『ワーキングプアに関する連合・連合総研共同調査研究報告書Ⅱ―分析編―』
連合総研と連合が総力を結集して行ったワーキングプアの実態調査研究の分析編がまとまりました。
http://rengo-soken.or.jp/report_db/file/1309224085_a.pdf
昨年のケースレポート編も膨大なケースの一つ一つに人々の人生の苦闘がにじみ出ていて、大変興味深かったのですが、
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-a040.html(これでもかこれでもか ワーキングプア120連発)
今回はそれを下記の研究者や組合実務家が丹念に分析しています。
1.委 員
(主 査)
福原 宏幸 大阪市立大学経済学部・教授 総 論
(委 員)
西田 芳正 大阪府立大学人間社会学部・准教授 第4章
樋口 明彦 法政大学社会学部・准教授 第2章
村上 英吾 日本大学経済学部・准教授 第3章
吉中 季子 大阪体育大学健康福祉学部・講師 第5章
2.オブザーバー
西村 博史 労働調査協議会・主幹研究員 第1章
3.事 務 局
(連合非正規労働センター)
山根木晴久 総合局長 第7章
(連合総合政策局・生活福祉局)
小島 茂 総合政策局総合局長 第6章
ここでは、福原さんの書かれた総論から、「調査からみえてきた日本の雇用制度、生活保障システムの問題点」という一節を引用しておきます。
> 本報告書では、7人の調査研究委員会メンバーが調査データの詳細な分析を行っているが、これらの論文において多くの興味深い示唆が示された。これらの点を踏まえて、ワーキングプアを取り巻く社会経済システムの問題点を整理しておきたい。
第1の問題は、子どもの頃からの生育歴が、ワーキングプアの今日の状況に強く影響しているケースが多くみられたことである。子どもの頃の家庭の経済的環境は学費問題と絡んで低学歴を余儀なくし、親の離婚・再婚といった家庭状況の変化が当事者の精神的な不安定さをもたらし、学業の未修了(中退)や低学歴につながっている。この低学歴は、さらに若者が他者との社交性を身につけたり、豊かな人間関係(=個人が獲得すべき社会関係資本)を構築する場(学校)を奪うこととなる(学校教育における排除)。こうして、彼らは、社会に出る準備ができないまま学校生活を中断・終了(不十分な「社会化」)し、労働の世界へ参入することを余儀なくされている。
このように、いくつかの要因が複合的に作用して、その後の不安定な初職に影響を及ぼしている。いわば、労働の世界に入る以前の段階で多くの不利をこうむり、この不利を是正する制度がないことから、学校という世界から排除されていたとみることができる。その結果としての不十分な「社会化」が、その後の不安定な雇用の繰り返し(=社会への中途半端な接合)、低所得と社会とのつながりの希薄さに影を落としている。これらは、「子どもの貧困」「学校教育における排除」についてのさらなる検討の重要性を示唆している。
第2は、初職に就いて以降の仕事をめぐる問題である。初職が正社員であれ非正社員であれ、その後転職を繰り返すという「雇用の不安定さ」がみてとれる。しかも、非正社員はもちろん、ほとんどが「非定着型正社員」(樋口論文)である正社員も、この不安定さによって技能を身につけたり就労経験を蓄積することができずに終わり、この結果として「労働における周縁性」、すなわち単純労働や企業内での低い評価、低賃金をもたらすことになる。また、このことは、彼らを「雇用の不安定さ」の状況に固定していく悪循環をつくりだしている(樋口論文では、これらを合わせて「労働の不安定性」として論じている)。このようにして、彼らはワーキングプアという状況からの脱出の糸口を見い出せず、職業生活やその後の人生の将来像も思い描くことができない状況に追いやられ、将来に強い不安を抱いている。すなわち、「安定した職業生活からの排除」「貧困の持続」という問題がそこにはある。
第3に、社会的なつながりが希薄であり、場合によってはそれが切断されるという特徴も見逃せない。「労働における周縁性」と「雇用の不安定さ」は貧困をもたらすだけでなく、家族、友人・知人、企業組織、地域社会とのつながりの弱体化をもたらす。このようなつながりの弱さは、今度は逆に、「労働における周縁性」、「雇用の不安定さ」そして貧困を常態化させることに作用する。場合によっては、当事者たちの社会からの孤立、そして精神的な不健康をもたらし、なかには深刻な抑うつ状態やさまざまな精神疾患を患う者もみられた(「社会関係からの排除」「自分自身からの排除」)。
第4は、「セーフティネットからの排除」「政治からの排除」という問題である。雇用保険の加入状況が示しているように、既存の社会保険制度がワーキングプアの人々の困難を前にして機能不全に陥っている。いわば、雇用継続の正社員を前提としたセーフティネットが、彼らを社会から排除しているとみることができる(「セーフティネットからの排除」)。
また、このようななかで、たとえば派遣労働者が派遣会社によって一方的に雇い止めされるといった困難な状況に陥っても、これらに対する自らの思いを発言する機会や場そのものが奪われている。ワーキングプア当事者が「声」をあげる社会的装置が欠如している(「政治からの排除」)。もちろん、今回の聞き取り調査に協力してくれた個人加盟型労働組合やNPOなどが、それを代弁する機能を持ったことは重要であるが、全体としてみた場合、これらの事例は決して多くない。
以上、4つの問題を指摘した。それらは、教育、労働市場、社会的つながり、セーフティネットをめぐるものであった。これらのうち第1の問題は、教育のあり方と子どもの貧困をめぐるものであるが、これについては、本報告書の西田論文において詳細に論じられていることから、そちらに譲りたい。後者の3つの問題について、それぞれの論点と関連性、そしてこれらに関わる政策提言を以下で示しておこう。
上記の第2の問題は、内部労働市場・外部労働市場から構成された労働市場二重構造をめぐるものである。第3と第4の問題は、政府のセーフティネットだけでなく、家族や企業社会さらには地域における相互の生活支援にかかわるものであり、いわば生活保障システムとして議論すべき課題であるだろう。しかも、ワーキングプアが抱える雇用の不安定さは、仕事の周縁性と職場人間関係の希薄さをもたらし、職場仲間、企業社会そして地域社会への接合それ自体を不確かなままにしている。すなわち、ワーキングプアが外部労市場から脱却することの困難は、日本社会のメインストリームを形成している企業社会、その規範にもとづいて形成された雇用保護制度や生活保障システムと深く関連した社会
排除の結果とみるべきだろう。
以下では、これら3つの問題について、あらためてその議論を整理するとともに、新たなセーフティネットの構築に向けていくつかの提言を行っていきたい*2。
こうして、
3.ワーキングプア問題と雇用制度改革
(1) 労働市場二重構造とワーキングプア
(2) 安定した雇用への道をどう拓くか
4.ワーキングプア問題と日本の生活保障システム改革
(1) 日本の生活保障システムとその限界
(2) 生活保障の再構築
5.社会的排除とワーキングプア
(1) ワーキングプアの社会的排除と多元的問題
(2) ワーキングプアとパーソナル・サポート
と、各論点ごとに論じた上で、最後のまとめで
>ワーキングプア支援に向けた政策は、ワーキングプアに陥ることを予防する施策、当事者の困難を解決し一時的に生活の安定をはかる支援策、そして将来において安定した職業生活をいとなめるようにする支援策と3つに区分することができる。また、それらの実施は、個別的、継続的、包括的であることが求められるが、内閣府が推進するパーソナル・サポート・モデル事業はこれに沿ったものとして期待される。
2008年の金融危機により多くのワーキングプアが失業状態に追いやられた現実に対して、期限付きとはいえ緊急雇用対策によって最低所得保障プラス職業訓練の提供による新たなセーフティネットがつくられ実施された。このことの意義は、重要である。しかし、それを今後「求職者支援法」として恒久化するにあたっては、いくつか検討すべき点があるだろう。たとえば、職業訓練を義務付けるとしたままでよいのかという点が議論の対象となるだろう。また、この訓練によって獲得された職業能力を生かす就職先企業の確保については、あまり議論されずにいる。この点もまた、検討する必要があるだろう。そして、より安定した仕事への道筋をつけるにあたって、ジョブ・カード利用の拡大とキャリアラダーの構築が急がれなければならない。
他方、日本におけるワーキングプア問題が、労働市場の二重構造と深く関わって発生しているのであれば、なによりも労働市場の構造改革、すなわち正社員と非正社員の2つの領域を統合した雇用政策が求められる。ここでは、非正規雇用に対する規制強化と労働条件の引き上げだけでなく、新たな正社員像の創造(多様な正社員像、ジョブ型継続雇用など)、非正規職から正規職への移行を押し進める新たな雇用ルールの構築が求められている。
また、生活保障システムの改革においては、すべての市民を対象とした普遍的支援策と困難な状況にある人々に対するターゲット型の支援策をうまく組み合わせることが必要である。とはいえ、現在の生活保障システムが、企業社会を社会のメインストリームとして位置付けている社会像を前提に成り立っていることを考えれば、この改革は、今後日本においてどのような新しい社会像を構想するのかという課題、すなわち社会モデルの再構築をいま一度問うという課題に行きつく。その意味で、ワーキングプア問題は、当事者の課題であるだけでなく、日本の経済と社会のあり方を問う課題でもあるといえよう。
本報告書は、筆者を含め8人の執筆者によって書かれた論文によって構成されている。それぞれの論文の分析内容やその結果は、もちろん著者の責任に帰すものである。とは
え、私たち執筆者を突き動かしたものは、調査に協力していただいたワーキングプア一人ひとりの言葉や思いであったと思う。この報告書が当事者のそうした思いに応えることができたかどうかはいささか心もとないが、本報告書が新たな問題提起になることを願っている。
と述べています。
拙著『新しい労働社会』の問題意識と非常に響き合う報告書だと感じました。
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