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金子良事さんの再リプライ

金子良事さんから昨日のエントリに対して再リプライを頂きました。

http://ryojikaneko.blog78.fc2.com/blog-entry-218.html

>リプライも難しくなるのって、最初に投げた私のせい?

と、さりげに牽制されてますので、できるだけ平易に。

まず、POSSE川村さんも「金子さんと濱口さんとのやり取りはチャート式の話が主になってしまった…」と批判されているチャート式の件について。

>チャート式が嫌いというのは、それはそうなんですが、別に不要であるという意味ではありません。ただ、今回の社会政策・労働問題チャート式への不満は内容がやや古いということです。

それはまったくその通りです。大河内一男まではいきませんが、私が学生時代に聴いた社会政策の講義は兵藤釗先生。頭の中の基本枠組みは『日本における労資関係の展開』で、その上に最近の菅山真次さんなどが乗っかってるだけですから。

ただ、それこそ「教科書を書くと言って書かない某S先生」に責任を押しつけるんじゃなく、kousyouさんの「金子さんの労働史を整理した本読んでみたいなぁ」という励ましのお便りに是非応えていただきたいところです。

本体の話。たぶんこれが一番コア。

>ただ、チャート式の存在意義の話とは別に、入門書でメンバーシップ契約という単純な理念型を使うことについて、私は『新しい労働社会』から懐疑的です

これは本書の存在意義に関わるところなので、できるだけ丁寧に説明したいと思います。

こういう理念型を使わない労働法の入門書は、積み上げれば天井に届くほど山のようにあります。書き手も偉い大先生から若手までさまざま。

でも、それらは、結局、法律学の教科書でしかないのです。

とりわけ労働法において極めて重要な役割を果たしている判例法理を、必ずしも明示すらされていないそれ自体の内在的なロジックである現実社会のありように沿って解説しているわけではない、と、少なくとも私は感じています。

実をいうと、菅野和夫先生の『雇用社会の法』は、日本の労働法制を日本型雇用システムとの関係で解説するという点で、その方向への試みの書だったのですが、入門書というにはやや詳細に過ぎる嫌いがあります。正直言って、すでに労働法をある程度分かっている人が反省的に読む本です。

そこで、いわば社会学の入門書のように読める労働法の入門書を書いてみたい、というのが、本書執筆の基本的なモチーフであったので、それ自体に懐疑的と言われると、わたくし如きが書くべきものはなくなってしまいます。

もちろん、日本の労働法制を総体的に理解するためには、日本の雇用システムとの関係だけを見ていればいいわけではありませんし、「1ミリも学問的水準を下げてない」どころか、数十メートルも学問的水準を引き下げているのかも知れませんが。

個別論点の上層に単純な理念型を置くことのリスクは問われるべき」というのも、なかなか難しいところです。それがないから論点ごとにバラバラになってしまう。

実は、既存の労働法の教科書を初心者が素直に読んでいくと、たとえば採用のところでは思想信条を理由とした採用差別はOKよ、というところではケシカランなあ、と感じ、解雇のところでは整理解雇を規制するのは当たり前ジャンと感じ、人事異動のところでは配転拒否で解雇って非道いなあと感じ、過労死のところでは会社が賠償するのは当然ダロと感じる。その背後に是とするか非とするかはともかく、雇用システムとしての整合性、一貫性があるという客観的な認識が欠けがちになってしまうのです。

まあ、技術学としての労働法解釈学としては、個別論点ごとにさまざまな結論が出ることは別におかしくはないのですが、逆にそれゆえに、議論の整合性がどっちに得かという浅いレベルの整合性になってしまう危険性もあります。労働問題によくあるポジショントークのよくない現れです。

実をいうと、私がこういう「個別論点の上層に単純な理念型を置く」書き方をする理由は、利害優先型ポジショントークの論理的不整合性に気がついてもらえるようになってもらいたい、という隠れた希望もあります。

まあ、こういうことを繰り返しても、金子さんの違和感が解消することはないでしょうが。

あと、ブラック企業については、単純に定義の違いのようですね。POSSEの萱野さんとの対談で述べたように、わたくしはそもそも近代労働法以前的なブラックな労働状況を「ブラック企業」として今論ずべき対象とは思っていません。住み込み奉公も、女工哀史も、現代的課題としてのブラック企業ではありません。

むしろ労働者側が「人格要求」として勝ち取ってきた仕組みのある部分が失われある部分が増殖的に露呈することで、今日的に生じてきた現象であると私は考えています。

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