーデンやノルウェイという北欧諸国だけである。しかし、北欧諸国の単位時間あたりの労働生産性(PPP$ベース)は高い。日本の労働生産性(PPP$で換算した単位時間あたりの付加価値)は低く、相対的物価水準は高い。要するに、生活水準が低いのだ。単位時間あたりの労働生産性(PPP$ベース)を比較する。

単位時間あたりの労働生産性(PPP$ベース、2010年)
韓国(27.2)、日本(39.4)、イタリア(43.9)、カナダ(45.2)、
英国(46.2)、オーストラリア(46.8)、スウェーデン(49.9)、
デンマーク(51.3)、ドイツ(53.6)、フランス(57.7)、
米国(59.0)、ノルウェイ(75.3)

輸出市場で競合する韓国のウォンは安く、日本の円は高いため日本の輸出競争力は著しく損なわれている。米国の住宅バブルが崩壊に端を発して世界経済に変調をきたした2008年以降、日本の経済界の重鎮やエコノミストは円高を歓迎して囃し立てた。「強い円は国益である」、「円高にあっても生産性を上げて国際競争力をつけろ」、「強い円を活かして、海外に出て行け」、「輸出依存から脱却して生活大国になれ」、等々である。

世界経済が変調をきたす中で、欧米の中央銀行は金融緩和を進めたが、日本銀行は金融緩和をしないで円高を放置した。米国は量的緩和の第三段QE3を伺っている。また、欧州中央銀行(ECB)も追加緩和するとの観測も広がっている。これ以上、円高を放置してはならない。


(注1)根津利三郎、“なぜユーロは強いのか”、富士通総研
http://jp.fujitsu.com/group/fri/column/opinion/201111/2011-11-8.html

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