「嘱託」という言葉
『労基旬報』連載、今回は「「嘱託」という言葉」です。
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>日本の非正規労働者の呼称は、よく考えると奇妙なものばかりである。「パートタイマー」が必ずしも短時間労働者とは限らず、「フルタイム・パート」などという字義的には論理矛盾に満ちた存在が多く存在するのは、「パート」が実際には家計補助的な主婦労働者という意味になっているからであろうし、ドイツ語で「労働」という意味の「アルバイト」が、かつては学生の、その後は主婦以外の低賃金で柔軟な労働力を指す言葉になっているのも、外国人に説明しにくい。
「契約社員」も不思議な言葉で、法律上労働者はすべて雇用契約に基づいて働いているはずだが、わざわざこれだけ「契約」というのは、正社員は契約ではないと意識されているからであろうか。
就業構造基本調査において最近まで「契約社員・嘱託」と、契約社員と一緒の枠に入れられていた「嘱託」という就労形態もまた不思議な言葉である。同調査を見れば一目瞭然の通り、特に男性の場合60歳未満はほとんどなく、60歳以上に集中している。世間的にも、定年後同じ会社に新たな契約で雇われることを指し、高齢者雇用安定法でいう継続雇用の一種と見るのが一般的であろう。
しかし他の法分野で「嘱託」というと、登記の嘱託とか嘱託回送など非雇用型役務提供を指すことが普通である。実際、「依嘱」と「委託」を組み合わせた文字面からしても、これが継続雇用を意味するというのはやや飛躍がある。
実は、かつてはこの言葉は、定年退職者を雇用労働者としてではなく、委任・請負契約で活用するために用いられていた。ところが、大平製紙事件(最二小判昭37.5.18民集16-5-1108)において、「会社において塗料製法の指導・研究に従事することを職務内容とするいわゆる嘱託であって、直接上司の指揮命令に服することなく、また遅刻、早退等によって賃金が減額されることのない等一般従業員と異なる待遇を受けているいわゆる嘱託であっても、毎日ほぼ一定の時間会社に勤務し、これに対し所定の賃金が支払われている場合には、労働法の適用を受ける労働者と認めるべきである」と、就労実態に基づき労働者性が認められたため、それ以後「嘱託」という本来非雇用型を示す言葉が一定の雇用関係を示す言葉として定着していったようである。
「嘱託」という言葉には、労働法上の労働者性を否定しようという意図が含まれていたのだが、今となってはそのようなニュアンスを感じる人はほとんどいなくなっているのではなかろうか。まことに、日本の非正規労働者の呼称は奇妙なものばかりである。
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