「最近の生活保護急増の主因は、景気低迷ではない」というのはそれ自体は正しいが
鈴木亘氏が、ブログで、「最近の生活保護急増の主因は、景気低迷ではない」と述べています。
http://blogs.yahoo.co.jp/kqsmr859/35451215.html
そのこと自体は、認識論的には、私は賛成です。問題はその評価でしょう。
>日本には、生活保護制度をきちんとデータに基づいて議論する研究者はきわめて少なく、それが生活保護制度についてウェットな感情論が横行する原因の一つとなっている。しかし、きちんとデータに基づいて分析をすれば、巷で言われているように、最近の生活保護急増がリーマンショック後の景気悪化によってもたらされたわけではないことは明らかである。稼働能力層に生活保護を広げる厚生労働省の政策変更が、急拡大をもたらしているのである。政策変更によってもたらされたものは、景気回復によっても元に戻りはしない。
ウェットであるとか、ドライであるとかといった、妙に感情的なものの言い方をする必要は全くないと思いますが、この指摘自体はその通りでしょう。
ただし、それは、生活保護法のどこをどう読んでも「稼働能力層には生活保護なんか出してやらねえよ」とは書いてないのに、勝手に(つまり法律に反して)出してこなかった(正確にいえば、政治家とかヤクザみたいなのにねじ込まれない限り出してこなかった)わりと最近までの扱いがおかしかったということだけで、その意味では法律論としては本来の姿になっただけということになります。
それをどうにかしたいのであれば、法律をどうにかするしかありえないのであって、法律違反の頃がよかったのに・・・という議論は、法学部卒業じゃないからといって許されるというわけではありません。
立法論としてはいろいろな議論があり得ますが、
>一方で、急拡大する稼働能力層の自立支援や、自立へのインセンティブ確保により、彼らを切り捨てるのではなく、生活保護費の効率化をすすめる余地はないのか、生活保護制度改革に対する真剣な議論も必要である。
その中では、生活保護制度内だけの改革ではなく、生活保護制度に稼働能力層を受け入れるのが本当によいのか、それとも、第二のセーフティーネットをきちんと支援付きのものにして機能させたり、「給付付き税額控除」を導入することによって、低所得者が働きながら十分な収入を得る自立促進的な仕組みを整えるなど、生活保護に安易に入れずに支援する手立ても、十分に議論すべきである。
私は基本的には生活保護制度の中に、きちんと自立支援のメカニズムを埋め込み、(法が本来予定する)稼働能力層向けの制度として整備することが重要だろうと考えています。
第2のセーフティネットである求職者支援制度は、明後日から施行されますが、基本的には職業訓練受講を条件とする生活保障制度であり、それがあるから生活保護から稼働能力層を追い出せるような制度間の分担になっているわけではありません。
そこに、むりやりに生活保護制度の代替機能を要求すると、まさに職業訓練機能に対して有害な事態が生じ得ます。
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