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2011年11月11日 (金)

『登録型派遣労働者のキャリアパス、働き方、意識―88人の派遣労働者の ヒアリング調査から―』

Ono 労働政策研究・研修機構の報告書『登録型派遣労働者のキャリアパス、働き方、意識―88人の派遣労働者の ヒアリング調査から―』が刊行され、HPにアップされました。

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2011/0139.htm

この報告書については、先日も奥田さんのコラムに引っかけてちょっと紹介しましたが、この3年間掛けて、88人の派遣労働者に対して微に入り細をうがったヒアリングを行った結果を分析したもので、ちょっと気が早いですが、今年の大収穫の一つといってもいいでしょう。

二分冊で、Ⅰが分析編・資料編、Ⅱが事例編。

分析を執筆しているのは、小野晶子研究員と奥田栄二調査員です。

HP上では、主な事実発見としては、

>1 過去の職業キャリア

派遣労働者のキャリア・パスをみると、1994年以前卒業の場合、初職正社員の割合は約8割、1995~1999年では約6割、2000年以降では約4割と徐々にその割合が減っていく。他方、初職派遣社員の割合は高まっていく。

初職が非正社員で正社員経験のない層、特に非事務系から事務系へ職種転換をした者については、派遣労働で能力開発が出来ていると実感する傾向にある。彼(女)らは、自学自習的に資格やPCスキルの向上に投資し積極的に動いている。必ずしもキャリア・ステップはスムースではないが、能力の向上に実感を伴っていることから、派遣労働での能力開発を肯定的にみる傾向がある。

2 現在のキャリアと働き方

派遣の仕事は概ね定型的業務である。正社員と仕事が一部重なっている場合の違いは責任面にある。正社員比率が低下すれば、正社員はより難易度の高い業務を担当し、派遣社員との仕事の重複は無くなり、分業化していくことが予想される。

賃金上昇の主な要因は、a)職種変更、b)同一職種での業務の高度化、広範化、c)勤務地変更の3つ。同一派遣先での賃金上昇の特徴は、同一派遣先での勤続期間が2年以上と長く、仕事が高度化、広範化していることである。また、派遣労働者自身が、積極的に職域を広げていくこと、賃金交渉する姿勢が賃金上昇につながっている。

短期・単発派遣で働く者には、次の仕事に就くまでのつなぎの働き方として選択している層がいる。短期・単発派遣にはまり込む原因は、短期派遣を繰り返すうちに就職活動への資金や時間が無くなるなど、悪循環に陥る様相が観察された。

また、病気やメンタル面で体調を崩すなどの経験を持つ者が、生活の保持とリハビリ目的として、自身の体調に柔軟に合わせながら派遣労働を利用していることが観察された。

3 将来的キャリア

正社員希望にもかかわらず求職活動をしていない者は多い。その理由は以下の5点に分類出来る。a)育児・介護など生活優先、b)実務経験をつける準備期間、c)人的資本に対して障壁を感じている、d)正社員の労働条件等に疑問を感じている、e)求職活動の資金がない。

実際に正社員転換を打診された者の働き方は、打診された派遣先での仕事内容が広範化、高度化している。正社員転換を打診された時の年齢は、30歳前後に集中しており、同一の派遣先に半年から3年(中央値は2年)勤めた時点で打診を受けている。

正社員転換の打診を断った理由は、正社員に転換すると賃金や収入が減少する、労働負荷が増える、打診を受けた会社や職場の人間関係に魅力を感じないという3つ、これらの複合的理由による。

政策的含意としては、

>派遣という働き方は職種によって様々である。職業キャリアとスキルの乏しい層では、加齢とともに、正社員転職、さらに派遣労働の継続でさえ難しい状況に陥る可能性がある。今後の労働力人口の減少を踏まえれば、さらなる年齢差別のない労働市場環境の整備が望まれる。また、正社員に比べて能力開発の訓練機会が少ない派遣という働き方に対しては、スキル形成支援の強化が重要である。とくに派遣労働者は、様々な派遣先を移動する場合がありうることから、社会においてキャリアを構築できるシステム(例えば、イギリスのNVQやアメリカのキャリアラダープログラム等の取り組み)の検討も必要である。

が挙げられていますが、これで分かった気にならずに、是非報告書自体をじっくりと読んでいただきたいと思います。

そして、とりわけお願いしたいのは、是非Ⅱの事例編をもじっくり読んで欲しいと言うことです。単なるバックデータだろう、と思わないで欲しいのです。読むと圧倒されます。

実を言いますと、わたくしはこの報告書の内部のレビューと評価を担当したのです。その時のわたくしのコメントを一部引用しておきます。

>膨大かつ緻密なヒアリング素材を駆使して、今日の派遣労働者の多面的な姿を見事に描いた力作であり、JILPTの研究成果として大いに推奨しうる内容。全編にわたってスリリングな叙述が続き、労働研究者に大きなインパクトを与えるであろう。
その上で、若干の感想として。事例編の膨大なヒアリング記録を読むと、それらが今日のごく普通の労働者たちのライフヒストリーの絶好の記録になっていることに気づく。もとより、本研究の問題意識からして、それぞれの分析視角によって切り取られた部分がそれぞれの視角から分析されることは当然であるし、それがJILPTの研究であるわけだが、それを超えたいわば「労働の社会史」の素材としても大変フルーツフルであると感じられた。・・・

>・・・リーマンショック以来の不況の中で、ややもするとステレオタイプの派遣労働者像がマスコミ等で流通し、それが政策論として現実の政策過程に取り込まれていく状況が一段落した現在、冷静で現実に立脚した派遣労働政策を改めて再検討し、論議を深めていく上で、本報告書が貢献しうる範囲は極めて大きなものがあると思われる。

>・・・上述のように、書かれた部分については全面的に極めて満足すべき水準の成果である。評者はとりわけ、第9章のメンタルヘルスに関する分析が示す、今日の要求水準の高い労働社会において、メンタルなどの問題を抱える人々にとっての派遣労働という就労形態の持つ意味の指摘には目を見開かされた。その他にも、評価すべき点は多い。

その上で、あえて言うならば、第1分冊末尾の資料編「求められる行政上の支援」は、政策論議活性化への貢献度という観点からすれば、もっとも興味深く、かつさまざまな意味でスリリングな内容が含まれており、これが素材を生のままで一切調理の手を入れることなく投げ出されていることは、いささか違和感を与えるものとなっている。

もちろん、今日派遣労働問題は政局とも絡んだ高度に政治的テーマともなっており、そのため余計な政治的摩擦を避ける趣旨から、あえてこの部分を分析者の見解が示されざるを得ない分析の形ではなく、素材をそのまま読者の閲覧に供するというやり方をとったものであろうと想像されるところであり、それは極めて良く理解できるところではあるが、正直に言えば「もったいない」との感を禁じ得ない

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