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2011年9月13日 (火)

労働のかたまりの誤謬@OECD

昨日、厚労省の労働政策審議会で高齢者雇用の審議が始まったという記事について、

http://www.nikkei.com/news/latest/article/g=96958A9C93819481E3E0E2E19D8DE3E0E2EBE0E2E3E39797E3E2E2E2政府、高齢者雇用の義務付け強化へ 企業の反発も

>厚生労働省は12日、厚生年金の支給開始年齢を段階的に引き上げるのに伴い、定年退職時に年金を受け取れない会社員が出る問題について、労使を交えて対応策の協議を始めた。企業に65歳までの再雇用を義務付ける現行の制度をより厳格にする案を軸に議論する。定年の延長の義務化は見送る方向だ。来年の通常国会に関連法案を提出する考えだが、コスト増につながるため、企業の反発は根強い。

 経団連など使用者側、連合など労働者側、学識経験者それぞれの代表で構成する「労働政策審議会」の雇用対策基本問題部会を同日開いた。月2回ほど会議を開き、年内に結論を出す。

さっそく、

http://twitter.com/#!/hahaguma/status/113422679826112513

>ネット上では「若者の雇用ェ…(・ω・`*) 」「"代わりに若者に三年間の失業が義務付けられました"」「"そりゃ若者が車買わなくなるのも無理ないな"」などのコメントが。

着けられているようですが、少なくとも、(雇用形態を別にして)高齢者の雇用を進めることが若年者の失業を生むというような議論は、とっくの昔にヨーロッパではゴミ箱に捨てられています。

46665570coverenglish20812010231m130 この点、わたくしが現在監訳中のOECD『世界の若者と雇用』(明石書店より年内に刊行予定)の中でも、次のように書かれています。より詳細には、是非出版後にお読み下さい。

>高齢労働者が多くの仕事に就くと若者の仕事が少なくなると言われることが多い(Box 2.1)。これは労働市場の機能の仕方に関する神話、いわゆる「労働のかたまりの誤謬」(世の中には限られた数の仕事しかなく、かつ労働者は容易に他の者と代替できる)がもとになっている。OECD(2006a)では、すでにこれらの「命題」のいずれも真実ではないことが強調されている。若年労働者は必ずしも容易に高齢労働者の代わりにはならず、早期退職への助成コストは、労働への課税によって賄われることになるため、若年労働者に対する雇用機会の減少をもたらす可能性がある。近年の研究では、社会保障制度と退職あるいは若年雇用(Gruber & Wise, 2010)との間の関係が詳細に分析されている。

>しかし、若年労働者と高齢労働者の間で雇用のトレードオフ関係があるという一般的なイメージは、とくにこれらが政策決定者の心情に影響するとき重要である。図Bは「高齢者が働き続けるから若者が就ける仕事が少なくなる」という仮説に対する意見を検討している。これはユーロバロメーターのデータをもとにしているため、OECD諸国のうちEU加盟国のみを対象としている。全体では56%の人々がこの意見に賛成しており、26%が強く賛成している。南欧と東欧(たとえばハンガリー、イタリア、ポルトガル、スロバニア)が最も強く支持しており、ギリシャではおよそ80%が賛成、60%が強く賛成している。しかしながら、この地域的なパターンには例外もあり、ポーランドとスペインでは平均以下の支持しかない。デンマークでは高齢労働者が若年労働者の仕事を奪うという意見に賛成する者が群を抜いて少なく、賛成は25%、強く賛成はわずか11%である。アイルランド、オランダ、イギリスでも労働のかたまり仮説に反対する者が過半数であるが、デンマークよりも少ない。

 図Bの詳細な結果は教訓的である。女性は男性よりも顕著に、高齢労働者が若年労働者の仕事を奪うと信じる傾向にある。高齢であるほど、そして学歴が低いほど、人々が高齢まで働くので若者に仕事が少なくなることに賛成する可能性が高い。

 しかし、図Bの下の2つのチャートに示されているように、人々の意見に最も強く影響するのはそれぞれの国の労働市場の状況である。ハンガリー、イタリア、スロバキアの市民は労働のかたまり仮説に賛成しがちだが、これらの国では若者も高齢者も就業率が低い。対照的に、たとえばデンマーク人やフィンランド人は高齢労働者が若年労働者の仕事を奪うとはあまり信じていないが、いずれも、20-24歳層も55-59歳層も就業率が高い国である。近刊予定の『図表で見る世界の年金』ではこの問題を再度論じる予定である(OECD, 2011)。

これからすると、ネット上の人々がOECDの云う労働のかたまりの誤謬を信じ込む傾向にあるとするならば、それは彼らの発想が、就業率の高い北欧型ではなく、低い南欧型であるからなのでしょう。

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コメント

>女性は男性よりも顕著に、高齢労働者が若年労働者の仕事を奪うと信じる傾向にある。高齢であるほど、そして学歴が低いほど、人々が高齢まで働くので若者に仕事が少なくなることに賛成する可能性が高い

例えばマックのバイトに高齢者が進出しているように、奪われやすい仕事が存在する、というような気もします。高度な専門職であれば高齢者の代わりは熟練や人脈の面で困難でしょうし、逆に高度な訓練を積んだ若年層の雇用が高齢者の雇用で失われることもないでしょうが、現実に「奪い合う」結果になっている仕事はあるのでしょうし。

「マックのバイト」って、所詮はバイトですから、それだけでは生計を立てられない仕事ですね。それを若者と高齢者が群がって取り合うだなんて悲しすぎます。

素朴な話、仕事が無いということは、つまり皆で働かなくとも、皆を養うだけの生産物が揃っているということのはずなのですが、そうはならない現実社会。

シルバー人材センター等では、高齢者は低待遇でも働いてくれます。これが世の中の「誰にでもできる簡単な仕事です」系の仕事の待遇の水準を下げている可能性は無いでしょうか?

この機械化IT化の進んだ時勢ですから、そういった「誰にでもできる簡単な仕事です」系の仕事で生計を立てざるを得ない若者もいるでしょうし。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34558

定年延長:高齢者は若者に道を譲るな
2012.02.17(金) (英エコノミスト誌 2012年2月11日号)

高齢者が若者に道を譲るべきでない理由
「こうした見解は、世の中には一定量の仕事しか存在しないという「労働塊」の誤謬に基づいているからだ。女性の社会進出を阻む動きがあった時にも、同様の主張が用いられた。また、国内の雇用に対する脅威は今でも、反移民を掲げる政治家の常套文句となっている。

 労働塊の誤謬の問題点は、そうした考えを葬り去ることがひどく難しいことだ。これはもう、常識のように思える。」

「もしかしたら読者の皆さんは、上記のどんな議論(またはデータ)にも納得しないかもしれない。それならば、思考実験をしてみるといい。もし年配の人たちが早期に退職すれば、彼らは生活するうえで若者に依存するようになる。

 これは明らかに、国の給付を受けている人に当てはまる。だが、民間年金基金の加入者にも当てはまる話だ。こうした基金は株式や債券で構成され、その配当金や金利の支払いに必要となる所得を労働者が生み出しているからだ。」

「より多くの市民を退職させて、給付を増やしていけば、社会は本当の意味で繁栄することなどできないのだ。

「早期退職によって生活水準が本当に向上するのなら、どうして60歳で打ち止めにするのか? なぜ55歳ではいけないのか? もし各国政府が定年を40歳まで引き下げれば、すべての若者が職に就いて、誰もが贅沢三昧の生活を送れるはずだろう。」

https://twitter.com/pririn_/status/542649715842510848

>政府の総人件費が上昇するというのは、うちら民間人の
>税負担が上昇するというのとどうしても同じ意味になります。

 これも一種の誤謬でしょうか。
 政府が介護保育の雇用を作れば
 民間人の営利活動の雇用も増えそうですが
 小さな政府志向の強さと税負担忌避思想の強さは
 深く結びついているのですね

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