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2011年9月20日 (火)

目からうろことはこういう本のことを言う

福岡で、主として労働者側の立場に立って活躍されている特定社会保険労務士の篠塚祐二さん(人呼んで「特定社労士しのづか」)が、さっそく刊行されたばかりの拙著『日本の雇用と労働法』(日経文庫)を取り上げておられます。

http://sr-partners.net/archives/51785309.html(濱口桂一郎著「日本の雇用と労働法」(日経文庫)は目からうろこです)

篠塚さん、読み始める前はいささか落胆気味だったようです。

>法政大学社会学部の学生のためのテキストとして書かれたというこの本。帯に「画期的入門書」と書かれているし、まえがきには「素人向けの当たり前に見えることばかりが書いている」との記述が見える。

書店で一度も見ずに、amazonから送ってもらったものなので、「あぁ、間違った。こんな素人向けの労働問題の本など買うべきじゃなかった」と思いつつ、国民の祝日で暇なのでとりあえず先を読むことにした。

いや、「素人向けの当たり前に見えることばかり」を素材に、玄人向けの本でもあまり書かれていないことを伝えるというのが、この本のキーコンセプトですので。

>私の知識の上で弱点である集団的労使関係つまり労働組合についての章から読み始めると、これが実にわかりやすい。ジョブ型労使関係法制(欧米の職種別組合を前提とした労働組合法など)が実際に運用される段階では、メンバーシップ型(現実に設立されたのはほとんど全てが正社員中心の企業別組合)の運用になっていることからくる矛盾やちぐはぐさとして紹介しておられるところが、実に鮮やかで、くっきりとわが国の労働組合の特質が浮かび上がってくる。・・・

なまじ、正面切った労働法の教科書だと、裁判所で弁護士が一生懸命並べ立てるロジックに沿った形でしか議論が展開されないため、かえってそういう視点が見えなくなってしまうのだと思うのです。その結果、経済学や社会学で論じられる労使関係イメージと法律学で論じられる労使関係イメージが乖離したまま、統合的な視点は、実務家の「智慧」の中にしか存在しないというようになっていったのでしょう。

>目からうろことはこういう本のことを言う
社労士はとかく労働・社会保険各法及び関連判例の視点で社会を見ることにたけているが、歴史的視座で考えることは苦手です。

それは社労士だけではなく、実は経済学者や法律家もある意味では同じなのですよ。

そして、歴史的視座で考えないから、ディシプリンが違うと言葉が通じなくなるのだと、私は考えています。

(参考)まえがき

>本書はいささか欲張りな本です。「日本の雇用システム」と「日本の労働法制」についての概略を、両者の密接な関係を領域ごとに一つ一つ確認しながら解説している本なのです。
 書店に行くと、山のような数の労働法の教科書が並んでいます。いずれも法学部やロースクールの学生、法律実務家にとっては必要不可欠な「武器」ですが、他学部の学生や他分野で労働問題に関わっている人々にとっては、いかにも法解釈学的な理屈をこね回した叙述や膨大な判例の山が取っつきにくい印象を与えていることは否めません。
 一方、現実の労働問題を経済学、経営学、社会学などの観点から分析した書物もたくさん出ていますが、労働法的な観点はあまりないか、あってもやや突っ込み不足の感があります。
 文科系と理科系の断絶ほどではないにしても、法学系と社会科学系の間のディシプリンのずれは、労働問題というほとんど同じ社会現象領域を取り扱う場合であっても、なかなか埋まりにくいようです。
 本書は、経済学部、経営学部、社会学部などで労働問題を学ぶ学生にとっては、そこで学んでいる日本の雇用システムのあり方との関係で現代日本の労働法制を理解するための便利な一冊ですし、法学部やロースクールで労働法を学ぶ学生にとっては、そこで学んでいる労働法制がいかなる雇用システムの上に立脚し構築されてきたのかを理解する上で役に立つでしょう。いわば、「二つの文化」を橋渡しする有用な副読本です。
 また、企業や官庁、団体などで労働問題に携わる人々にとっては、現実を分析し、対策を講じていく上で、どちらの手法も必要になりますが、それぞれの分野の緻密で詳細な論文を読む前に、本書でざっくりとした全体像を概観しておくと、頭の中が整理しやすいのではないでしょうか。
 さらに、労働問題についてさまざまな立場から論じている各分野の研究者の皆さんにとっても、素人向けの当たり前に見えることばかりが書いているように見える記述の合間に、玄人にとっても意外な発見があるかも知れません。
 著者は二〇一一年度後期から法政大学社会学部で非常勤講師として「雇用と法」を講義することになり、そのためのテキストとして本書を執筆しましたが、労働問題を総合的に捉えたいと考える多くの読者によって読まれることを期待しています。
 なお、本書の内容についての分野ごとのさらに詳しい説明は、著者のホームページ(
http://homepage3.nifty.com/hamachan/)に収録した論文を参考にしてください。掲載メディアごと及び分野ごとに整理したリストから各論文にリンクが張ってあります。
 本書の刊行に当たっては、日本経済新聞出版社の平井修一さんに大変お世話になりました。心からお礼を申し上げます。

二〇一一年九月
                                                                 濱口桂一郎

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