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2011年6月18日 (土)

テーラーメードの職業訓練

JILPTの原ひろみさんが、このたびまとめた資料シリーズNo.91「雇用創出と人材育成―アメリカ・ジョージア州のヒアリング調査から―」の内容を、コラムに書かれています。

http://www.jil.go.jp/column/bn/colum0176.htm

>人材育成を行っても、育成した人材が仕事につけなければ、その人的投資は結果的に無駄になってしまう。しかし、雇用の受け皿があるところで人材が育成されれば、高い確率で良質な雇用が生み出され、地域の経済成長にプラスに働くであろう。そして、経済がプラスに成長すれば、追加的に新たな雇用が生み出され、さらに経済が成長するという好循環の発生が期待できる。

アメリカ・ジョージア州では、雇用創出と直接連携させたこのような人材育成プログラムを導入している。ここでは、2つのプログラムを紹介しよう。

まず、Intellectual Capital Partnership Program(ICAPプログラム)というプログラムがある。これは、州内の"その企業が""そのときに"求めている人材を供給できるように、ジョージア大学機構に属している大学・カレッジが迅速にテイラーメイドの職業訓練プログラムを作り、かつ実施するというものである。つまり、企業の人材ニーズと、大学・カレッジという高等教育機関に存在する知的資本を融合させて、州の経済状況を改善することを目的としたジョージア大学機構の経済開発プログラムの1つである。これまでに、雇用ニーズがあるにもかかわらず、必要なスキルを持った労働力供給のない分野で、複数のICAPプログラムが行われてきた。

一番初めに実施されたのは、TSYS社とコロンバス州立大学(CSU)の間で行われたCOMPASS ICAPプログラムで、1996~2003年の7年間続いた。TSYS社は、クレジットカード処理会社の世界トップ3の1つで、国際的なビジネス展開をしている企業である。

これは、大型汎用コンピューターのプログラマー不足に直面していたTSYS社のためにプログラマーを育成・供給するプログラムで、CSUが訓練プログラムを作成し、実施した。プログラムの費用は州とTSYS社によって賄われていたため、訓練生は授業料を支払う必要はなかった。

TSYS社は約2,500人の訓練修了者のうち1,000人を雇用した実績があり、現在でも800人が働き続けている。

次に、ジョージア・クイックスタートを紹介しよう。クイックスタートとは、ジョージア州への企業誘致を成功させ、また州内で雇用創出をする企業を支援するために、職業訓練を提供する州の機関である。企業誘致や雇用創出を引き出すインセンティブとして、資金提供は行わず、職業訓練プログラムの提供のみを行うことが特徴である。

クイックスタートは、要件を満たした企業に限ってではあるが、ジョージア州に新規参入する企業または一定数の雇用創出を行う既存企業に、無料で職業訓練を提供する。1967年に設立されてからこれまでに、約5,900社に職業訓練プログラムを提供し、約78万人に訓練を実施してきた。

技術大学(テクニカルカレッジ)の上部組織であるジョージア技術大学機構の一部局という位置づけで、州の予算で州内のテクニカルカレッジと円滑に連携をとりながら運営されている。

これら2つのプログラムの経済への純粋な効果については、厳密な評価が待たれるところである。しかし、労働需要がない分野で公的な訓練をいくら行っても、就職に結びつく確率は極めて低い。労働の需給バランスにあわせて、機動的かつ戦略的に公的資金を投入するというアイデアは、求職者の転職をスムーズにし、効率的な資源の再分配を実現するための制度設計の参考となるだろう。

リポート自体はこちらですので、詳しくはこちらを。

http://www.jil.go.jp/institute/chosa/2011/documents/091.pdf

日本は企業内教育訓練中心だったためにそもそも企業外の教育訓練システムが貧弱であるわけですが、ここ数年来それを専門学校等への外注で急激に拡大しようとしたものの、それら機関と労働市場とのつながりが弱体なままで進めたために、まさに「人材育成を行っても、育成した人材が仕事につけなければ、その人的投資は結果的に無駄になってしまう」「労働需要がない分野で公的な訓練をいくら行っても、就職に結びつく確率は極めて低い」という状況が見られるわけで、ここで原さんが紹介しているようなテーラーメードの職業訓練システムは示唆的です。

とりわけ、大学やカレッジという高等教育機関をこうしたテーラーメード訓練の手段として活用している姿は、日本のカウンターパートの状況を鑑みるに、まことに示唆的だと思われるのですが、それを示唆的だと感じない人々にとっては、馬の耳に念仏かも知れません。

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