産業医が法廷で裁かれた日
各紙に出ていますが、読売から、
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20111025-OYT1T01268.htm(産業医が休職者に「甘えだ」…60万円賠償命令)
>自律神経失調症で休職中、産業医に「病気でなく甘えだ」などと言われ病状が悪化したとして、奈良県に住む40歳代の団体職員の男性が、当時の産業医に530万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、大阪地裁であった。
寺元義人裁判官は「安易な激励や、圧迫的、突き放すような言動は病状を悪化させる危険性が高く避けるべきで、産業医としての注意義務に違反した」と述べ、元産業医に慰謝料など60万円の支払いを命じた。
判決によると、男性は2008年6月から同失調症で休職。治療で復職のめどが立った同年11月、元産業医との面談で、「病気やない、甘えなんや」「生きてても面白くないやろ」「薬を飲まずに頑張れ」などと言われ、病状が悪化。復職の予定が約3か月遅れた。
元産業医は内科が専門で、裁判で「励ましの言葉をかけることはあったが、詰問や人格を否定するような発言はしていない」と主張。判決で寺元裁判官は「産業医は心の健康への目配りを通じて労働者の健康管理を行うことも職務だ」と指摘。同失調症を「うつ病などとの関連性が考えられる」とし、慎重な言動の必要性に言及した。元産業医は昨年3月、この団体での勤務を辞めたという。
判決文自体を見ていないので、記事だけであんまり踏み込んだコメントはしにくいのですが、それにしても、遂にメンタルヘルス関係で
「産業医が法廷に立つ日」いや「産業医が法廷で裁かれる日」が来てしまったんだなあ、としばし感慨。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/05/post-f568.html
このエントリでも、
>先日取りまとめた個別労働紛争処理事案の分析の中でも、メンタルヘルス関係事案では産業医が当事者に近い形で登場してくる例がいくつかあり、産業医の立ち位置というものについて考えさせられます。
とコメントしていたのですが、これは本当に難しい問題だろうな、と思います。
大体、産業医って、ここ十年ぐらいメンタルヘルス問題が話題になるまでは、ほとんどもっぱらフィジカルなヘルス面だけが担当であったわけで、世の中もそれが当たり前だと思っていたし、上の記事の産業医の台詞も、今の時点の目で見れば「産業医なのにけしからん」と見えるかも知れないけれども、少し前までの我々一般人の認識というのもまさにそういうレベルのだったわけで、メンタル関係の素養のあまりない普通の産業医が、そういう一般人的な感覚を持ち続けていたことと自体は、(善悪は別にして)かなりの程度やむを得ない面もあったような気もするのです。
もちろん、とりわけ21世紀になってからメンタル問題が人事労務管理上の大きな問題になり、産業医の方々も改めていろいろ勉強しつつあるところなのでしょうが、事態の急速な進展に、体制が追いついていっていないという面もあるのではないか、と、ここはあえて冷静な視点の重要性を強調しておきたいと思います。
ちょうど折しも、大震災の影響で国会提出を留保していた労働安全衛生法の改正案を、今臨時国会に提出するということのようで、改めてこの職場のメンタルヘルス問題が大きな問題になりつつある、というよりも既になっているという認識を持たれる必要があるのでしょう。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001slsj.html
>厚生労働大臣から、本日、労働政策審議会(会長 諏訪 康雄 法政大学大学院政策創造研究科教授)に対し、別添1のとおり「労働安全衛生法の一部を改正する法律案要綱」について諮問を行いました。これについて、同審議会安全衛生分科会(分科会長 相澤 好治 北里大学副学長)で審議が行われた結果、同審議会から厚生労働大臣に対して、別添2のとおり答申がありました。
厚生労働省としては、この答申を踏まえて法律案を作成し、臨時国会提出への準備を進めます。
【ポイント】
○メンタルヘルス対策の充実・強化
・医師又は保健師による労働者の精神的健康の状況を把握するための検査を行うことを事業者に義務づけます。
・検査の結果は、検査を行った医師又は保健師から労働者に直接通知されます。医師又は保健師は労働者の同意を得ずに検査結果を事業者に提供することはできません。
・検査結果を通知された労働者が面接指導を申し出たときは、事業者は医師による面接指導を実施しなければなりません。なお、面接指導の申出をしたことを理由に労働者に不利益な取扱をすることはできません。
・事業者は、面接指導の結果、医師の意見を聴き、必要な場合には、作業の転換、労働時間の短縮など、適切な就業上の措置をしなければなりません。
○受動喫煙防止対策の充実・強化
・受動喫煙防止のため、職場の全面禁煙、空間分煙を事業者に義務づけます。
・ただし、当面の間は、飲食店や措置が困難な職場については、受動喫煙の程度を抑えるために一定の濃度又は換気の基準を守ることを義務づけます。
« 就活ビルドゥングス・ロマン!@常見陽平 | トップページ | 経営法曹の本音全開? »
最近Twitterとネットで見つけたところですが、 https://www.city.yamagata-yamagata.lg.jp/shiseijoho/johokokai/1007070/1004416.html 山形市情報公開・個人情報保護審査会の答申第7号で、【山形市総務部職員課が行った「山形市役所本庁舎(山形市旅篭町2丁目3番25号にある事業場)について、令和3年4月1日から令和3年10月31日までの間に、労働安全衛生法に基づいて、産業医が実施した作業場等の巡視の状況又は結果が分かる資料」の非公開決定処分に関する件】を見ました。
地方公務員にも労働安全衛生法の産業医に関わる項目の適用があることを再認識したところです。
この中で、産業医の作業場等の巡視は年2回で足りると市が認識して、対象期間に作業場等の巡視がなかったと説明しています。
市と産業医の契約がどうなっているかは分かりませんが、地域の事情で年2回しか来ることができない医師しか探せなかったためや相応の報酬を支払うことができない等の事情で年2回で足りるとした契約を結んでいた場合や、事業者側が年2回しか巡視を要請していなかった場合にまで、安全配慮義務違反の問題が産業医にかかってくるものでしょうか。訴訟として責任追及することができても、安衛法第13条や安衛則第15条の問題で最終的に責任を負うのはやはり事業者ということでしょうか。
投稿: 安衛法便覧 | 2022年5月23日 (月) 07時08分