大嶋寧子『不安家族 働けない転落社会を克服せよ』
みずほ総研の大嶋寧子さんより、近著『不安家族 働けない転落社会を克服せよ』(日経新聞出版)をお送りいただきました。前著『雇用断層』に引き続き、今日の雇用生活問題に斬り込んだ本として、多くの方に読まれて欲しい本です。
http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/book/111208.html
>就職難にあえぐ若者、失業におびえる中高年、非正規雇用と低賃金化の増大、長時間労働の果ての過労死……。雇用の悪化が生活基盤を脅かし、結婚難・少子化と家族を持つことさえ難しい状況にあります。
豊富なデータや実証分析を紹介し、そこから見えてくる現役世代の「思い」「苦境」を浮き彫りにし、家族と雇用を同時再生する道しるべを示しています。
目次は下の通りですが、広範な領域に渉ってデータを駆使しながら、問題意識をくっきりと浮かび上がらせていく手際は見事です。
はじめに
第1章 家族の生活を脅かす雇用の不安定化
- 第1節男性の安定雇用が縮小する
- 第2節不本意型非正社員の増加
第2章 「働くこと」の内側で広がる問題
- 第1節正社員という働き方の不安定化
- 第2節女性の就業希望を生かせない日本
第3章 雇用悪化によって揺らぐ家族の生活基盤
- 第1節1950~1990年代前半――企業と家族の相互依存
- 第2節1990年代後半~現在――安定雇用縮小と揺らぐ生活基盤
第4章 家族を持つ、子どもを育てることが難しい
- 第1節雇用の悪化と結婚できない若者の拡大
- 第2節子どもを持てない
- 第3節企業を通じた生活保障の縮小と子どもの貧困
第5章 脆弱な現役世代への社会保障
- 第1節安上がりにされてきた現役世代への社会保障
- 第2節重い子育て費用と小さい児童手当
第6章 現役世代のリスク拡大
- 第1節雇用セーフティネットにあいた大きな穴
- 第2節ワーキング・プア――未だ議論途上の所得底上げ策
- 第3節ハウジング・プアの拡大
第7章 雇用と生活の不安定化は誰にとっての問題か
- 第1節日本経済への逆風に対抗できない労働市場
- 第2節今後増加が懸念される介護離職
- 第3節高齢者の貧困拡大と社会が負う負担
第8章 現役世代の雇用と生活を守る欧州の取り組み
- 第1節EU――雇用政策と社会保障の連動で「働く」を支える
- 第2節オランダ――働き方の多様化を実現したフレキシキュリティ政策
- 第3節英国――働く機会の再配分を目指して
- 第4節ドイツ――家族政策のコペルニクス的転換で目指すこと
第9章 現役世代の社会保障を機能強化せよ
- 第1節東日本大震災と「働くこと」を支える政策の重要性
- 第2節政策提言――現役世代と家族の生活基盤の再構築に向けて
参考文献
最後のところで現役世代のための政策提言が次のように掲げられています。
問題1 安定した雇用機会の縮小
政策提言:国内観光、環境・省エネルギー、家事・育児支援サービス、高齢者向けサービス等における内需活性化策の強化
問題2 不本意型非正社員の増加
政策提言:有期労働者の待遇改善、多様な正社員の推進策、正社員への転換支援策の強化
問題3 ワーキング・プアの増加
政策提言:給付つき税額控除の導入による低所得者の所得底上げ、内需活性化による雇用創出、良質な雇用の促進策、正社員への転換支援策との連繋
問題4 職業能力開発機会が不足する労働者の増加
政策提言:教育訓練給付制度の見直し
問題5 女性の本格就業の難しさ(女性雇用の非正規化、就業希望のある夢業者)
政策提言:保育等の育児支援サービスの抜本的拡充、有期労働者や男性の育児休業取得の促進策、多様な正社員の推進、再就職希望女性への就労支援の強化
問題6 雇用に起因する子供の持ちにくさ、子どもの貧困の拡大
政策提言:現役世代の生活基盤の強化、教育費の負担軽減(高校無償化策の維持、奨学金制度の拡充)
問題7 失業時のセーフティネットの不足
政策提言:求職者支援制度の発展的見直し、就労支援における民間・NPOとの連繋
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