ワカモノは怒るべきか?
先日、たたき台について本ブログで取り上げた
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/05/post-20a9.html(高齢者雇用研の「たたき台」)
高年齢者雇用研究会のほぼ最終報告書案が、厚生労働省のHPにアップされています。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001eu2c-att/2r9852000001eu3t.pdf
現時点では、まだこれでまとまったという記者発表はされていませんので、研究会で出された若干の意見を入れて最終版をまとめるのでしょうが、中身としてはほぼこれでいくということになったもようです。
コメントは最終版が出てからにしようかとも思っていたのですが、労務屋さんがこれにコメントされているのを見て、一応この段階でもひと言だけコメントすることにしました。
http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20110610#p1(高年齢者雇用研究会報告書案)
というのも、労務屋さん、
>いやこれは若い人は本当に怒ったほうがいいと思います
と、一瞬、城繁幸氏のブログに来たかと思うひと言を語っておられたので。
いや、もちろん、労務屋さん、
>もちろん若年者もいずれは高年齢者になるわけですし、年金と雇用の接続は必要なことですし、年金支給開始年齢までの定年延長は重要な課題だろうと思います。高年齢者が就労せずに福祉の対象となってしまうとそれは結局若年者を含む現役の負担を増やすことも間違いないでしょう。
とちゃんと述べておられるのですが、
>現実には景気変動に対して人員規模を適正化する手段のひとつとして新卒採用数を増減させているのが実情でしょう。で、そういう採用をしている企業が多いとすれば、いま現在の「新卒労働市場において厳しい状況が続く中」、高年齢者の雇用を減らさない施策が新卒をはじめとする若年雇用にどんな影響を及ぼすかは明白だと思うのですが。
と疑問を呈し、
>ここで問題になっているのは何度も書きますが冒頭にあるように「新卒労働市場において厳しい状況が続く中」という足元の話なんですから。高年齢者雇用の拡大が長期的な視野で重要だから今現在の若年は泣いてちょうだいねというのは若年にあまりではありませんか。
>高年齢者に対しては希望すれば全員がいま働いている企業で働けるようにするけど、若年は選ばなければ仕事はあるんだから文句をいわずにある仕事で働けというのはあまりに不公平ですし、率直に申し上げて職業安定局長の研究会の報告書としてはまことに淋しい記述ではないでしょうか。
>若年は怒っておいたほうがよさそうな気がします。
と、ワカモノに決起を促しておられます。
この議論、量的にはある程度その通りの面はあると思います。ただ、これは報告書では正面から書かれてはいませんが、わたしには、だからこそ、建前論的に「法定定年年齢の引上げ」を最初に書いておきながら、それは当面は無理だよ、それをやるのは「老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢の65歳への引上げが完了するまで」、つまり2025年までだよ、と書いてあるのだろうと思うのです。
このあたり、定年と継続雇用はそもそもどう違うのか、という法学的理論を駆使した議論があるのですが(そして判例を持ち出すといろいろと難しい論点が続出するのですが)、それをスルーしてざっくり言えば、継続雇用とは要するにいったん定年退職した高齢者を別枠の非正規労働者として改めて採用するということですね。
つまり、ワカモノを正社員として採用する枠においては競合させないように、非正規枠に持っていくというやり方を当分続けるということであって、そこまでワカモノに怒れと(城氏みたいに)たきつけなくても良いのではないか、と思うわけです。
もちろん、労働市場全体のマクロ的な職の取り合いという面がなくなるわけではないにしても、それこそマクロ経済政策で対応すべきことであって、高齢者を労働市場から追い出せという議論はやはりまずいでしょう。
一方で、高齢労働者の権利論的な観点からすれば、なんで60歳過ぎたら非正規に回されるンや、賃金もがくっと下がるンや、という批判があるわけですが(そういう訴えもいくつかあり、裁判例もありますが)、それを年齢差別というなら、その人が50代の時にもらっていた高い給料自体が年齢差別の賜物やろ、という面もこれあるわけで、それを、労働市場を一気に年齢差別のないフラットなものにしてしまおうという急進的な議論をするのでない限り(いや、そういう議論はあり得ますが)、高齢者を非正規形態で労働市場にとどめておくというやり方は、それなりに合理性を持ったものであって、ワカモノの利益を考えれば、まあそんなところではないか、と考えられるわけです。
このあたり、実は来週東大の労働判例研究会で報告する裁判例のテーマでもあるのですが。
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