海老原嗣生『就職、絶望期』扶桑社新書
海老原嗣生さんより、新著『就職、絶望期』(扶桑社新書)をお送りいただきました。例によって、例の如く、海老原節全開の快著です。
http://www.fusosha.co.jp/book/2011/06419.php
>就活批判・中高年叩き・欧米型礼賛など、雇用をめぐる安易な議論。それに乗って税金をバラ撒く行政。
結果、”氷河期”より深刻な事態が進行している!
人事のエキスパートが、警告と同時に「本当の解決策」を提示する
<主な内容>
・「新卒一括採用批判」「欧米型礼賛」の的外れ
・「既卒3年=新卒扱い」施策は若者の首を絞める
・にわか雇用論に乗って税金をバラ撒く行政の失策
・中高年を「年金・雇用の逃げ切り世代」と叩く誤り
・出世やスペシャリティはあなたを守らない
・大学は「補習の府」になるべきだ
・「年功」はないが「終身」はある雇用へ
etc.
本書については、すでにマシナリさんのブログで、マシナリさんと海老原さん本人との対話が繰り返しなされておりますので、ご紹介しておきます。
http://sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-472.html(「都市伝説」の連鎖)
>いや、もちろん海老原さんもこうした「都市伝説」を虚像だとわかって書いていらっしゃるのだろうと(期待を込めて)考えています。それでもこういったセンセーショナルな書き方の方が売れるのでしょうし、巻末の城繁幸氏との対談でも海老原さんの発言は奥歯に物の挟まった感じがしますので、いろいろな民間同士のしがらみがあるのではないかと余計な詮索をしてしまうところですが、これも「都市伝説」なのでしょうか。。
http://sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-473.html(そこそこの働き方)
>そこで、本書で海老原さんは「“そこそこ”の働き方を制度化せよ」(p.250以下)として職務や地域を限定した職を増やすことを提言されています。古くは日経連(現経団連)が提唱した「雇用ボートフォリオ」とかhamachan先生の主張される「ジョブ型社員」にも通じる提言だと思いますので、議論は収斂していくのだろうと思いますが、個人的にはhamachan先生の指摘される視点が重要だと考えています。
>いつもご書評、ありがとうございます。
最後の「そこそこの働き方」が、濱口先生へのオマージュになっていること、見抜かれてしまいましたね。さすが!
>なお、本エントリでは引用していませんでしたが、本書p.254の「新しい労働社会のかたち」がhamachan先生の『新しい労働社会』へのオマージュとなっているということですね。hamachan先生の主張に対応する具体的な日本型雇用慣行の未来形として、私も興味深く拝見しました。「10年後に振り返ると、「ああ、また日本にしてやられた」と世界中、そして日本に住む私たち自身でさえ、あきれ顔半分、簡単半分でそう苦笑いしているような気がしてならない」(p.256)という言葉に力づけられますね。
http://sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-475.html(ブラック企業という新興産業)
>この部分を読むだけでも、ブラック企業と海老原さんが例示された中小企業との違いが如実に読み取れると思います。結局のところ、キセーカンワやら新規形態の外食産業やらIT企業などのベンチャービジネスへの礼賛によってもたらされたのは、ブラック企業が易々と労働者を使い捨てることができるという現実だったのではないでしょうか。労務管理の体制をしっかりと構築し、人材の育成に力を入れているような中小企業が旧態依然としたものとして忌み嫌われる一方で、社員全員が「企業家精神」をもって生活なんか顧みないで働くことこそが21世紀型の働き方だと喧伝された結果といえそうです。拙ブログで以前使っていたことばで言えば「経営者目線」を強要されるということですね。
>つまり、認識的に一致するところは多々ありました。ただ、問題は、やはり「中小は全部ダメ」というところ。その裏返しには、「大企業は良い」という昭和的価値観が透けて見えるのです。実際、不動産開拓系の大手上場企業や、某ファーストフードチェーン、精密機器販売代理業の上場企業など、いくらでも大手ながらブラックはあります。そして、そういうところに、「知名度に魅かれて」就職する学生が非常に多い。こういうケースを見ると、「規模だけで企業を判断するな。その大手ブラックより、足元に中小のあなた向きの企業があるよ!」といいたくなってしまう。
この部分を、今野さんたちがわかってくれたらと感じました。
>まさにこの点に尽きるのだと思います。大企業だろうと中小企業だろうとブラックな企業はブラックで、優良な企業は優良だというシンプルな問題のはずですね。問題は、そのモノサシが「会社や事業の規模が大きいか小さいか」に単純化されてしまっているキャリア教育の現場にあるということなのでしょう。
「昭和的価値観」という言葉には某氏によってバイアスがかかってしまっていて(笑)、ちょっと使いづらいところはあるのですが、そうした価値観が「多様な働き方」、「多様な生き方」を制限してしまっているというご指摘は重要だと思います。特に、「大学を出たからには、何の変哲もない地元中小企業ではなく大企業やグローバルなIT企業に就職すべきだ」という価値観があって、それがブラック企業がはびこる一因となっている現状では、大学のキャリア教育の段階でその価値観を転換することこそが必要なのだろうと思います。
最後のやりとりは、今野・川村『ブラック企業に負けない』をめぐる対話ですが、海老原さん著をめぐる対話の延長上で、深い議論になっています。
さて、わたくしにとっては、本書は前に本ブログで述べたように、
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/05/post-159c.html(日本経団連で海老原嗣生さんと初対面)
で、直接面前でお聞きした話がいっぱい詰まっておりました。
とりわけ、第5章§4「幹部候補ではない正社員を創設せよ」に出てくるフランスとアメリカと日本のどこからどこまでがエリートで、どこからどこまでがエリートじゃないかの図解は、大変わかりやすいな!と感動ものだったのを覚えております。
来月も、中公新書ラクレから新刊を出されるとのことで、楽しみです。
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海老原さんとのやりとりをご紹介いただきありがとうございます。拙ブログでは一部批判的に取り上げてしまいました(その点は海老原さんご自身も「下品」だと反省されていました)が、就職にまつわる入口から出口までの実務上のフェーズに応じて、議論すべき論点が整然と並べられた良書だと思います。
そこでタイミング良く(?)今野・川村『ブラック企業に負けない』を読んで、両者に共通するところ、方向性が異なるところが見えやすくなったということであれこれ比較してみた次第です。
貴エントリのTwitterで川村さんが「海老原さんと有名ブロガーのマシナリさんが『ブラック企業に負けない』にコメントをくれていたみたいです。ぎり昭和生まれとはいえ「大手は安泰」という価値観はありませんが。笑」と呟いていらっしゃいまして、私は有名ブロガーでも何でもありませんが、「昭和的価値観」という言葉はどうもバイアスがかかり気味な気がしますね。これもやっぱり優良な中小企業の情報不足が一番のネックになっていると考えるべきで、海老原さんが主張されるような良質なデータベースの整備などがブラック企業に対抗する一つの方向性なのだろうと思うところです。
投稿: マシナリ | 2011年10月11日 (火) 23時33分
hamachanさん、有名ブロガーのマシナリさん、どうもいつもありがとうございます。(しばらく、ブログ等見ないでおりましため、連絡遅れてしまいました)。今村さんとか「絶望の国~」の古市さんとか、若くてこれくらい発信できる人が、腕を磨いて認知をとっていけば、少しずつ社会は変わるかもしれませんね。
hamachanさん、私の次作ではラストに「新しい労働社会」を飾っていただいてありがとうございます。労働関連の戦後史、とも言えるような本ですが、多分に知識不足があると思われます。その部分では、専門家のhamachanさんからの厳しい叱咤、覚悟しておりますので。
投稿: 海老原嗣生 | 2011年10月20日 (木) 04時18分