マシナリさんの「働かないアリ」論
この本はベストセラーになっているようなので、今さら紹介する必要もないでしょう。書かれていることは、生物学ファンにとってはわりと常識みたいな話ですが、むしろその現代社会へのインプリケーションみたいな所に結構深い意義があったりします。
被災地の地方公務員として奮闘するマシナリさんが現場で見たのも、まさにこの「働かないアリに意義がある」現象でした。
http://sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-487.html
>・・・被災地の避難所で見た光景を思い出しました。その被災地では、震災直後から役場の職員がそれぞれの避難所に数名ずつ配置されて、役場の災害対策本部と無線でやりとりしながら避難所の運営に当たっていたのですが、主に運営を仕切っていたのが課長クラスの職員で、もう一人年配ではあるものの役職の高くない職員が配置されていました。後者の職員は、昔でいう「窓際族」というか池○先生いうところの「ノンワーキングリッチ」というか、身もふたもなくいってしまえば「無能なコームイン」を絵に描いたような職員に見えましたが、実はその方が見かけによらず(?)避難所に大量に押し寄せる食料品や物資の配給をそれなりに取り仕切っていて、ああ見えてやればできる人なんだなと思ったものです。
ところが、このいざというときに活躍した「働かないアリ」さん、それが過ぎると・・・
>ところが、震災から数か月後にその役場に行ってみると、物資の配給を取り仕切っていた職員がいかにもヒマそうにぶらぶらと役場の中を歩いているではありませんか。・・・
こういう「ムダ」(かっこよく言うと「リダンダンシー」)の効用に目がいかない
>教科書に書いてあることを金科玉条のごとく持ち出す研究者とか、現代社会が永年の試行錯誤の中で作り出してきた社会的規範を「キセーカンワしろ」などと叫ぶ研究者
もいらっしゃいますね。
最後のこの一節は、いつものことながらぴりりと締めています。
>本書で取り上げられている社会性昆虫よりも高い知性を持つとはいえ、ヒトも社会性を持つ生物であることに変わりありません。数式で表される美しい理論体系で経済政策を語り、教科書に書かれていない現象を現実にまみれながら理解しようとする立場を侮蔑し、教科書に書いてあることでは理解できない現実は政府などの公的セクターの陰謀論と決めつけ、政府・日銀の陰謀論に飽き足らず一般人まで「御用」呼ばわりするような専門家にとっては、ヒトという生物の社会は苦手なのかもしれませんね。
この一節が、またもや誰かさんの苦情で「見え消し」にならないことを願っておりますが。
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ご紹介いただきありがとうございました。
ご心配いただき恐縮です。熱心にTwitterをフォローしているわけではありませんが、いまのところ見え消しにしなければならない状況ではないようです。
それはともかく、本文で引用していただいた避難所の役場職員については、大変皮肉なことですが、その職員が永年のお役所仕事で頭が固くなっていたためか、物資の管理が杓子定規になっていて、そのことがかえって混乱を最小限に抑えていたのではないかと思います。秩序のない状態で管理する側の気が利きすぎたり頭の回転が速すぎると、それにつけいろうとするインフルエンス活動が活発化してしまうのかもしれません。
その意味でも、少数精鋭ではなく、ある程度のレベルの仕事を愚直にこなす人員を抱えることが、外部からのショックに対して長期的に「強い」組織作りにつながるのではないかと思うところです。
投稿: マシナリ | 2011年12月 9日 (金) 00時16分
一般的には、平時には平凡ないし愚直な人間でもなんとか務まるけれど、有事にはそういうのではダメで、「気が利きすぎたり頭の回転が速すぎる」くらいの人間でないと回らない、というのが常識的なんでしょうが、実際にこういう予想を遥かに超えるような有事が来てしまうと、かえって逆の現象が起きる、ということでしょうか。愚直の効用とでもいうか。
まあ、なまじ日頃頭の回転の悪い人を莫迦にしている程度のちょいと頭のいいたぐいの人々ほど、実は有事に使えないのかも知れません。
いろんな意味で教訓的でもあり、興味深い話です。
投稿: hamachan | 2011年12月 9日 (金) 10時02分