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2011年9月30日 (金)

水町勇一郎『労働法入門』岩波新書

S1329 水町先生より、新著『労働法入門』(岩波新書)をお送りいただきました。

http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1109/sin_k611.html

いうまでもなく、水町さんは現在もっとも元気な労働法学者ですが、「大学で労働法を勉強したわけではない一般市民のみなさんに向けて、労働法の全体的な姿をわかりやすく解き明かすことを試みた」(あとがき)200ページあまりの本書は、確かに現時点における決定版と言うにふさわしい内容になっています。

別段示し合わせたわけではないのですが、わたくしの『日本の雇用と労働法』(日経文庫)と見事にシンクロしてしまいました。両者を併せ読むと、似たところと違うところがくっきり浮かび上がってきて、一興かと思います。

目次を見ると、あとがきにいう「全体的な姿」が見てとれます。

>はじめに―働くことと法

  第1章 労働法はどのようにして生まれたか―労働法の歴史   
  1 労働法の背景―二つの革命と労働者の貧困
2 労働法の誕生―「個人の自由」を修正する「集団」の発明
3 労働法の発展―「黄金の循環」
4 労働法の危機―社会の複雑化とグローバル化

   第2章 労働法はどのような枠組みからなっているか
  ―労働法の法源   
  1 「法」とは何か
2 人は何を根拠に他人から強制されるのか
3 労働法に固有の法源とは
4 日本の労働法の体系と特徴

   第3章 採用、人事、解雇は会社の自由なのか
  ―雇用関係の展開と法   
  1 雇用関係の終了―解雇など
2 雇用関係の成立―採用
3 雇用関係の展開―人事

   第4章 労働者の人権はどのようにして守られるのか
  ―労働者の人権と法   
  1 雇用差別の禁止
2 労働憲章
3 人格的利益・プライバシーの保護
4 内部告発の保護
5 労働者の人権保障の意味

   第5章 賃金、労働時間、健康はどのようにして守られているのか
  ―労働条件の内容と法   
  1 賃金
2 労働時間
3 休暇・休業
4 労働者の安全・健康の確保
5 労働者の健康を確保するための課題

   第6章 労働組合はなぜ必要なのか
  ―労使関係をめぐる法   
  1 労働組合はなぜ法的に保護されているのか
2 労働組合の組織と基盤
3 団体交渉と労働協約
4 団体行動権の保障
5 不当労働行為の禁止
6 企業別組合をどう考えるか

   第7章 労働力の取引はなぜ自由に委ねられないのか
  ―労働市場をめぐる法   
  1 なぜ労働市場には規制が必要か
2 雇用仲介事業の法規制
3 雇用政策法
4 日本の労働市場法をめぐる課題

   第8章 「労働者」「使用者」とは誰か
  ―労働関係の多様化・複雑化と法   
  1 労働関係が多様化・複雑化するなかで
2 「労働者」―労働法の適用範囲
3 「使用者」―労働法上の責任追及の相手
4 「労働者」という概念を再検討するために

  第9章 労働法はどのようにして守られるのか
  ―労働紛争解決のための法   
  1 裁判所に行く前の拠り所
2 最後の拠り所としての裁判所
3 紛争解決の第一歩

   第10章 労働法はどこへいくのか
  ―労働法の背景にある変化とこれからの改革に向けて   
  1 日本の労働法の方向性
2 「個人」か「国家」か―その中間にある「集団」の視点
3 これからの労働法の姿
   ―「国家」と「個人」と「集団」の適切な組み合わせ
4 労働法の未来の鍵


   あとがき
 事項索引

今次拙著が日本の雇用システムと労働法という観点から、雇用関係法+労使関係法にわりと絞っているのに対し、非常に広がりのある分野を包括的に扱っています。

新書編集部の方の言葉:

>突然、賃金をカットされて、日々の暮らしが厳しくなってしまった人。連日の残業や休日出勤で心身に不調をきたしてしまった人。会社の経営悪化で解雇され、不安定な派遣労働を強いられている人。何カ月も職探しをしているのに、なかなか就職先が決まらずに途方に暮れている人。会社でありもしない噂を流され、職場に居づらくなってしまった人……。今の日本で、労働をめぐる問題を抱えたり、壁にぶつかったりしている人たちはたくさんいることと思います。また、いつ自分がそういう立場に立たされるかと不安に感じている人たちも多いのではないでしょうか。

 こうした問題に直面したときにこそ、労働法は私たちの力強い味方になってくれるはずです。労働法を役立てるためにも、労働法に脈打つ精神とその法制度について理解しておきたいものです。

 本書は、第一線で活躍する労働法学の著者に、諸外国との比較や最新の状況もふまえ、労働法の基礎知識を体系的にまとめていただいたものです。文章も平明でクリアです。ぜひお読みいただければと思います。

(新書編集部 小田野耕明)

既に、労務屋さんやアモーレ大内先生など、両者をブログ上で取り上げている方もいますので、ここでは中身の話ではなく、「えっ、そうだったの!」という豆知識を。

>私は、25年前、理科系の学生として大学に入学した。・・・その後、いろんな理由があって法学部に移り、法について語る研究者になった。(p25)

それは知りませんでした。

あと、p45(日本の労働関係の特徴-共同体的性格)で、菅山さんの本と並んで拙著『新しい労働社会』を引用していただいているほか、とりわけ嬉しかったのは、終わり近くの第9章で、わたくしたちJILPTの研究者による個別労働紛争の報告書を次のように引用していただいたことです。これは、わたくしたちにとって、大変励みになります。ありがとうございます。

>・・・このような状況のなか、実際の労働の現場では、労働法の教科書に書いてあることとは程遠い、ひどい事件が数多く起きている。労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎氏らがまとめた『個別労働関係紛争処理事案の内容分析-雇用終了、いじめ・嫌がらせ、労働条件引下げ及び三者間労務供給関係』(労働政策研究報告書123号)は、実際の労働紛争の実像を丹念に分析している。法と実態の乖離が日本の労働法の大きな特徴となっている。

不条理な事態に直面したときに、泣き寝入りしたのでは自分の権利や信念は守れない。それだけでなく、法と乖離した実態を容認することは、会社側に法を守らなくてもよい、さらには、法を守っていては激しい競争に生き残れないという意識を植え付け、公正な競争の前提自体が損なわれる事態を生む。・・・

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