労働経済白書2011
今年度の労働経済白書が公表されました。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001i3eg.html
石水さんの白書執筆はついにこれで6回目となります。最近ではぶっちぎりの最長不倒です。
今回の白書は、第2章で「世代ごとの働き方」を取り上げており、いわゆるロスジェネも含めて、1960年代前半生まれ世代から、2000年代後半生まれまで、大体5年ごとの世代に輪切りして、いろいろと分析しているところが世間的には読みどころといえましょう。
>バブルが崩壊した時、まだ就職する前だったか、もうすでに仕事に就いていたか、あるいは、それは若手だったのか中堅だったのか、また、高齢期から引退過程にかかっていたのか。職業人生には、それぞれの局面があり、バブルの崩壊後の時代を、どの年齢で迎えたかは、その後の職業生活に拭うことのできない重大な痕跡を残した。働く人達は、それぞれの時代状況を背負って生きているのであり、現代の労働問題は世代ごとの問題として立ち現れている。
それが一番よく現れているのは、この世代別に見た非正規雇用割合でしょう。上が男性、下が女性、それぞれのカーブのシフトの姿が、まことに雄弁にいろいろなことを物語っているようです。
あと、教育と労働に関心をお持ちの方々には、その直前の「学卒者の職業選択」の節が、「他の学科に比べ就職状況の厳しい普通科の高校生」とか「人文科学や社会科学の進路は相対的に不安定」といったトピックを示しています。
とりわけ、大学院進学の意味が文系と理系で違うという話は、よく読んでおいた方がいいでしょう。
>就職も進学もしていない者の割合を大学院と学部の間で比較すると、理学、工学等では、大学院卒の方が学部卒に比べ就職も進学もしない者の割合が低くなっている一方、人文科学、社会科学、家政、芸術、教育では、大学院卒の方が学部卒よりも就職も進学もしない者の割合が高くなっている。
主に、文系学科では、大学院に進学したとしても、卒業後に就職先や進路が決まらない割合が高く、大学院で身につけた専門的な知識が、必ずしも社会的なニーズが高くない可能性がある。大学院進学率の上昇については、今までのように教育水準の向上の観点から評価するだけではなく、社会のニーズを踏まえて再検討される必要がある。
なお、学部時代にやりたいことが見つからなかったり、職業選択を先送りするなどの理由で大学院に進学している状況について指摘もあるが、このような学生に対しては、勤労、職業観の形成や、労働に必要な能力の獲得に向けた目的意識の醸成などのための教育プログラムの提供が求められるように思われる。
第3章は例によって日本型雇用のあり方についていろいろと分析していますが、第2章の世代分析の手法がここでも何回か使われていて、こういう興味深いグラフもあります。
>男性について、世代別に年収カーブをみると、1968〜72 年生まれと1973〜77 年生まれの世代において、年収カーブが低くなっている。1970 年代生まれ(先にみた「団塊ジュニア」と「ポスト団塊ジュニア」)は、他の世代に比べ、所得の伸びが停滞する傾向がみられる。
ほかにも興味深い事実がいろいろと書かれていますので、今日ダウンロードして、明日明後日にじっくりお読みになることをお薦めします。
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ネット上ではこっちの方が話題になってますね。
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819481E2E5E2E1858DE2EAE2E5E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2
大学関係者の多そうなはてな住民的には「大学に社会ニーズに応えろとかとんでもない、それは企業側の問題だろ」という意見が大勢みたいですが、「多額の税金使ってるんだから社会ニーズに応えるのは当たり前だろ、嫌なら自分の金でやれ」という批判に対してどう答えるのでしょうね。
「学問の追究が大学の使命だ」と言えるような大学の学部なんて、全体の1/10もないわけで、実態としてほとんどの大学は就職予備校以外の何物でもないのに・・・
以前からこちらのブログでも話題にあがってる、職業軽視・普通科志向とも関連しているのでしょうね。
投稿: charley | 2011年7月 8日 (金) 22時11分
>「多額の税金使ってるんだから社会ニーズに応えるのは当たり前だろ、嫌なら自分の金でやれ」
そういった意見は世界中で昔から言われていますが、なぜ今現在も多くの国が大学の研究に多額の税金を使っているかといいますと、それが国全体の将来を据えての行為だからです。
最先端の研究は新しい技術を生み、場合によっては他国からもその分野について研究するために多くの研究者がやってきます。さらにそれは自国の力を示すだけでなく、その研究成果を利用した利益を多く得ることができます。
あたりまえですが、国益になるために税金が投入されているのです。特に日本のような資源のない国の場合、そういった技術分野を伸ばすことでしか多大な利益を上げることができません。
確かに、大学が今の企業が求める人材を育成する場として活動するのも意見の一つでしょう。しかしそれでは今現在の技術を網羅することはできても、未来がありません。他国の技術を後追いで頑張るだけになるのです。
投稿: akym | 2011年7月 9日 (土) 21時17分
所得の伸びが悪くなるのは少子高齢化が進めば当たり前
どうしようもない
少子高齢化で社員の平均年齢が上がるから
たとえば
昔 従業員100人 平均年齢35歳 平均給与500万 給与総額5億
今 従業員100人 平均年齢40歳 平均給与500万 給与総額5億
経営側が労働分配率を引き下げなく(昔と同様の給与総額を払っても)給与の伸びは悪くなる
昔は35歳で500万に届いたのに今は40歳にならないと届かない
投稿: チョコ | 2011年7月11日 (月) 00時49分
>akymさん
国益にかなってる最先端の研究はそもそも「社会ニーズに応えている」と考えるのが普通では?
ただ、大学全体でいえば上で書いたように90%は、そういう最先端の研究はやっていないか、最先端の研究であっても経済性の怪しい分野(例えば哲学とか)です。
特に昨今では、中学生レベルの学力も十分でない学生を入学させる大学もあり、そういう学生に対して同じ税金を使うのであれば、社会に出てもほとんど役にも立たない知識を教えるより、手に職をつけるような訓練を行う方が、学生本人にとっても社会にとっても意義があるのではないか、という。
投稿: charley | 2011年7月11日 (月) 12時04分