東京電力のような労働者の味方は少数派
大震災と原発事故から半年、この間、いろいろなことを論ずる人がいましたが、一貫してわたくしが大事な議論だと考え続けてきているのが、「非国民通信」さんです。
今日も典型的な「進歩的」な方々が反原発の集会をされておられたようですが、こういうある一つの「正義」の大なたを振り回すことによって、大事に守るべき別の「正義」を平気で踏みにじることになってはいないかという、とかく安直に正義感を煽るたぐいの人々が忘れがちなことを、きちんと語り続けているという点で、わたしは「非国民通信」さんを高く評価しています。
http://blog.goo.ne.jp/rebellion_2006/e/0810d124f5307095f22554fac542e8ec(東京電力はよくやっているのに)
>戦後最長の景気回復が続いていた頃からも一貫して賃金水準の下がり続ける我らが日本ですけれど、一度は下げた賃金水準を元に戻す計画を立てている掛け値無しの優良企業もあるわけです。全ての企業がこのような姿勢を持ってくれれば日本の国内景気もこう酷いことにはならなかったであろうなと思わせられるのですが、しかるに「賞与水準を回復することは認められない」などと政府が介入しています。話になりませんね。賃金水準を下げるのは推奨される一方で、それを回復させるのはダメだというのですから、日本の労働者が置かれた状況が悪化するばかりなのも当然です。
前にも書いたことですが、凶悪犯罪の加害者であっても人権がなくなるわけではありません。受けるべき罰もあれば、守られるべき権利もあるのです。同様に重大な事件を巻き起こした企業の従業員であっても、労働者としての権利はなくなるものではないはずです。ただ世間で声高に振る舞っている人を見ると、どうにも社会的に反響の大きい事件の「加害者」に対しては、謂わば「権利剥奪」とでも言うべき刑を下したがっているように見えます。犯罪者に人権はない、などと宣うのと同じような勢いで、電力会社従業員の労働者としての権利を蔑ろにして憚らない人が闊歩してはいないでしょうか。
まことに、原発被害者の人権を守る正義の味方のつもりで、電力会社従業員の労働者の権利をないがしろにして憚らないような人に、某もとテレビタレント弁護士の知事氏を批判する資格などありはしないと言うべきでしょう。
>とかく日本では経営者目線でしか物事を考えられない人が多い、労働者であっても気分はエグゼクティヴな人が目立ちますけれど、末端の労働者までもが経営責任を負わされることにロクな異議申し立てが出てこないのは、何とも因果応報な話です。別に東京電力の従業員が企業側に売り渡す「労働力」の質が落ちたわけでもない、仕事量が減ったわけでもない(むしろ増えているはずです)、こういう状況で賃金をカットされる筋合いなど微塵もないはずですが、当たり前のように賃下げが行われている辺りに、日本的な労働観、日本的な雇用感覚が窺い知れます。
この「日本的な労働観、日本的な雇用感覚」を詳しく解説しているのが、そろそろ書店に並び始めるはずの拙著『日本の雇用と労働法』です。
>従業員の賃金水準を極限まで低く抑え込むことで低価格のサービスを提供している企業が幅を利かせている昨今です。その手の企業経営に批判的な人も多数派ではないなりに存在するわけですが、原発事故後の流行りを見るに、色々と頭が痛くなって来るところでもあります。消費者向けの価格を維持するために、従業員の賃金を下げることで対応せよと、そう政府がお墨付きを与えようとしている、そしてこれに対する反対の声は全くと言っていいほど聞こえてこないのですから。別に事故を起こしたわけでもない中部電力に対しても便乗でリストラを迫った、まさに聳え立つ糞としか言いようのない政治家もいました(参考)。何でも給与カットとリストラで対応すればいいのだ、賃下げを続けろと、そういう考え方が押しつけられるのは決して東京電力だけ、電力会社だけに止まることはないでしょう。
自分がまっとうな労働者の味方だと信じ込んでいるたぐいの人が、反原発というおまじないで労働者の権利をないがしろにする側にまわってしまうというところに、この事態の恐ろしさがあるということを、「非国民通信」さんとともに、何回でも繰り返しておく必要があるのでしょう。
« 左派バカと右派バカ@タレブ | トップページ | 経団連成長戦略2011 »
独占企業の給与はいくらが妥当かって問題が潜んでいると思います。
任天堂やトヨタが儲けた結果従業員の平均給与が他社より高いのには反発を持ちませんが
独占企業の電力会社が、高い電気料金を払わせた結果、他社より平均給与が高いのは別でしょう。
他業界よりも、社員の待遇が悪いので電気料金や水道料金あげますってなら納得ですが。他業界よりいい待遇するために、料金高めに設定しますといわれると受け入れがたい。
投稿: いくらが妥当 | 2011年9月20日 (火) 21時49分
インフラ勤務ですが、日本は諸外国と異なり、
現業職で同じ仕事をしていても年功的に賃金があがる特殊な給与体系です。
賞与も業績に連動します。
なぜ末端が責任を負うかというと、末端の労働者にも「メンバーシップ」として生活給・定期昇給の運用をしてきたからでしょう。
職務給でフラットな賃金体系なら責任を負う必要はないでしょう。
労働側から、現業も年功型職能給賃金制度を是として労使交渉をしてきたわけですから、
会社が傾きかけた場合のカットを飲むのも当然ではないでしょうか?
外国の非エリート労働者は産別の協約で給与が決まり、個別事情が反映されにくい。日本もそうするなら、非エリート職の年功賃金も諸外国並みに無くす論理的帰結になるのでは?
私個人の意見では、現業職にも年功賃金OK、その代わり今回みたいに会社が傾くと現業職もカット止む無し、という考えです。
日経の経営者目線は大嫌いなのですが、今回のケースは労働者も待遇を落とさざるを得ないでしょう。メンバーシップなのですから
投稿: インフラ | 2011年9月21日 (水) 00時32分
>>いくらが妥当さん
電気代金が高いのに我慢がならないのなら「電気代を下げてほしい」と要求すればいいのでは?東電社員の給与にまで口を出す必要性は無いはずです。電気代金を下げる為の手段として給与に手を付けるかどうかは客が決める事では無いです。あそこの会社の社員の給料はこれくらいが妥当だ、とか人件費が高すぎるとか外部の人間があーだ、こーだ言うのはやめましょう。
投稿: ace | 2011年9月21日 (水) 18時21分
>東電社員の給与にまで口を出す必要性は無いはずです。
それをいうなら所得税の累進課税制度は、国家公認の民間給与統制に他ならないと思う。
城繁幸 東電従業員の”経営責任”を問う
http://astand.asahi.com/magazine/wrbusiness/2011042500002.html
ここの論者は城繁幸の言説に批判的な人が多いが、自分としては城繁幸の論を支持する。
平等に分配しろということなら、東電社員の給料を下請け派遣労働者の時給と同一にしてワークシェアリングすべき。
それから所得税は課税ベースを拡大ということで、年収700万以上には北欧並みの最高税率50%を適用すべき。
その代わりにヨーロッパよりも低い水準にある最低賃金を引き上げにし、かつ公営住宅を増設して貧困層を救済する。
『仮に救済されるとしても兆円単位の税金が投じられるわけだから、1グラムのぜい肉も残さないほどの徹底したコストカット、組織のスリム化が要求されるに違いない。』
東電社員を税金で救済して給料補填するくらいなら、俺たちにも年金や生活保護を支給してくれと怒鳴りたいのは、自分だけではないはず。
投稿: あいうえお | 2012年1月20日 (金) 22時57分
くだらない。
原発事故を受けて、東電が行うべき事故処理と災害補償、自然エネルギーへのシフトに必要なコストのなかで、東電の従業員の賃金を下げるというのは一つのオプションにすぎないしたいした財源が出てこないのは、東電の決算書を見ればわかるわけです。これが全部になってしまって、さらに火事場泥棒的に電力料金のあり方の引き下げまで出てきて、一向に災害補償が進まないというのは誰が泣いているのかという話です。
というのも一方で、事故処理は放置しておけないので従業員の賃金を楯に税金投入を認めないなんてことは誰も言わないわけです。
つまり、自分では意識はしていななくて、義侠心で東電の従業員の賃金問題の話ばかりしているんだろうけど、事故処理>東電の従業員の賃金への八つ当たり>電力料金引き下げ>自然エネルギーのシフト災害補償という優先順位で乱暴な議論をしているんですよね。
それって誰かから刷り込まれた議論のすりかえだと思った方がいいと思います。公務員賃金で同様の議論されるときにはいつも何かの怒りの焦点をはぐらかすための世論誘導としてやられていますから。
投稿: きょうも歩く | 2012年1月26日 (木) 08時56分