「ショートカット」としての「人類史に対する責任」@松尾匡
松尾匡さんから、「市民事業におけるリスクと責任」という抜き刷りをいただきました。『久留米大学産業経済研究』という紀要に載せた論文です。
わたくしは、基本的に紀要の抜き刷りは一般読者にアクセス可能性が乏しいのであまり紹介しないことにしているのですが、これは思わず「おぉー」と感じたので、特別にコメントしてみたいと思います。
私は基本的に松尾さんや柄谷行人氏らの4類型論の「アソシエーション」には懐疑的なのですが(このことについては下記エントリ参照)、この論文で松尾さんはアソシエーション型の「市民事業」における「責任」をどのように設定するかという大きな論点に取り組んでいます。
身内集団主義原理では各自が集団全体の責任を共有するのに対して、開放個人原理では自分で選んだことには自分だけが責任を負う自己責任。ところが、アソシエーションでは「一般的互酬性」で、決定の間接的で不確実な結果にまで責任を負うのが市民事業だというのですね。そして、江戸期商人道やプロテスタンティズムを引いて「ショートカット」としての「天に対する責任」によって、いちいち見返りを求めずに貢献していたのになぞらえて、「天」の代わりに「将来の人類史に対する責任」を「ショートカット」にするべきだと唱えているのです。
ごく普通の世俗の人々にとって「将来の人類史に対する責任」という抽象的な概念がかつての「天」の代わりになりうるとは、とてもわたくしには思えないのですが、もし万一普通の人々がそのような言葉を口走るようになったとしたら、その「人類史への責任」の内容は、もしかしたら総毛立つようなおぞましいカルト教団の顔をしてやってくるのではないかと、わたくしには思えてならないのですが。
(参考)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/08/post-7130.html(「市場主義に不可欠な公共心」に不可欠な身内集団原理)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-ecd7.html(第4の原理「あそしえーしょん」なんて存在しない)(※欄参照)
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私もブログにお取り上げいただけるとは思っていませんでした。ありがとうございます。
まあ、ことあの最後の部分は、それまでのプロフェッショナルな論理展開から必然的に導出されるのではない、あまり学問的でない私案で、所詮「ショートカット」の便宜の話で、自信があるわけではないのですけど。
拙稿では、現実の市民事業がアソシエーションだとは言っていなくて、現実には他の三原理がまだメジャーな中で、萌芽的にそれが含まれているだけだと思います。しかし、たとえよかれと思ってやったことでも、「いかんいかん、ひとに理念を押し付けて迷惑をもたらす疎外を起こしてるぞ」とか「いかんいかん、閉鎖集団化してきてるぞ」とかと常に反省することが必要で、そのためには、以前「ネガ概念」と申しましたが、疎外も閉鎖もない基準を設定して、少しでもそれに近づく姿勢をとることが必要なのだと思っています。
それが「ポジ」に転化してしまわないためには、それが実現することが、10年や20年のスパンで人為でできるものではないと観念しなければならないと思います。
人間社会、何らかの理想を掲げて活動しているものだと思いますけど、10年、20年スパンで実現可能かもしれないと思わせる理想を掲げると、目的のために手段が正当化されて、その理想と正反対のひどい抑圧がおこるものだと思います。
実現を200年、300年先ぐらいに引き延ばしておけば、手段の汚さのために理想の継承を危うくするのを恐れ、かえって日々のやることがいかに至らないかを反省するのに役立つと思います。
こうすれば、他人を抑圧するのではないか、縛ってしまうのではないかとびくびくし、実際そうなったら潔く謝ってやり直し、しかしそれでもやる意義を感じて日々の事業にいそしむ姿勢ができるのではと。
これを「人類史」とかいう言葉を使って表現するのはこなれていないかもとは思いますけど。
(まあ、「改宗」(笑)の主なターゲットとして想定しているのが、元マルクス=レーニン主義の市民事業活動家という事情もありますけど)
投稿: 松尾匡 | 2011年6月10日 (金) 20時39分
松尾先生の旅日記を読んで
教授になっても
・タクシーでなく路面電車で
熊本名物の
・馬肉コース料理でなく太平燕を
食べに行かれる
姿から
教授にはとても収入で及ばないであろう身分の者が
デフレ下で消費を控えるのは
合理的なんだなと思った
という言説を見ましたが
一日も早く
将来に安心を持てるよう
安心して生活(消費含む)
できる景気を甘受できる日が来るよう
松尾先生はじめ学者の皆様には
期待しております
投稿: 名無し | 2011年6月13日 (月) 07時02分