経営法曹の本音全開?
労働開発研究会より、浅井隆『戦略的な就業規則改定への実務-労働条件の不利益変更に当たる場合の見直し方法』をお送りいただきました。
http://www.roudou-kk.co.jp/books/book-06.html
>実務家の疑問を的確に解決する講演や執筆に定評のある筆者が、豊富な事例を示しながら、就業規則の各条項について、労働条件の不利益変更の方法を検討、分析、条項への反映、運用するまでをわかりやすく解説。企業が就業規則を本来の意味で活用するために担当者必携の一冊です。
ということで、手堅い実務的な労働法の本ではあるのですが、読んでいくと、こういうなるほど経営法曹の本音が全開だなあ、と感じる記述などもいっぱいあり、実務向けだけでなく、読んで面白い本でもあります。
そうですね、メンタルヘルスが話題になっているので、「休職」関係の項目を見てみますと、こういうまさに本音の記述があります。
>戦略的意義を有するのは、私傷病休職です。長期雇用システムを採るわが国の企業では、長い職業人生の中で、健康を害して働けなくなることは誰にでもあり得るので、その場合、福利厚生の観点から、労働者に一定の期間(休職期間)、療養の機会を与え、いたずらに退職とならないようにしようというのが休職の意義です。
>ただ、この「福利厚生の観点から」という目的は、もう少し深く戦略的意義付けの検討が必要です。すなわち、企業が会社といった営利企業なら、本来的に営利を目的とする以上、その目的に合致する範囲での福利厚生の観点からの配慮になります。つまり、会社は福祉法人ではないので、病気になった労働者を一生(あるいは長期)面倒を見るのは営利法人としての目的にはないのです。・・・まったく働けなくなった労働者を救済・保護するのは、その税金を徴収した国であり地方公共団体の役割なのです(憲法25条参照)。多くの営利法人たる会社が福利厚生の観点から私傷病休職を制度化するのは、それが営利目的に合致するからであり、その限りにおいてです。すなわち、長期雇用を前提に多くの時間とコストをかけて教育・訓練してきた労働者を一時的な病気で退職させたとしたら、投下した資本が回収できず無駄になるので、一定期間療養すれば治るならそれまで待とう、ということです。・・・
>このように、私傷病休職を制度化する上で、きちんと当該企業の戦略的意義から位置づけて設計すべきであり、いたずらに福利厚生の観点だけから制度設計のアプローチをすると、際限がなくなります。後で不都合が生じ、手厚すぎた内容を変更したいと思っても、労働条件の不利益変更の問題が待っています。
メンタルヘルスの休職というのが最近やたらに多くの問題になってきていますが、これがまさに、ここで浅井さんが言う「際限がなくなる」ということでトラブルを引き超しているのですね。
この項目以外にも、読んで興味深い記述が多く見られます。
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