派遣先たる国・地方自治体は労組法上の使用者となることについて
労働関係法律を(妙な行政法の古くさい教科書の偏見にとらわれずに)虚心坦懐に見ていけば、ごくごく当たり前のことなんですが、あまり当たり前に見えない方もいるのかも知れません。
例によって水谷研次さんの「シジフォス」から、
http://53317837.at.webry.info/201107/article_18.html(国交省公用車の運転手の「使用者」は? )
県労委命令は結構長いので、リンク先で見ていただきたいのですが、要するに、
>組合員らの雇用の確保に関し団体交渉の申入れがあった場合,国は,これに応じるべき労組法第7条第2号の使用者に当たると解するのが相当である。
といっているのですね。
なんで労組法の適用がないはずの国が労組法上の使用者になるんだ!と思わず口走ったあなた。大きな考え違いをしています。労組法が適用されないのは国家公務員であって国ではありません。あるいは、労組法が適用されないのは地方公務員であって地方自治体ではありません。派遣労働者はいかなる意味でも公務員ではありませんから、国や地方自治体に派遣されれば、派遣先たる国・地方自治体は当然派遣先責任を負いますし、その中には朝日放送事件最高裁判決で認められている労組法上の使用者責任も含まれることになります。
この点については、わたくしはすでに昨年、『地方公務員月報』2010年10月号に寄稿した「地方公務員と労働法」において、次のように明確に述べておいたところです。
国や地方自治体の人事担当者諸氏がどこまでまじめのこの論文を読んだのか読んでないのかつまびらかにはしませんが、労働関係法律を素直に読めば当然こういう結論になることは理解しておく必要があろうと思います。
http://homepage3.nifty.com/hamachan/chihoukoumuin.html
>4 地方公務員と労働市場法制
しかしながら、多くの研究者や実務者の目からこぼれ落ちているのは、労使関係法制以外の労働法制である。前記判決からも、明示的に適用除外されない限り地方公共団体や地方公務員は労働法の適用範囲内にあるという当然の理が、行政担当者自身にも必ずしもきちんと理解されていないことが窺われる。ここでは、労働市場法制に属するいくつかの立法を例にとって、地方公共団体や地方公務員が決して労働法の外側にいるわけではないことを再確認しておきたい。
まず、労働基準法と同じ1947年に制定された職業安定法は地方公共団体と地方公務員を適用除外していない。また、その特別法として1985年に制定された労働者派遣法も地方公共団体と地方公務員を適用除外していない。したがって、地方公共団体も労働者供給事業を行ってはならず、供給労働者を受け入れてはならない。また、法律に基づき地方公務員を派遣することもできるし、派遣労働者を受け入れることもできる。 ・・・
しかし、大きな問題は地方公共団体が供給先、派遣先となるケースである。労働者派遣法は使用者責任を派遣元事業主と派遣先事業主に配分している。地方公共団体が派遣先になるということは、派遣先責任をフルに負うということである。派遣労働者は地方公務員ではないから地方公共団体は責任を負わなくてもいいというわけにはいかない。現行労働者派遣法は、いわゆる26業務以外について3年の上限を設け、これを超えて使用しようとするときは雇用契約の申込みをしなければならない(40条の4)。また26業務についても3年経過後同一業務に労働者を雇い入れようとするときは雇用契約の申込みをしなければならない(40条の5)。地方公共団体もこの義務を免れるわけではない。
この問題が立法上大きくクローズアップされたのは、今年提出された労働者派遣法の改正案*9においてであった。そこでは、禁止業務への派遣受入、無許可・無届の派遣元からの派遣受入、期間制限を超えての派遣受入、偽装請負に該当する行為を行った場合について、「その時点において、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者から当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす」と規定している(40条の6)。この申込みみなしは1年間有効で、その間に当該派遣労働者がそのみなされた申込みを承諾した途端に(派遣先が何もしないうちに)労働契約は自動的に成立することになる。ただし、改正案ではこの規定については国・地方公共団体等の特例を設け、「当該国又は地方公共団体の機関は、同項の規定の趣旨を踏まえ、当該派遣労働者の雇用の安定を図る観点から、・・・関係法令の規定に基づく採用その他の適切な措置を講じなければならない。」(40条の7)としている。この規定の是非はともかく*10、法律の明文でわざわざ適用除外しない限り普通の労働法がそのまま適用されるという理は明らかであろう。
これよりもさらに深刻であり得る問題は、地方公共団体に派遣された派遣労働者の労働基本権である。派遣労働者は地方公務員ではないので団体交渉権も争議権も有している。法律上派遣労働者の団交応諾義務について規定した条文は存在しないが、最高裁の判例*11によれば、「雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて右事業主は同条の「使用者」に当たる」。従って、労働者派遣法に基づき派遣先に責任が分配されている事項については、地方公共団体は派遣労働者の加入する労働組合からの団体交渉に応じなければならず、拒否すれば不当労働行為になりうる。また、派遣労働者を大量に使用している職場で彼らが争議行為を行う可能性も考えておく必要がある。
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いつも興味深く拝見しております。
自治体の偽装請負は“直接雇用”や“適法な労働者派遣”とすることにより是正できるか?・・という疑問があります。
以下は素人考えですが・・・
一般に、労働者派遣法に違反し、且つ派遣受入期間の制限に抵触した以降も労働者派遣を行っていた場合、労働局による是正指導では、派遣先に対して直接雇用させるなど労働者の雇用安定を前提に指導するが、地方自治体の場合には「地方公務員法」により任用の根拠が問題となる。即ち、「地方公務員法第15条(任用の根本基準)職員の任用は、この法律の定めるところにより、受験成績、勤務成績その他の能力の実証に基いて行わなければならない。」と。
また、臨時職員・非常勤職員の任用についても任用権者の自由裁量ではなく、実質的必要性・公益性に合致することを要件とするでしょう。
そうすると、自治体と民間事業者との間で偽装請負が行われた場合には、民間事業者間のそれとは異なり、直接雇用を含む雇用の安定を図ることで社会的責任と法益侵害を回復することが法制度上(地方公務員法、その他の公法関係により)不可能、若しくは著しく困難である。また、派遣受入期間の制限に抵触しない場合にも、労働局が行う是正指導において、適法な請負契約と適法な派遣契約に改善させるという選択肢のうち、後者の「適法な派遣契約」に改善させる方法をとることも、給与条例主義、給与直接払いの原則により出来ない・・と。
そもそも自治体では、労働者派遣による労働者の調達は法制度上予定されていない。即ち、職員の任用根拠については上述の通りのほか、自治体が行う公共調達(契約事務)については、地方自治法施行令により「第173条の2 この政令及びこれに基づく総務省令に規定するものを除くほか、普通地方公共団体の財務に関し必要な事項は、規則でこれを定める。」となっており、労働者派遣契約と言えども民間事業者との契約である限り自治体の長が定めた「規則」に必ず拠らなければならず、労働者派遣契約について“財務・会計等の規則”でもって定めている自治体は現在のところは無いと思います(少なくとも私はお目にかかったことが無いわけです)。また、労務提供の種類には民法の契約類型上複数(委任・準委任・請負・事務管理・雇用・・等々)ありますが、一方、地方自治法上の契約は既に述べた自治法234条によるか、若しくは労働関係であれば一般職に属する職種についてはすべて地方公務員法の定めに拠ることとなります。
これは、即ち、自治体の少なくとも執行機関が行う全ての調達行為(労働者の調達《特別職を除き》と、その他の契約)は、①地方公務員法による『任用』と、②自治法234条に言う『契約行為』とにきれいに分けて整理できるわけであり、また、法秩序の構成原理上、それぞれの法の守備範囲を超えて運用することは出来ない。
かくして自治体による偽装請負の顛末は、自治法234条により新たな委託(請負)契約とするか、若しくは、同法の原則にのっとり、競争性の確保に反さない(要するに自治体により有利となる)限度での変更契約しかないのだろうと思います。
これだと、火事場泥棒、いや、火付け盗賊ではないかと。
投稿: endou | 2011年11月 7日 (月) 23時56分