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2011年5月25日 (水)

東日本大震災の労働法政策@『BLT』

201106 JILPTの『ビジネス・レーバー・トレンド』6月号が刊行されました。

http://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2011/06/index.htm

特集は「震災の影響と復興に向けた課題―いま何をなし、これから何をなすべきか―」です。

この手の特集の場合、BLTがよくやるのが有識者アンケートってやつですが、今回も次の方々に1ページずつ「東日本大震災が経済社会に与える影響と必要な対策」というテーマについて書かせています。

猪木武徳 国際日本文化研究センター所長
熊野英生 第一生命経済研究所首席エコノミスト
佐野陽子 嘉悦大学名誉学長
中沢孝夫 福井県立大学特任教授
濱口桂一郎  JILPT統括研究員
宮本光晴  専修大学経済学部教授
森茂起  甲南大学文学部教授
加藤丈夫 富士電機株式会社特別顧問
玄田有史 東京大学社会科学研究所教授
髙木剛  国際労働財団理事長(前連合会長)
萩原泰治  神戸大学大学院経済学研究科教授
堀田力  さわやか福祉財団理事長/弁護士
森一夫  日本経済新聞社特別編集委員
森永卓郎  獨協大学経済学部教授

不肖わたくしも、「有識者」というにはいささかですが、名を連ねております。

さて、この14人の書いた内容は、きれいに12対2に分かれました。

12人の有識者は、まあ当然のことですが、雇用政策、経済政策を中心に見識を披露しておられます。

残りの二人、宮本光晴さんと不肖わたくしは、あえて雇用対策ではなく、福島原発の作業員のことを取り上げています。実は、原発作業の問題を取り上げるのはわたくしだけだろうと内心思っていたのですが、宮本さんが「「フクシマ50のヒーロー」を誰が守るのか」というずっと格好いいタイトルで決めてしまいました。中身も、宮本さんのエッセイの方が数段いい出来ですが、まだ中身はJILPTのHPにアップされておりませんので、ここでは、わたくしの書いた方の文章を上げておきます。

>去る3月11日、東北地方太平洋沖を震源地とするマグニチュード9.0の巨大地震が発生し、これが東北・関東の太平洋岸に数十メートルを超える津波となって襲いかかり、沿岸の市町村をほぼ壊滅させ、おそらく2万人を超える犠牲者を出した。さらにこの津波により東京電力福島第一原子力発電所で炉心溶融が発生し、周辺への放射能汚染や電力不足による計画停電など、首都圏経済に大きな影響を与えつつある。

 雇用労働政策で対応すべき課題は山のようにある。今回は「震災復興と雇用政策」という共通テーマであるので、被災者の就労支援や雇用創出対策への意見が主に求められていると思われるが、それらについては他の論者から的確な意見を述べていただけると考え、あえて別の論点をいくつか指摘しておきたい。

 福島第一原発の事故以来、東京電力とその協力企業の労働者が高い放射線量の中で必死に事態の解決に邁進していることは、「勇敢な50人」という言葉とともに世界に発信されている。その一方で、震災直後の3月14日に電離放射線障害防止規則の特例省令で、緊急作業時の被曝線量の上限を100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに引き上げた。もともと通常時の上限は5年間で100ミリシーベルト、1年間で50ミリシーベルトである。今回のような緊急事態への特例として、男性と妊娠可能性のない女性についてその作業中100ミリシーベルトとされていたのが、あっさり250ミリシーベルトとなった。

 いうまでもなく、緊急事態には通常の規制を超えて危険な作業を誰かがやらなければならない。自衛官、警官、消防士といった本来の任務そのものに生命・身体的危険が伴う職業だけでなく、これはあらゆる職業に共通する責務であろう。とはいえ、もともと緊急事態を想定していたはずの上限が、現実に緊急事態が起きると次々に書き換えられていくというのは、「想定外」の一言で済まされる問題ではないように思われる。

 とりわけ懸念されるのは、これが事故を起こした(と厳密な意味で言えるかどうかも大問題だが)東京電力や原子力関係者に対する「お前らが悪いからだ」「お前らが責任を取れ」という現在の日本社会を覆いつつある「空気」によって、無限定的に正当化されていってしまうのではないか、ということである。首相自ら東電本社に乗り込んで「撤退などありえない。覚悟を決めて下さい」と檄を飛ばし、誰も疑問を呈さない。原発作業員を診察した医師によれば、自ら被災し、肉親や友人を亡くした作業員たちが、劣悪な労働環境の中で、しかも「『加害会社に勤めている』との負い目を抱え、声を上げられていない」という。

 今までも100ミリシーベルト前後の被曝量で労災認定された労働者が10人いるという。緊急時にリスクは取らなければならないが、リスクはある確率で現実化していく。その「覚悟」はあるのだろうか。

 原発事故は電力不足という形で一般労働社会にもさまざまな労働問題を生み出していく可能性がある。以下、思いつくままにいくつか指摘しておきたい。夏季の冷房用空調設備が電力消費の相当部分を占めることは周知の事実だが、これも労働法と無関係ではない。事務所衛生基準規則は事業者に、事務室の気温が17度以上28度以下となるよう努力義務を課している。努力義務とはいえ、これを遵守せよと政府が言うべきなのか、という問題が早晩出てこよう。原発作業員には被曝上限を引き上げておいて、電力消費者の側は「快適な職場」を享受するのか、という倫理的問題も孕みうる。そうすると、1日の電力消費量の平準化のために、サマータイムの導入とか、さらには深夜勤務への転換といった方策が論じられることになる。さらに、会社に出勤することなく在宅勤務で対応しようという声も出てきている。しかし、あまり節電効果のなさそうなサマータイムを除けば、労働契約の根幹に関わる変更をもたらすもので、一律に行えるものではない。

 既に被災地では会社そのものが消失した事例も多く、そうでなくても多くの失業は誰の目にもやむを得ない事由によるものであるが、被災地以外でも今後電力不足や生産連関の途絶のために雇用を終了せざるを得ない事案が相当数発生することが予想される。もちろん、「日本はひとつ」しごとプロジェクトにおいても、被災地だけでなく一定の関係のある会社も雇用調整助成金の対象とされているが、無制限に対象を広げればモラルハザードを惹起する上に、財源ももたない。とはいえ、会社が直接被災したわけではないのに電力不足で首を切られる労働者はすぐには納得できないだろう。こうした震災を原因とする個別労使紛争の多発も予期しておく必要がある

その他の方々のエッセイは本誌でお読み下さい。

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私共のHPで紹介させて頂きました。
今後ともよろしくお願い申し上げます。

谷口プロジェクト事務局

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