二宮厚美・福祉国家構想研究会編『誰でも安心できる医療保障へ』
大月書店の角田三佳さんより、二宮厚美・福祉国家構想研究会編『誰でも安心できる医療保障へ』をお送りいただきました。ありがとうございます。
http://www.otsukishoten.co.jp/book/b94889.html
>保険料の増額や窓口負担の重圧。3.11後、さらに勢いを増す医療の市場主義的改悪の動き――。暮らしと生存を支える医療制度の実現に向けて、現状を批判的に検討し、新たな福祉国家を展望する理論と対抗構想を提示する。
目次は次の通りですが、
序章 医療保障をめぐる現代的対決点と新福祉国家(二宮厚美)
1 医療保障と現物給付原則
2 医療保障と保険原理の衝突関係
3 国民皆保険をめぐる「人権原理vs.保険原理」の攻防ライン
4 新自由主義的バックラッシュ期の医療政策
5 本書の見通し
第1章 民主党政権と医療政策の新自由主義化(横山壽一)
1 新自由主義的改革の基本的性格と民主党
2 新自由主義的社会保障改革の構図
3 民主党政権の社会保障改革
4 民主党政権における医療政策の新自由主義化
5 医療政策の市場化・分権化・保険主義に対抗する視点と課題
第2章 二一世紀の医療保障をめぐる争点と焦点
1 国保の危機と曲がり角に立つ地域医療(芝田英昭)
2 後期高齢者医療制度のねらいと構造(相野谷安孝)
3 高齢者と地域医療の将来をめぐる争点――高齢者「新医療制度」のねらいと問題点(寺尾正之)
第3章 医療保障をめぐる対決点と国民皆保険体制の展望(久保佐世)
1 医療保障をめぐる対決点とは
2 医療制度構造改革は、いかに進められたか
3 対抗の方向と具体的構想
第4章 社会保障・医療財政の現状と財政原則(高山一夫)
1 社会保障財政の現状
2 医療費の現状
3 医療・社会保障の財政原則
序章の前に、「シリーズ刊行に当たって」というやや長めの文章があって、そこに福祉国家構想研究会共同代表の岡田知弘、後藤道夫、二宮厚美、渡辺治4氏が書かれている現状認識が、いささか引っかかるものがあったので、ちょっと引用しておきます。
>・・・第一に、2009年の総選挙で民主党が大勝し、民主党政権が誕生したことである。民主党政権の誕生自体が、構造改革政治を止めて欲しいという国民の期待の所産でった。元もと、急進構造改革の路線を掲げて自民党と政権の座を争うべく登場した民主党は、2007年の参議院議員選挙を境に構造改革に懐疑的な路線に転換し、国民はその民主党に期待し、政権を委ねた。鳩山政権は、期待に応えるべく構造改革の枠から踏み出したが、財界、マスコミの圧力のもと、動揺をはじめ、続く菅政権での構造改革回帰を踏まえて、野田政権では再び構造改革政策の強硬路線に立ち戻ることになったのである。
こういう風な絵解きは、ある種の経済学派の政局論など世間でも結構見られるように思いますが、わたくしはかなり根本的なところで意見を異にしています。
むしろ、自公政権末期にはそれまでの新自由主義的構造改革路線から、西欧福祉国家型の構造改革路線(アクティベーション政策)に徐々に転換しつつあったのに、政権交代後の鳩山内閣時には、むしろその流れが断ち切られて、宮本太郎氏の言うところの「小沢型ベーシックインカム」的な無目的な金銭給付路線に堕してしまい、それが菅政権になってようやくまっとうな方向に向き出したというべきではないか、と考えているからです。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/post-e2cd.html(ダメな雇用創出が震災復興を妨げる?@『POSSE』13号)
>個人的には、宮本太郎さんが
>>では、その後の政権交代によって、アクティベーション政策は強まったと言えるか。私は率直に言って、停滞したと考えています。・・・実際は私の言う「小沢型ベーシックインカム」が中心になってしまいました。
とまで、ある時期までの民主党政権を否定的に総括しているのが印象的でした。
本書自体について言えば、医療保障は現物給付原則が大事だという基本理念はよく同意できるところなのですが、その感覚と、社会保障改革全般についての認識枠組みとのずれをどう理解したらいいのか、よく分からないところです。
このシリーズ、このあと、
【続刊予定】
②世取山洋介・福祉国家構想研究会編『無償化を実現する教育制度への展望』(仮題)
③後藤道夫・福祉国家構想研究会編『失業しても暮らせる保障制度の構築』(仮題)
と、続々と出るようですが、とりわけ「失業しても暮らせる保障制度」というのが、単にカネさえ渡せばいいだろうという捨て扶持ベーシックインカムにならないような現物給付原則をどう確立していくかという観点から、どのような提言が示されるのか興味深いところです。
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