新自由主義は社民主義?
もちろん、一般的には、あるいは世界共通に、新自由主義と社会民主主義は対立関係にあります。
それでは、なぜ、具体的な労働政策論において、
>八代先生は新自由主義、濱口先生は欧州型社会民主主義の立場と基本的な思想の違いはあるが、労働経済分野での意見についてはかなりの部分合致するのではないかと思っている。
ということになるのか、まあ、わたくしが欧州型社会民主主義の代表みたいな顔をすると、怒り心頭に発する人もいるかも知れませんが、それはとりあえずおいておいて、対立する思想が政策論でなぜ接近するのかを説明せよ、と詰め寄る人が出てくるかも知れません。
実は、本書自体がそれをよく説明しています。まえがきの文章から引用すると、
>問題なのは市場競争の行き過ぎではなく、それと対になるべき、政府による生活の安全網(セーフティネット)の構築が不十分だったことである。企業が従業員とその家族の生活を守り、その企業を国は守る、そんな企業依存型の福祉社会が、高い経済成長期の終焉とともに弱体化している。また、企業に守られない層が拡大したにもかかわらず、過去の制度がそのまま維持されていることが、格差拡大の真の要因となっている。
見ればおわかりのように、これはまさにわたくしや、おそらく現代日本の社民派の代表格と目されている宮本太郎、駒村康平といった方々の基本認識と、ほとんどまったく同じです。
では、「新自由主義の復権」を唱える八代尚宏さんは、実は世を忍ぶ仮の姿で、ほんとうは社会民主主義者なのでしょうか。
そうでもありません。本書の他の分野、とりわけ金融とか社会保障とか、医療、介護、保育といった福祉サービスに関する分野などでは、まさに世界共通の対立図式である、大きな市場と小さな国家の新自由主義と、小さな市場と大きな国家の社会民主主義の対立図式が明確に現れてくるはずだからです。
従って、問題は、雇用労働分野については、新自由主義が社会民主主義に接近するのはなぜかと言うことになりましょう。
その答えも、上記まえがきにはっきり書かれています。
今までの日本型システムが大きな企業、小さな国家という組み合わせだったことを前提に、その大きな企業を小さくするために、小さすぎる国家の機能を大きくするという方向性において(どこまで大きくするかという程度においてはおそらく違いが現れるはずですが)、一致するからなのでしょう。
このあたりが、国の機能を見境なく目の仇にし、国家が小さければ小さいほどいいに決まっているとしか考えない、脳みその足りないリバタリアンな人々と八代さんが別れるところなのでしょう。
大変興味深いことに、本書の巻末の読書案内には、20冊ほどの本が挙げてありますが、その中に、
>濱口桂一郎『新しい労働社会』岩波書店(岩波新書)2009年
も挙がっています。他の書物はほぼ新自由主義ないしそれに近い方々で、出版社も日経や東洋経済が多い中で、不思議な感じを与えるかも知れません。
この一見パラドックスに見えるところに、現代日本で雇用労働問題を論ずることの鍵が見え隠れしているということを、ものごとをまじめに考えようとする人はきちんと見つめなければならないのです。
八代さんを新自由主義者だと目の仇にしている人は、ネット上にごろごろしている愚昧なリバタリアンとの違いを、次の記述をよく読んで理解する必要があります。日本の解雇規制についての彼の記述は、わたくしは基本的に正しいと考えていますし、ここで示されている方向性は、実は社会民主主義者のそれとほぼ同じなのです。
>日本は「解雇規制が厳しい」といわれるが、実は正確な表現ではない。・・・
>企業に対して、不況時の解雇(整理解雇)を実質的に規制しているのは、判例法で形成され、2008年に施行された労働契約法にそのままコピーされた「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない場合は、権利を濫用したものとして無効」という規定である。しかし、何が「社会通念上相当でない解雇」かの基準を明確にしなければ、法律としての実効性を持たず、ばらつきの大きな裁判官の判断に丸投げする状況は変わらない。
>この結果、現行の解雇規制は、労働者にとって極めて不公平なルールとなっている。潤沢な資金を持つ大企業の労働組合に支援される労働者は、何年でも法廷闘争に耐えることができ解雇無効・職場復帰の判決を得られやすいが、裁判に訴える余裕のない中小企業の労働者にとっては、実質的に「解雇自由」と同じ状況である。
>こうした状況を改善するため、労働契約法の中に、解雇規制の厳しいドイツでも認められているような、「企業による一定の金銭賠償を前提に整理解雇が可能」という一項を含めることが議論された。これが実現していれば、中小企業の労働者にとっては大きな福音となったはずであるが、労働組合代表の合意は得られなかった。・・・
このあたりについては、9月15日発行予定の拙著『日本の雇用と労働法』の中でもやや詳しく解説しています。
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試金石は、保育士の雇用問題ではないだろうか。この問題について、濱口氏や八代氏は、どのような考えをもっているのだろうか。
公営の保育所は、メンバーシップ型の身分保障の中で、年功序列もあり、人件費が高いと、新自由主義に立つと思われる鈴木亘氏から激しく攻撃されている。
しかし、民営の保育園の保育士は、逆に不安定で、産休でもとろうものなら解雇も覚悟しなければならない状況と聞く。「ジョブ型」ともいいにくい状況ではないか。
具体的に、両雄が、保育士問題について、どのような見解をもっているのか、知りたいところである。
投稿: 元リフレ派 | 2011年8月28日 (日) 18時11分
http://twitter.com/#!/sunafukin99/status/111983196828209153
たぶんこの方りふれ派(リフレ派)なんでしょうけど
hamachanサイドなのか八代先生サイドなのか
投稿: TOKUMEI | 2011年9月11日 (日) 19時14分