冷静ながらも血の通った感触のある、楽しい読本
引き続き、アマゾンカスタマーレビューで、拙著『日本の雇用と労働法』への書評です。筆者は「これでいいのだ」さん。
>タイトル通り、近代日本の雇用の変遷と、それをフォローかつリードしてきた労働法制についての、大変に分かりやすい入門書。法政大学非常勤講師としての授業「雇用と法」(2011年度後期)のテキストとして書かれたものらしく、授業を聴いているだろう法大生は幸福至極ではないか、と思わされた。
評者が着目した本書の論点はおおよそ三つ。一つは、日本の雇用は共同体に入っていくメンバーシップ型で、欧米式の契約ジョブ型とは言い難く、現行の雇用制度もその視角からみていくと理解しやすいように思えたこと。二つは、明治期に始まる近代的な雇用体制とそれを牽引・誘導する、労働者保護のための労働法制は、戦前・戦中・戦後を通じてほとんど分断されておらず、特に戦後労働運動には、「産業報国会」の空気が色濃くにじみ出ていること。三つは、近年の非正規雇用をめぐる論争にまだ「落としどころ」はみえておらず、しかしそのためのタタキ台となりそうな着眼点が多数示されていることだ。
ともあれ、日本の雇用と労働法に向けた著者の洞察と蓄積には目を見張るものがありそうだ。余計なことを言えば、日経文庫は無難な建前だけ、中立的な概略案内だけ、逐条的な法律解釈だけのカサカサした感触の本が少なくないように思うが、本書はそんな中にあって、冷静ながらも血の通った感触のある、楽しい読本となった。
「冷静ながらも血の通った感触のある、楽しい読本」という評語は、まさにわたくしがそうありたいと願っている姿であるだけに、大変嬉しいものです。
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