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2011年5月10日 (火)

問題は重層請負に即した法制度の欠如

河添誠さんが、こうつぶやいています。

http://twitter.com/#!/kawazoemakoto/status/67202590915571712

>いま、八戸から東京に戻る新幹線の中。原発労働や建設労働で、違法にあふれた重層下請け構造が放置されてきたことをあれこれ考える。歴史的な変容と労働運動の対応について本気で勉強する必要を痛感。

「違法にあふれた」というのは、もちろん職業安定法施行規則による労働者供給事業と請負の区分基準以来の請負論に基づくものですが、実は労働者保護法制ではそのもっと以前から、請負であろうとなんであろうと、就労している現場全体の事業主が責任を持つというのがデフォルトルールであったのです。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/gakkaishi114.html(請負・労働者供給・労働者派遣の再検討(『日本労働法学会誌』114号))

>2 戦前期労働者保護法制における請負・労務供給
 一方、工場法を始めとする労働保護法制においては、こういった労務供給請負業者が供給する労働者も、供給先事業主が使用者責任を負うべき労働者として取り扱っていた。
 まず工場法の適用については、通牒では「工場ノ業務ニ従事スル者ニシテ其ノ操業カ性質上職工ノ業務タル以上ハ、雇傭関係カ直接工業主ト職工トノ間ニ存スルト或ハ職工供給請負者、事業請負者等ノ介在スル場合トヲ問ハス、一切其ノ工業主ノ使用スル職工トシテ取扱フモノトス」*4と、明確に工業主に使用者責任を負わせていた。
 工場法の制定担当官による解説書*5でも「甲工業主カ乙工業主ヲシテ自己ノ工場内ニ於テ仕事ヲ請ケ負ハシメタルカ如キ場合ニ於テハ、乙ノ連レ来タリタル職工丙ハ甲ノ職工ト見ルヘキヤ又ハ乙ノ職工ト見ルヘキヤニ付キ疑義ヲ生スヘシ」と問題を提示した上で、「甲ト丙ノ間ニ於ケル雇傭関係ノ有無如何ヲ問ハス丙カ甲ノ工場内ニ於テ甲ノ工場ノ主タル作業又ハ此ニ関係アル作業ニ付キ労働ニ従事スル以上ハ甲ノ職工ナリト解セサルヘカラス」と書かれている。これは累次の通牒*6で何回も確認されている。
 さらに、建設業のような屋外型産業については、1931年に労働者災害扶助法が制定されているが、そこでも災害扶助責任(労災補償責任)は元請業者に負わせていた。この規定は戦後も生き残って、現在も労働基準法第87条として建設業界に適用されている。

> 5 建設労働法制という特異点
 もっとも、建設業の下請労働者の労災補償責任を元請業者に負わせた第87条だけは、戦前の労働者災害扶助法を受け継いで規定されている。興味深いことに、厚生労働省によれば、現在でも「建設業における重層請負においては、実際には元請負業者が下請負業者の労働者に指揮監督を行うのが普通」であり、「いたずらに民法上の請負契約の考え方に拘束されて資力が乏しく補償能力の十分でない下請負人を使用者とせず、元請負人をもって使用者と考えることが労働者保護の見地からも妥当」なのである*11。
 このように、建設業においては「労務下請」と呼ばれる特有の下請制度が存続していた*12。実態は労働者供給事業に近いにもかかわらず「請負」であると整理したために、後に労働者派遣事業を法認する際に、逆に建設業における労働者派遣は禁止するという奇妙な取扱いとなった。その禁止されていた建設業における労働者派遣事業が、2005年の建設雇用改善法改正によって「建設業務労働者就業機会確保事業」という名称で、建設事業主団体の計画策定等を条件として解禁されたが、その立法過程において大変興味深いことがあった。当初事務局から示された原案では、労働者派遣システムをそのまま活用する以上、派遣法の責任分担に従って、送出事業主が災害補償責任を負うものとしていたにもかかわらず、審議会において異論が続出し、結局「送出労働者に係る労災保険の適用については、労災保険の元請一括適用制度の趣旨、労災保険の適用漏れの防止等の観点から、送出事業主を受入事業主の下請負人とみなすこととし、元請事業主を適用事業主とすべき」と、派遣法の原則とは逆の形で決着が付けられたのである。
 戦後法制に慣れた目からすると奇妙なものに見えるが、戦前の労働者保護法制はこちらの考え方に立脚していた。特異点に見える建設労働法制にこそ、工場法以来の考え方が生き残っているのである。

もちろん、建設業には山のようにいろいろ問題はありますが、少なくとも戦前の労働者災害扶助法に基づいて、請負といおうが何といおうが元請が責任を負う仕組みが現在まで維持されてきており、まさに重層請負という日本型ビジネス構造に即して、責任がどこかに行っちゃわないような手当がされていたのです。建設業という労働災害がつきものの世界で重層請負という現実を容認する以上は、これは必要な措置であったことは確かだし、だからこそ職安法を厳密に解釈すれば「違法に溢れた」ものが労基法上明確に位置づけられて対応されていたわけです。

問題は、それが職安法上「違法に溢れた」ものであることにあるよりも、同じように労災の問題が、しかも極めて長期間にわたる形で生じうるような職域において、建設業におけるような手当がなされないまま来たことにあるのではないかと、私は考えています。もちろん、1931年に労働者災害扶助法が制定されたときに日本には(世界にも)原子力発電所などなかったのですが、その後まったくこういう問題を考えることなく過ごしてきたことには、考えてみる必要はあるでしょう。

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