清水耕一『労働時間の政治経済学』書評@大原社研雑誌
『大原社会問題研究所雑誌』8月号(634号)は、ベーシックインカムが特集で、こちらは後でじっくり楽しみたいと思いますが、
http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/oz/634/index.html
【特集】ベーシック・インカム
ベーシック・インカムの魅惑と当惑 成瀬 龍夫
ベーシック・インカムの理論と実践-日本の社会政策の場合 武川 正吾
東日本大震災と所得保障の必要性-ベーシック・インカム要求が提起するもの 山森 亮
ベーシック・インカムというラディカリズム 新川 敏光
■証言:日本の社会運動
全日化の結成と産別会議の運動-亀田東伍氏に聞く(上) 吉田 健二
■書評と紹介
清水 耕一著『労働時間の政治経済学-フランスにおけるワークシェアリングの試み』 濱口 桂一郎
河合 克義著『大都市のひとり暮らし高齢者と社会的孤立』 鄧 俊
竹田 有著『アメリカ労働民衆の世界』 南 修平
ここでは、わたくしが書いた書評を紹介しておきます。
それは、清水耕一さんの大著『労働時間の政治経済学 フランスにおけるワークシェアリングの試み』(名古屋大学出版会)です。
>ヨーロッパの先進的な労働時間短縮の試みは、失業問題・ワークシェアリング政策と不可分である。フランスの週35時間労働制が雇用創出と労使関係に与えた効果について、1980年代から現在までの制度の追跡と、ルノーやトヨタ・フランスなどの実態調査によって、マクロとミクロ両面より分析する。
http://www.unp.or.jp/ISBN/ISBN978-4-8158-0652-1.html
この本の内容を目次で示すと、
序 章 労働時間短縮をめぐる諸問題
1 フランスにおける失業問題
2 ワークシェアリングの経済学
3 労働時間と雇用の政治学
補論1 ワークシェアリングの経済学への補論
補論2 フランスにおける派遣労働者
補論3 フランスの「代表的」労働組合
コラム1 カードル(基幹職)とは
第Ⅰ部 週35時間労働法の成立と運命
第1章 35時間労働法への歩み
1 労働時間短縮の歴史
2 39時間労働制と労働のフレキシブル化
3 ロビアン法 : 雇用創出のための労働時間短縮
コラム2 労働時間のモジュール化
第2章 2つのオブリー法
1 35時間労働法の舞台裏
2 オブリー法Ⅰ
3 オブリー法Ⅱ
4 労使関係に関するイノベーション
第3章 オブリー法の効果と社会的アクターの反応
1 2001年末における35時間労働法の効果
2 経営者のオブリー法に対する態度
3 労働組合の姿勢
4 労働者の反応
5 多数派の支持、しかし……
第4章 時間戦争 : 35時間労働の終焉?
1 35時間労働法批判のイデオロギー
2 フィヨン法によるオブリー法Ⅱの修正
3 2005年3月31日の法 : 35時間労働の終焉?
4 長時間労働促進法としての2007年8月21日の法(TEPA法)
5 右派政権による労働法の修正はなぜ効力を持たなかったのか
補論4 政府の財政負担
コラム3 CFDT、CFE-CGC及びCGTの共同声明(2007年6月7日)
第Ⅱ部 法定週35時間労働制で働く
第5章 35時間労働制への移行方法と実態
1 一般的傾向
2 自動車メーカーにおける35時間労働制と労使関係
第6章 金属産業の部門協定
1 1998年7月28日の部門協定の問題
2 2000年1月29日の修正部門協定
3 基幹職(カードル)層の拡大問題
4 法と金属産業の労使間協定
補論5 金属産業におけるパートタイム労働
コラム4 新学位(LMD)制度
第7章 ルノーにおける35時間労働
1 1980・1990年代におけるルノーの再建と労使関係
2 35時間労働制のための企業協定
3 危機への対応
コラム5 ルノーCGTはなぜ署名を拒否したのか
第8章 PSAプジョー・シトロエンにおける35時間労働
1 1980・1990年代におけるPSAグループの再建と労働政策
2 35時間労働制のための企業協定
3 労働時間管理のフレキシブル化と危機への対応
第9章 トヨタ・フランスと35時間労働法
1 トヨタ・モーター・マニュファクチャリング・フランス (TMMF)
2 TMMFの雇用・労働関係
3 2001年労使間協定における労働時間管理
4 2009年4月のストライキと労働時間の年間管理
コラム6 トヨタ生産システム(TPS)用語
終 章 不可逆的な進化
1 35時間労働法が生み出した労働世界
2 制度経済学への理論的インプリケーション
3 日本の労働時間問題を考える
となっています。
この本は既に2010年の社会政策学会賞の学術賞を受賞していますが、
http://wwwsoc.nii.ac.jp/sssp/2011gakkaisho.html
わたくしは正直言って、「本書が注目に値するのは、賃金に比べてあまり注目されてこなかった労働時間の持つ重要性を浮き彫りにしたことである」という学会賞選考理由はあまり同感しないのですが、
また、毎日新聞の書評も、
http://www.unp.or.jp/syohyo2010#110213
「ワークシェアリングは成功したのか」という帯の宣伝文句に真っ正直に反応していますが、
この本の値打ちは少し違うところにあるのではないかと感じ、その旨書評で書かせていただきました。
まだ大原社研のサイトにアップされていませんので、最初のリードの部分だけ・・・
>本書は『労働時間の政治経済学 フランスにおけるワークシェアリングの試み』と題されている。実際、本書の帯には大きな字で「ワークシェアリングは成功したのか」と書かれているので、本書が雇用創出政策としてのワークシェアリングに焦点を当てた研究書であると受け取る人がほとんどであろう。確かに、読み始めはそういう雰囲気が濃厚である。
ところが、400ページ近い本書を読み進めていくうちに、そのような問題意識はどんどん薄れていくのに気がつく。そして読み終えた頃、この本にふさわしいタイトルを聴かれたら、『労使関係の政治経済学 フランスにおけるフレクシビリティの試み』と答えたくなっている。
そう、本書は、ワークシェアリングを目指したつもりが(それはどこかに行ってしまい)フレクシビリティの促進策になった政策、労働時間の在り方を変える政策を遂行したつもりが(それを超えて)労使関係の在り方を変える政策としてフランスの労働社会に影響を及ぼした政策の、その政治的アイロニーまで含めて詳細に分析した作品となっている。それがどこまで著者の意図したものであるかは別として。
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