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2011年8月30日 (火)

試用期間の意味

本日の日経の経済教室は、一橋の川口大司さんの「揺らぐ日本型雇用慣行 正社員の『入口』拡大急げ 非正規との垣根低く 中途採用促進へ法改正を」です。

いったいどういう法改正を唱えておられるのかというと、

>日本企業は共同投資体のメンバーとなる正社員の採用には極めて慎重である。そもそも企業が採用面接で自社にあった人材を見分けるのは難しい。さまざまな人材が入り交じる労働市場から適切な人材を捜し当てるのは確率の要素も加わるため、適切な人材がいる確率が高い新卒から採用してリスクを減らそうとする。・・・

>面接だけでなく実際に働いてもらってから採用することができれば、中途採用に積極的になる企業が出てくるだろう。しかしこうした採用方法を妨げているのが試用期間の法的取扱いである。試用期間終了後に正式採用しないことは、日本では解雇と同列に扱われている。そのため、「とりあえず働いてもらって相性がよければ採用する」という採用活動は現在の裁判所の判断の下では難しい。「試用期間の満了に伴う雇用契約の終了は解雇ではない」ことを法律で明記すれば、正社員への入口を多様化することにつながるだろう

実を言うと、言われていることに共感する面もあるのですが、労働法制のとらえ方について、(経済学者に共通のものですが)やや単純化しすぎている面があるように思われます。

そもそも、実定法上「試用期間」については、労働基準法上14日未満について解雇予告の適用除外としているくらいで、その法的性質を明記した規定は存在しません。判例法は、多くの人が川口さんと同じように理解しているのですが、それも正確ではありません。三菱樹脂事件最高裁判決は、その事案(大企業の正社員採用)という事例について「雇い入れ後における解雇に当たり、これを通常の雇い入れの拒否の場合と同視することはできない」といっているのであって、すべての試用期間がそうだと言っているわけではありませんし、JILPTの個別紛争事案分析でも明らかなように、多くの中小零細企業で現実に通用している労働ルールにおいては、試用期間終了はまさにお試し期間の終了で、役に立たないからクビという例は結構あります。

しかし、むしろ重要なのは三菱樹脂事件で何がどうなったのか、です。

労働法の教科書は、とかく具体的な事案の有り様を抜きにして理論的な結論だけに関心を集中する嫌いがありますが、いうまでもなくこの事件は、学生運動やってたような奴は採用を拒否してもいいという判断で有名なのです。正確には試用期間終了後の本採用拒否の事案であって、つまり、 そこで拒否した本採用というのは、大企業型人事管理を前提とした判例法理からすると解雇に当たるはずなんですね。それをいいと認めているのは、以前書いたように、川口さん言うところの「共同投資体のメンバー」として認めるか認めないかの判断だからなのです。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/aomori36.html(新規学卒者定期採用制の歴史と法理とその動揺)

>「企業者において、その雇傭する労働者が当該企業の中でその円滑な運営の妨げとなるような行動、態度に出るおそれのある者でないかどうかに大きな関心を抱き、思想等の調査を行うことは、企業における雇傭関係が、単なる物理的労働力の提供の関係を超えて、一種の継続的な人間関係として相互信頼を要請するところが少なくなく、わが国におけるようないわゆる終身雇傭制が行われている社会では一層そうであることにかんがみるときは、企業活動としての合理性を欠くものということはできない。」

 ここに現れているのは、特定のジョブに係る労務提供と報酬支払いの債権契約ではあり得ないような、メンバーシップ型労働社会における「採用」の位置づけです。それは、新規採用から定年退職までの数十年間同じ会社のメンバーとして過ごす「仲間」を選抜することであり、その観点から労働者の職業能力とは直接関係のない属性によって差別することは当然視されるわけです。

>さて、内定者と同じとされた試用期間中の地位について、上記最高裁の三菱樹脂事件判決は「いったん特定企業との間に一定の試用期間を付した雇傭関係に入った者は、本採用、すなわち当該企業との雇傭関係の継続についての期待の下に、他企業への就職の機会と可能性を放棄したものであることに思いを致すときは、前期留保解約権の行使は、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合においてのみ許される」と、その解雇に極めて厳しい縛りをかけています。いったん付与したメンバーシップの剥奪に対しては極めて慎重な姿勢で臨んでいるわけです。その判決が、上記のように職業能力と直接関係がない信条による差別(本採用拒否)は容認しているのですから、このメンバーシップの性格がよく分かります。

結局、ここでの「正社員」の性格がどんなものであるかによって、試用期間終了の法的性質が変わってくるということになります。

ここで試用期間終了後の正式採用拒否を解雇としない法改正によって促進しようとしている「正社員」が、三菱樹脂型のメンバーシップ正社員であるならば、メンバーとして相応しくない証拠があれば、解雇じゃないとわざわざ言わなくたって、最高裁がちゃんと正式採用拒否にお墨付きを出してくれていますし、逆に特定のジョブができないという理由で正式採用を拒否しようとすると、「正社員ってのはそういうもんじゃないだろ」というロジックが、解雇じゃなくたってその類推適用というかたちで追いかけてくるはずで、そこを抜きにして条文だけいじくってみても、何かが変わるわけではなさそうに思われます。

その意味では、ここでの川口さんの提言は、単なる試用期間法制の改正ではなく、つまり正社員の「入口」だけの多様化ではなく、正社員の在り方そのものについての多様化という意味であることによって初めて意味を持つのではないでしょうか。

も一つ言うと、実はトライアル雇用なる雇用政策は、最高裁の判例法理ではなく、民法の一般原則や労働基準法の考え方に立った試用期間を前提にした政策であって、その限りでうまく回っているのであって、トライアル雇用終了後の本採用拒否は解雇だ!なんて言い出したら、制度は回らなくなります。この辺も、大企業型判例法理と、どぶ板レベルで通用しているフォークレイバーローの違いを抜きにして労働問題を論じることの危険性を示しているように思われます。

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