大内伸哉『君は雇用社会を生き延びられるか』
ものすごい勢いで次々と本を出される大内伸哉先生の次なる一手は、過労死・過労自殺問題を出発点に、労働時間からメンヘル、パワハラまで取り上げる本でした。
http://www.akashi.co.jp/book/b94713.html
>現代社会において、会社で働くことは常に危険性をはらんでいる。過労、うつ、ストレス、パワハラ……。心身の健康を損ない、ときには死に至ることさえある。本書はその事実をデータを使って示しながら、自分たちを守ってくれる法の知識をわかりやすく解説する。全ての会社員、経営者、管理職必読。
夫の真一がくも膜下出血で亡くなってしまった幸子を主人公に、彼女が労災申請するために労働法を勉強するという設定で、関係する労働法制を詳しく解説していくという趣向の本です。解説が延々と続いて、幸子のことを忘れかけたあたりで、また幸子が顔を出すという感じではありますが、この分野の必要な知識が適切にまとまっていますね。
明石書店のHPから詳細な目次を引用しておきます。
プロローグ
第1章 家族が過労で亡くなったら
第1節 労災編
政府が助けてくれる?
労災保険制度の生い立ち
○Break 立証責任
労災保険による補償の内容
○Break 通勤災害
○Break 男女の容貌の違い
○Break 遺族補償年金の受給資格についての男女格差
業務起因性
○Break 誰を基準とするか(過労死)
○Break 労働時間の立証
不服申立
闘うことの意義
労災保険の申請をする
第2節 民事損害賠償編
会社を訴える!
時効の壁
○Break 第三者行為災害の場合
安全配慮義務とは
安全配慮義務法理のメリット
○Break 時効の壁を乗り越えた最高裁判所
システムコンサルタント事件
勝訴判決
本人の落ち度?
○Break 因果関係
裁判で勝つのはたいへん?
損害額はいくらか?
○Break 素因減額
○Break 男女の逸失利益格差
○Break 死亡事例ではない場合の損害賠償
どこまで控除されるの?
○Break どのように労災保険給付分が控除されるか
○Break 立法による是正
過失相殺と損益相殺はどちらが先か
第3節 過労自殺
人はそれほど強くない
電通事件
うつ病とは
○Break 最高裁判所で争う途は狭い
ストレス―脆弱性理論
因果関係は断絶しない
安全配慮義務違反
過失相殺
電通事件の教訓
労災認定
○Break 遺書があったために
○Break うつ病の診断ガイドライン
○Break 誰を基準とするのか(精神障害)
○Break 現在の判断指針の問題点
第2章 働きすぎにならないようにするために
第1節 労働時間規制
幸子の疑問
労働時間の規制は憲法の要請
法定労働時間の原則と三六協定による例外
三六協定は誰が締結するか
○Break 残業と時間外労働は少し違う
時間外労働の限度
○Break 時間外労働をさせてはならない場合
割増賃金
○Break 「労働者」であっても、「使用者」としての責任が課される
割増率の引上げ
○Break 残業手当と割増賃金
三六協定の効力
労働契約上の根拠と就業規則
○Break 労基法の強行的効力と直律的効力
就業規則の合理性
○Break 就業規則とは何か
○Break 弾力的な労働時間規制
第2節 日本の労働時間規制の問題点
日本人は働きすぎ?
時間外労働の事由
限度基準の強制力
○Break 「限度時間」を超える時間外労働命令の効力
労働時間規制が厳しすぎる?
○Break 労働時間とは何か
管理監督者
○Break 裁量労働制
第3節 日本の休息制度
休息は法定事項
休憩時間
○Break 行政解釈
休日
○Break 安息日
年次有給休暇
○Break 出勤率の計算方法
○Break 年休の取得に対する不利益取扱い
特別な休暇・休業
第4節 休息の確保のための制度改革の提言
1日単位での休息の確保
1週単位での休息の確保
○Break 労働時間・休息規制の例外
年休制度の見直し
○Break バカンス
第3章 日頃の健康管理が大切
第1節 法律による予防措置
幸子の後悔
労働安全衛生法
健康保持増進措置
○Break 安全衛生管理体制
健康診断
○Break 採用時の健康診断
○Break 法定外健診について
裁量労働制における健康確保措置
第2節 健康増悪の防止
健康診断後の措置
○Break 労働時間等設定改善委員会
○Break 社員の自己決定は、どこまで尊重されるか
面接指導
休職をめぐる問題
○Break 自宅待機命令
第3節 メンタルヘルス
メンタルヘルスはどこに?
○Break メンタルヘルスケア
プライバシー保護
第4章 快適な職場とは?
第1節 職場のストレス
人間関係は難しい?
○Break 個別労働紛争解決制度
○Break 嫌煙権
快適職場指針
第2節 セクシュアルハラスメント
セクシュアルハラスメントは新しい概念
セクシュアルハラスメントに対する法的規制
会社の損害賠償責任
○Break 自分から辞めてもあきらめてはダメ
第3節 パワーハラスメント
パワーハラスメントとは
パワーハラスメントと会社の責任
○Break 最初のいじめ自殺の裁判例
パワーハラスメントと労災
望ましいパワーハラスメント対策は
○Break 解雇規制とパワーハラスメント
エピローグ
巻末資料
ごらんのとおり、前半は過労死、過労自殺関係の労災補償と民事賠償がメイン。後半は労働時間規制や休息規制からさらに健康、メンタルヘルス、セクハラ、パワハラと、最近の話題が満載です。
「休息の確保のための制度改革の提言」(p188)では、拙著のEU型休息期間規制の議論も引用していただいております。情報労連の勤務間インターバルも紹介されています。
いろんな意味で議論のネタになりうるのが、p265の「解雇規制とパワーハラスメント」というコラムでしょう。
>解雇規制が緩和されれば、会社は虐めやパワーハラスメントにより退職強要する必要はなくなるし、また転職市場が整備されれば、社員は嫌な会社にしがみつく必要が弱まるので、パワーハラスメントの問題状況も大きく変わっていく可能性はあろう。
実は、とりわけ大企業分野ではかなりそういう面もないわけではないとは思いますが、とはいえ、どぶ板レベルの個別労働紛争を見ていると、かなり解雇自由に近い中小零細企業でも、それはそれなりにいじめ・嫌がらせが花盛りという面もありますので、そう単純な話でもなかろうと思います。
個人的には、雇用契約における指揮命令権限との関係で、この問題をきちんと論じ直す必要はあると思っていますが、なかなか頭が回らないのが正直なところです。
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