フォト
2025年6月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          
無料ブログはココログ

« 職業的意義の強調が教育を追いつめる? | トップページ | 選挙運動のための労務 »

2011年5月 8日 (日)

メイドさんの労働法講座

さて、メイド喫茶で労働基準法を勉強したよい子の皆さんは、メイド喫茶じゃなくって本来のメイドさんについて労働法がどうなっているのかご存じでしょうか。

もちろん、労働法の中の人にとっては周知のことではありますが、そうじゃない人にとっては意外な新知識なのかも知れません。

某「萌えない法律学」というサイトに、「メイドさんに労働基本権はない」という文章が載っております。なかなか有用ですので(誰にとって?)紹介しておきます。

http://www.puni.net/~aniki/school/law/18.htm

ただ、念のため始めにタイトルについてひと言。ここで書かれているのは、メイドさんに労働基準法が適用されないということであり、末尾にあるように労働組合法は適用されますので、労働法学で通常使われる用語法からすると「メイドさんに労働基本権はない」というのは間違いです。個別労働者としての基本的権利は認められていないけれども、集団的な「労働基本権」があるというのが正しい。

という注釈を念頭に置いた上で、さてご覧下さい。

>いもうとと並んで、世のおおきなおにいちゃんたちに大人気なのが「メイドさん」である。メロンブックスなんかで市販されている専門文献によると、世の中には「こどもメイド」というものもいるらしいのだが、はたしてこれは合法に存在しううるのだろうか?

労働基準法56条1項に「使用者は、児童が満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで、これを使用してはならない」とあるために、原則的には義務教育終了までは雇用契約の締結そのものが不可能。その続きに書いてあるように「児童の健康及び福祉に有害でなく、かつその労働が軽易なものについては満13歳以上の児童であっても修学時間外に使用することができる」わけだが、逆にいうと小学生以下を労働者として使用することはできない(「映画の製作又は演劇の事業」だけは別)。

 それでは『小学生メイド』を雇うことは違法なのか?というと、それ自身には違法性がない(手を出すと犯罪なので注意)。なぜかというと、「メイドさん一般には労働基準法が適用されない」からだ。労基法9条に書いてあるように、同法律で言うところの「労働者」とは「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」を指す。ここで重要なのは「事業又は事務所に使用される」という所で、非事業主である個人が家事手伝いのために雇い入れる人は「労働者」とみなされない。ちなみに「メイドさん」(下男・下女)のことを民法310条では「僕婢」と呼んでいるが、これは近いうちに「家事使用人」に変わるはずだ。「法人に雇われ、その役職員の家庭においてその家族の指揮命令のもとで家事一般に従事しているもの」は家事使用人に該当するが、「個人の家庭における家事を事業として請け負う者に雇われ、その指揮命令のもとに家事を行うもの」は家事使用人には該当しない。つまり、会社の社長宅に個人的に雇われているメイドさんは労基法の適用を受けないが、「メイド派遣業者」に雇われて、そこから派遣されるメイドさんは同法の適用を受ける(業者とメイドさんの間に雇用契約が成立する)。

これは肝心の労働基準法116条が書かれていないので、根拠条文を挙げておきます。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO049.html#1000000000000000000000000000000000000000000000011600000000000000000000000000000

(適用除外)
第百十六条  第一条から第十一条まで、次項、第百十七条から第百十九条まで及び第百二十一条の規定を除き、この法律は、船員法 (昭和二十二年法律第百号)第一条第一項 に規定する船員については、適用しない。
○2  この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。

よって、上記56条の最低年齢の規定も適用されず、結果として「こどもメイド」も(あくまでも労働基準法上は)違法ではないということになるわけです。もっとも、労働法以外の規制は適用除外になるわけではないので念のため。

>未婚の未成年者に対して親権者は職業許可権を持っている(民法823条)。ここでいう「職業」には他人に雇われることも含まれる。労基法57条1項によって、親権者が子の代理で労働契約を締結することは禁止されているのだが、上記のように家事使用人に対してこの規定は効果を及ぼさない。だから親が子の代理として雇傭契約を結ぶことが可能だし、それ自身は利益離反行為(民法826条)でないので特別代理人を立てる必要はない。また親権者は子の居所指定権を有する(民法821条)が、(夫婦の場合と異なり)同居義務はなく自由裁量にまかされている。ゆえに、親権者がその気になれば、未成年の子を住み込みでどこかのお屋敷に送り込み、メイドとして働かせることも、それ自身には違法性がない。多くのヲタク野郎どもが期待しているようなアレげなシチュエーションの下で働かせると、児童福祉法25条の規定に基づいて、どこかの誰かが「通報しますた」ということもありえるし、場合によっては権利の乱用として親権剥奪ということも起こりえる(民法834条)。しかし、DQN親に育てられるぐらいならば、むしろ真っ当なご主人さまにお使えしていた方が、なんぼかマシってこともあるかもしれない。なお18歳未満の住み込みメイドさんを雇うご主人様には、児童福祉法30条に基づく届出が必要なので注意されたい。また義務教育期間中であれば、親権者に子を学校に通わせる義務がある(学校教育法22条・39条)のは、このケースでも同様である。

 労働契約一般は民法623条で規定される雇傭契約に相当する。これは民法上の契約自由の原則に従い、使用者が報酬と引き換えに労務者の労働力を買い取るというスタンスに立っている。しかし当事者の自由を認めてしまうと無制限に労働者の権利が侵害されるということから、労働法によって私人間の契約の自由が制限されているわけだ。ところが、メイドさんにはこういう法理が適用されない。それによって、次のような不都合が生じる。

1.      労基法第16条に「賠償予定の禁止」というものがある。例えば、ファミリーレストラン「ガ○ト」にヤクザがやってきて、料理にいちゃもんを付けた上で、店が何がしかの金を渡したとする。こういう場合に備えて、店側が雇用契約に「業務上生じた損害は給料から天引きだにょ」みたいなことを書いておいても、この条文に照らして無効となる(ただし、給料を払った後に、別途、損害賠償請求を出すことはできる)。しかし、この規定が適用されないならば、ドジっ子メイドさんの手取り給料はどうなる?

これはおわかりの通り、家事使用人たるメイドさんとメイド喫茶従業員とを混同しています。当該「ドジっ子メイドさん」が当該喫茶店に雇用された従業員である限り、16条も含め労働基準法は当然適用されますので念のため。

2.      労基法第17条に「前借金相殺の禁止」というものがある。「労働者に金を前貸をした上で労働を強制したり、労働者として拘束したりすることや、前貸分を勝手に毎月の給料から差し引くこと」を禁止するもので、こういう労働契約はその部分が無効になる。一部の特殊なジャンルでは、「親の借金のカタにメイドさんを館に監禁して(以下略)」という話がまかり通っているようだが、少なくとも労働法上は別段問題ない。ただしこれは刑法220条に抵触するし、民法90条でいう公序良俗に反する契約に相当する。監禁まではなくても、親の借金を子の財産から払おうとする場合には(それが子の利益を目的とする場合であっても)外形的には利益離反行為に相当するので、家庭裁判所の選任する特別代理人を立てる必要がある。

3.      メイドさんは労基法32条で定められる労働時間規制(一日8時間・週40時間)とも無縁である。一部の特殊な方向けのゲームなどに出てくるメイドさんは朝から真夜中まで働いているが、それに対して労働基準監督署が文句を言わないのは、この辺に理由があるものと思われる

で、冒頭申し上げたように、労働基準法は適用されなくても労働組合法は適用されますので、

>そういうわけで、世のメイドさんたちは前近代的な労働条件を合法的に押し付けられ放題なわけだが、それに反旗を翻して「万国の無産メイドよ、団結せよ!」とばかりに労働組合を結成することができるのか?といえば、答えは「YES」である。労働組合法3条は労働者を「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう」と定義しているので、家事使用人であっても労働者ということになる。ゆえにメイドさんたちが「メイド労連」・「メイド総連」あるいは「メイド労協」といった労働組合を作って、無謀なご主人さまたちに対して団体交渉に臨むことも不可能ではないわけだ。

なのですが、若干突っ込んでおくと、、家事使用人も民法上の雇用契約であることに変わりはないので、個別労働関係法においてもたとえば労働契約法上の労働者であることに何の疑いもありません。労働者ではあるけれども、労働基準法のさまざまな労働者保護規定が適用されず、使用者の非道な行為について労基法違反として労働基準監督署に訴えることができないという点が異なるだけで、民法の公序良俗規定や一般原則としての権利濫用法理(何をどう濫用したんだか・・・)に基づいて裁判所に訴え出ることは可能です。

一方、集団的労働関係法は適用除外がないためそのまま適用されるので、労働組合を作って団体交渉を申し入れることも可能なら、それを拒否されたら労働委員会に不当労働行為だッといって訴え出ることも可能です。

最近流行の「労組法上の労働者性」の話とは若干筋が違いますので、ご注意ありたいところです。したがって「家事使用人であっても労働者ということになる」という表現はかなりの程度ミスリーディングです。

さて、今現在ネット上でこれを見ている人にとっては、メイドさんというともうああいうメイドさんのイメージしかないわけですが、それこそ昨日紹介した磯田さんの論文の冒頭に出てくるのが女中さんであることからもわかるように、終戦直後期に至る戦前までの社会では、家事使用人という労働形態はきわめてポピュラーなものであり、きわめてまじめな労働問題研究の対象であったわけなのですよ(いや、これがまじめでないと言っているわけではありませんが)。

« 職業的意義の強調が教育を追いつめる? | トップページ | 選挙運動のための労務 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: メイドさんの労働法講座:

« 職業的意義の強調が教育を追いつめる? | トップページ | 選挙運動のための労務 »