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2011年6月23日 (木)

『雇用ポートフォリオ・システムの実態に関する研究』

Maeura JILPTの前浦穂高さんが、報告書『雇用ポートフォリオ・システムの実態に関する研究―要員管理と総額人件費管理の観点から―』をまとめ、公表しました。

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2011/0138.htm

前浦さんは昨年度からJILPTの研究員として、この雇用ポートフォリオ・システムの研究をしてきましたが、今回その全貌を明らかにしたわけです。

>本研究の目的は、非正規雇用の活用を促す仕組みを解明することにある。この仕組みに着目するのは、企業がこの仕組みを通じて、ポートフォリオを構築し、その結果として、非正規雇用比率を決定しているのではないかと考えるからである。このような問題意識に立って、本研究では、小売業を中心に、非正規雇用を含めた要員管理と総額人件費管理の観点から、事例調査を実施している

この報告書で、いったい何が明らかになったのか?

前浦さん自身の要約を引用します。

>第1に、非正規雇用の活用を促す仕組みである。図表に示した通り、組織の経営方針がどの責任センターに該当するかによって、目標とする財務指標が決まり、それを達成するために、非正規雇用を含めた要員数(正社員の採用を除く)と人件費総額が決定される。現場では、与えられた要員数と人件費総額を、業務量を考慮しながら調整を図るが、そのギャップは、基本的に非正規雇用の活用で埋め合わされる。つまり雇用形態の組合せ(ポートフォリオ)や非正規雇用比率は、戦略に基づいて決められるのではなく、それらは事後的に決定されるのである。

第2に、非正規雇用における職域の拡大や質的基幹化がもたされた背景である。小売業では、上記のような要員数と人件費総額が決定されることにより、人件費の高い正社員数を抑制(または削減)する一方で、非正規雇用が積極的に活用されるようになった。しかし上記の要員数と人件費総額には、業務量及びその質が考慮されていないため、非正規雇用は今まで以上に重要な役割を担うことが求められるようになった。この流れによって、非正規雇用の職域の拡大や質的基幹化がもたらされたのである。

第3に、非正規雇用の人事諸制度が整備される要因である。非正規雇用の職域の拡大や質的基幹化が進んでいく課程において、彼ら(彼女ら)を対象とした資格制度を構築したり(A社)、登用制度を整備したりする(B社とC社)動きが見られた。つまり非正規雇用の人事諸制度は、職域の拡大や質的基幹化を契機として整備される。

第4に、非正規雇用比率の動向である。図表に示した通り、非正規雇用の活用を促す仕組みが形成されると、それが1つのサイクルを形成し、循環していくことになる。その結果として、非正規雇用比率はますます高まっていくことになる

わたしは、前浦さんの研究発表を聞いて、「雇用形態の組合せ(ポートフォリオ)や非正規雇用比率は、戦略に基づいて決められるのではなく、それらは事後的に決定されるのである」という点に、意外感とともにいかにもそうだろうなというやや矛盾した感想を抱きました。

近年の非正規雇用の増大について、あたかもはじめからそうなることを意図してすべてが進められてきたかのような言い方も時にされたりしますが、おそらく多くの読者の方々が自分のいる組織について振り返ってみれば思い当たるように、それはまさに、そういうことを顧慮せずに決められた財務指標を達成するために、結果的にそうなってきたということなのでしょう。

そしてそうやって想定外に拡大してきた非正規労働者を活用せざるを得ないことから、非正規労働者の基幹化がこれまた事後的に進展していく。

この報告書のとりわけ第2章で分析されているスーパーA社の経緯を読んでいくと、いったい何が起こっていたのか?ということについての、目が覚めるような、しかしよく考えてみればあまりにも当たり前に見える、現実の姿が見事に描き出されています。

やや筋が違うように見えるのが第4章の某市役所のケースです。民間企業とは異なり市場競争に晒されてはいない市役所でも、同じように非正規労働者の拡大が進んでいるのはなぜか。前浦さんはもともと公共部門の労使関係の研究をしていたこともあり、この章でも興味深い事実が明かされています。

なお、最後の政策的含意の部分については、いろいろな意見があるでしょう。

>上記の仕組みから、今後も非正規雇用比率は上昇していくことが予測されるが、それに歯止めをかける方策が無いわけではない。1つは、雇用形態別に業務の棲み分けを行い、それを守るよう、規制を働かせることである。もう1つは、従来型の正社員ではなく、それより職域が限定された「新しい正社員」への登用を積極的に行うことである。「新しい正社員」は、従来型の正社員と同一の役割を担っているわけではないため、従来型の正社員よりも人件費を抑制できる可能性があり、「新しい正社員」を含めた正社員総数を増やす余地はある。

非正規雇用の労働条件は、職域の拡大や質的基幹化の進展が契機となって改善されるが、重要なことは、彼ら(彼女ら)の働く実態に合わせて、常に労働条件を見直していくことである。さらに言えば、上記の条件を満たさない(職域の拡大や質的基幹化がみられない)非正規雇用も存在しており、今後も非正規化が進展していくなかで、非正規雇用間にみられる処遇格差が拡大する可能性がある。それゆえ、条件を満たさない非正規雇用の労働条件をいかに向上させるかという課題が残されている

この報告書をもとに、是非各方面で議論をして欲しいと思います。

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