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2011年5月 3日 (火)

ご指名書評:『メイド喫茶でわかる労働基準法』

Isbn9784569796475 POSSEの坂倉さんからいきなり指名解雇・・・じゃなくって、書評のご指名です。

http://twitter.com/#!/magazine_posse/status/65058903393714176

>これも新しい労働運動か…。濱口桂一郎さんに書評希望。「店の仲間や常連さんたちの助けを借りながら不当解雇された他のお客さんの相談にのったり、会社と交渉してお客さんを助けたりする」 PHP研究所、ライトノベル「メイド喫茶でわかる労働基準法」を発売

つうか、メイド喫茶にはいったとこもないわたしを指名するかよ、と思いますが。

>働く人が自分の身を守る法として知っておきたい労働基準法をコミカルでちょっとキュンとくるストーリーにのせて解説する実用ライトノベルです

実用ライトノベルねえ。

も少し詳しい説明は、

>高3の進路調査票の進路欄に「癒し系」と書いた緋沙はアキバのメイド喫茶で働いてる。彼女の職場は残業代はつかない、有休なんてもってのほか。一日十数時間ほとんど立ちっぱなし、給料も控えめな労働法を無視するブラックな職場であった。

 早く辞めて楽になろうと思っていた緋沙はある日「法律の神」と名乗るしゃべる猫「宮野」に労働基準法について教わる。「有給休暇をとる権利がある!」と知り早速、男の娘の店長に有給休暇をとることが出来るように交渉するが喧嘩になってしまう。

 その後店長とは和解したものの労使関係のトラブルを解決する方法とその難しさを知ることになる。法律に興味をもった緋沙は「宮野」の助けを借りながらやがて店の仲間や常連さんたちの助けを借りながら不当解雇された他のお客さんの相談にのったり、会社と交渉してお客さんを助けたりするまでに成長していく…

 労働法の解説書の多くは「労務管理する側」から書かれているものがほとんどである。その理由として労働法そのものを知らずに損をしていることに気づかない場合が多いことや、書店の法律コーナーに若年層が立ち寄らないことが挙げられる。本書は「若年の立場」から知っていると得する法律である「労働基準法」を「もしドラ」のようなノベルとして気軽に読めて分かる一冊です。

著者の藤田遼さんは社会保険労務士。

http://roumublog.jp/(若手社労士の労務急報)

というブログをやっておられます。

それで最後の章で、緋沙ちゃんがメイドしながら社労士やってんですね。

さて、はじめのうちは秋葉原のメイド喫茶で時給620円とか、年休はなしとか、わかりやすいネタが続きますが、メニュー3で一気に有期労働契約の雇い止め法理というハイクラスネタに突入。ここで店の常連の万年ロースクール生朝田さんが大活躍。人事部の佐竹さんと法術を尽くしたバトルを繰り広げるのですが、その終わり近くのこの台詞のやりとりが、著者が社労士さんであることを思い出させます。

>・・・勝敗は明らかであった。

応接室に、しばしの沈黙が降りた。

「・・・朝田さん、でしたっけ」

「ええ」

「東大ロースクールに行ってらっしゃるンですか」

「まあ一応」

「見事なもんですよ。論理的で、判例にも詳しい。ですが・・・」

佐竹は丁寧だった口調を一変させて、言った。

「弁護士ごっこは、これまでだ」

「え?」

「解雇は依然有効です」

「そんな-」

と、わたしは情けない声を上げてしまった。

「会社の決定に文句があるなら、裁判でも何でもしてください」

開き直ったように言われた朝田さんは、

「おのれ非道な三下奴め」

なまじ「実体法」の勉強を一生懸命やっていると、判例という形で書かれたものはあくまで裁判規範なのであって、それでもって現実社会の「生ける行ける法」を動かすためには、裁判所の高い敷居をまたいで行く必要があるということを忘れがちになります。あるいは、裁判所に行く覚悟を決めた人だけを相手にしている弁護士さんにも、同じようなバイアスがかかりがちです。でも、その敷居はフツーの労働者にとっては結構高いのです。

「えー、なんか時代劇風になってるよう」

・・・やっぱり朝田さんは朝田さんだった。

「ならば、外村さんがひとりでも入れる労働組合に加入すれば、会社は労働組合との交渉を拒めないはず・・・」

「じゃあ、話はそれからにしてください」

話は終わりとばかりに、佐竹は立ち上がった。

これじゃあ、何のために来たのか分からない。ばかばか朝田さんのばか。

怒らせちゃってどうするの。

「失礼します。また何かあれば連絡下さい。こういうことも人事の仕事なんでね」

「ちょっと待ってください

と、法律の教科書には出てこない現実の壁にぶち当たった緋沙は、必死で考えて、

「だったらアルバイトからやり直すっていうのはどうですか」

と提案し、

「・・・社員の採用は上の許可が必要なのですが、アルバイトならわたしの権限で採用できます」

と、急転直下ややご都合主義的な解決に。

でも、このあたりの配役、ラノベにしてはとても良くできてます。

「くそう納得いかないぜ」

とりあえず入った近くの喫茶店で、まだ朝田さんはぶーたれていた。

「まあ仕方ないよ。こういうことは、お互い歩み寄らなきゃいけないんだから」

・・・

「頑張れば社員に戻れるって言ってましたし、僕は全然大丈夫です」

「裁判やっちゃえばよかったんだよな」

「朝田さん、無茶言わないでよ。確かに裁判になったら勝てるかも知れないけどさ」

裁判に勝てても職場に戻れない、というのも判例集にはなかなか出てこない一つの現実でもあるわけです。

最後の章では、特定社労士になった緋沙が、メイドしながら労働相談をしています。そして、夜間部のロースクールに通って弁護士を目指しています。

001l

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コメント

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現実社会の「行ける法」を動かす → 「生ける法」

ご指摘ありがとうございます。修正しました。

ところで、遅ればせながら、ご就職おめでとうございます。

http://d.hatena.ne.jp/genesis/20110408">http://d.hatena.ne.jp/genesis/20110408

>ご挨拶が遅くなりましたが,2011年4月1日付けで釧路工業高等専門学校に准教授として着任いたしました。

>ちょうどこの時期に本田由紀先生の著作に触れたことが影響して,自分のやりたいのは〈法学部における法曹教育〉ではなく〈職業教育を通じた人材育成〉だと考えるようになりました。日本において職業教育を担う場は専門学校なわけですが,本気で技術者を育てようと思うなら18歳からでは遅いのでは? ということを約10年ほどの専門学校勤務で感じました。そこで,中等教育から一貫して社会科教育に関わることのできる5年制の高専を主眼に置いてアプローチをかけていたという次第です。

「職業教育を通じた人材育成」への取り組みを期待しております。

裁判にも「保険」のようなものがあるといいのですが。

↑司法過誤問題を考えると根が深いですね

http://square.umin.ac.jp/~massie-tmd/toyop.html
[人類の歴史の中で、立法という規則を作るシステムと、行政という規則を運用するシステムは、司法に比べて、そのシステムの不具合が、不幸な人を生み出すリスクが、比較的小さいのに、司法は、そのアウトカムが、個人の人生に直接及ぼす影響の大きさと、不可逆性において、他のシステムの比ではありません。

しかし、多くの人々はその点に気づきません。なぜなら、司法に直接関わり、司法から直接被害を受ける人の数が、立法や行政よりも格段に少ないからです。一生裁判と縁がなくて死んでいく人の方が圧倒的に多い。司法の当事者意識が生じないのです。実は一般市民として司法には常に関わっているのに。だから、少数の人しか、司法システムの不備を意識せず、立法や行政に比べて、改革の声が格段に少ないのです。このため、薬害と同様、冤罪が繰り返し生まれています。

何かというと改革を叫ぶ人々が、こと裁判に限っては、司法改革のしの字も口にせず、しらばっくれて、裁判を使い続けているの姿は、悲劇を通り越して喜劇になっています。]

http://www.nhk.or.jp/masuko/

NHKでこんなラジオがはじまったようですね

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» メイド喫茶でわかる労働基準法 / 藤田 遼 / PHP研究所 [奴らのブログ]
書店の新刊棚で見かけて思わず手に取った本。 高校の進路相談で文系か理系かを問われて「いやし系」を選んだ主人公がメイド喫茶で働くという設定に買わずにいられなかった(笑) メイド喫茶でわかる労働基準法 『もしドラ』の時もレジへ持っていくときに勇気が必要だったけども、この本はそれ以上に恥ずかしかった。(おかげでいらない本を他に2冊も買ってしまった・・・) ちなみに、『もしドラ』は通勤中に電車で読むお父さんたちに配慮して(?)カバーをはずすとフツーのビジネス書に見える装丁になっているが、この本はカバーを剥い... [続きを読む]

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