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2011年4月22日 (金)

OECD対日審査報告書2011年版

OECDが昨日、「対日審査報告書2011年版」を公表しました。

日本語による要旨がアップされていますので、それを見ていきましょう。

http://www.oecd.org/dataoecd/6/5/47651437.pdf

>2011年3月11日に発生した東日本大震災は、日本における観測史上最大の地震であり、戦後最悪の惨事をもたらした。この惨事により膨大な数の人命が失われたことに深い哀悼の意を表明するとともに、被災された方々に対して心よりお見舞い申し上げる。OECDは、今後日本の関係当局と密接に連携し、この困難な時期に可能な限り日本を支援する用意がある。

震災による損害の全容を評価することは依然として時期尚早であるが、その当初の影響としては、生産を低下させることが見込まれ、その後、復興策によりそうした影響は反転されるであろう。デフレの圧力は、成長への逆風であり続けるであろう。このため、日本銀行は、下方リスクに注意を払いつつ、デフレが克服されるまで緩和的なスタンスを維持すべきである。金融政策の枠組みは、デフレに対する更なるバッファーを保証するため、物価安定の「理解」を引き上げることなどにより改善されうるであろう。

日本の優先事項は、原子力発電所の情勢とともに、人道的また復興に向けたニーズに取り組むことである。これは、必然的に公的支出の短期的な増加へのニーズを生み出す。だが、債務残高の現状を踏まえれば、そうした支出は、歳出の組み換えや、日本の人々の連帯感に訴えかけ、歳入の短期的な増加により賄われる必要があるかもしれない

先進国のコモンセンスが穏やかな表現で書かれています。金融政策は緩和的に、不可欠な公的支出は「人々の連帯感に訴えかけ、歳入の短期的な増加」つまり、増税で賄いましょうという、火事場ドロボーじゃない人々であれば当たり前の話です。リフレさえあれば他のすべては無駄と思いこんであらゆる税金を憎悪するというのが日本の一部に生息する特殊な人々なわけですが。

毎度おなじみの「労働市場の二極化への取組み」についても、やはり別の意味の火事場ドロボー的に、正社員の既得権を叩きながら非正規への保護も目の仇にするある種の人々とは違って、

>非正規労働者比率の上昇は、企業が雇用の柔軟性を高め、賃金を削減することに役立っているが、そうした労働者は、低い賃金、少ない訓練、不安定な仕事、そして十分でない社会保険制度の適用に直面している。労働市場の二極化を縮小させるためには、非正規労働者に対する社会保険の適用範囲の拡大、よりよい訓練プログラム、非正規労働者に対する差別の防止、そして正規労働者に対する実効的な雇用保護を引き下げるといった包括的な取組みが必要となる

と述べています。

詳しくはリンク先を。

(追記)

それにしても、このように素直に読めば、日本の異様な「りふれは」ではないにせよ、世界的には立派に「リフレ派」に属するような提言を、OECDがしてくれているというのに、それには見向きもせず、将来的な「税」という時を見ただけで脳みそのヒューズがはじけとんだのか、

http://twitter.com/#!/hidetomitanaka/status/61280393697038336

>ここで歯止めかけないと、復興政策がただの社会保障改革の消費税増税(本当は官僚たちのレント増大目的)という狂った帰結になる。しかしOECDとかわざわざもってきてこの時期にそのラインで増税とか。いったい復興をどれだけ軽んじているのか。人間性の問題でしかない。

と、社会保障への憎悪感だけで脊髄反射してしまうあたりが、「りふれは」の「りふれは」たる所以かも知れません。

味方になるはずの人を次から次に蹴散らし敵に追いやっていくその手際の鮮やかさには驚嘆の言葉もありません。

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コメント

うーん、復興での歳出については恒久的なものでなく一時的なものなので、そもそも国債の消化余力がまだある状態では、わざわざ増税する必要はないと思うんですけどねえ。

※同様の理屈から一部"りふれ派"が唱える日銀直受も論外ですが

むしろ増税は、恒久的な歳出である社会保障費の如何ともしがたい増加に応じた形でやるべきだと思うので、その意味では自民党の主張(復興費用に消費税を充てるべきではない)に賛成かなあ。

火事場ドロボーと批判されるのは、「3年間に限定して消費税を3%増加」と言いながら、そのまま恒久化する魂胆がミエミエだからじゃないでしょうか。要は姑息なんですよね。

当人たちはある種のマキャベリズムのつもりなのかもしれないですが、スピーチ下手・アピール下手もあって、「手段を選ばない覚悟をもってやっている」というよりは「ビビって姑息な手段に逃げてる」としか見えないというか。

OECDの審査は(厳しいけれど)妥当なものばかりだと思います。

>1998年以来、GDPデフレーターを14%程度減少させている。デフレは、実質金利を高止まりさせ企業収益を圧迫し、その結果、賃金や雇用への下方圧力を生むことで成長の足かせとなっている。

日本は、デフレに対して積極的に対応してきませんでした。日銀は、その役割はもっぱら金融の安定化にあるとして、物価の安定(適度なインフレ)という役割を果たしてきませんでした。デフレの原因は日本の低生産性にあるというような他人事のようなことを言ってきました。

>そのような場合においては、高いリスクの民間金融資産を購入することには注意を払う一方、長期国債の購入拡大を通じて長期金利を低下させることに焦点を当てるべきである。こうした取組みは、インフレ期待をも上昇させるかもしれない。

原発事故を受けて、日銀は東電の社債を買い入れたとのこと。これって、リスク資産ですよね。復興国債の消化にあたって、長期金利の上昇に目配りしながら、日銀は国債を購入する必要があります(直接引受けである必要はない)。日銀の国債購入によって、インフレ期待を上昇させ、デフレ脱却の契機としてもらいたいものです。

>インフレの目標は・・・・、1つの典型的な目標は2%、プラス、マイナス1パーセントといったものである。

日銀の物価安定の理解(目標ではない)はゼロから2%程度としています。

>いくつかのOECD加盟国では、インフレの範囲は中央銀行により独立に設定されるというよりは、政府もしくは政府と中央銀行の協議によって設定されている。

何かというと、日銀の独立性云々という話がでますが、インフレ目標値の設定は日銀の独立性の範疇外にあります。設定された目標値を達成するための手段について、日銀は独立性を持つということです。日本では政府(財務省)がインフレ目標を設定しようとしないのも問題です。

>日本の財政状況は、極めて厳しい状況に達している・・・

OECDは2020年までに基礎的財政収支(プライマリバランス)を黒字化するという目標では不十分であり、3%(GDP比)程度の黒字が必要であるとしている。

>消費税率は現行の5%から、5から9%程度引き上げられなければならない。債務残高比率の安定に必要となるであろう3%の基礎的財政収支黒字の達成のためには、さらに6%程度の消費税の引き上げが必要となり、消費税率は欧州の平均である20%に向かっていくことになるであろう。

>家計や企業所得への直接的な課税に比べ経済成長への負の影響がより小さいことを考慮する場合、消費税は追加的な歳入の主要な源となるべきである。間接税の引き上げによる逆進的影響は、勤労所得税控除といったような低所得世帯を支援する施策によって最も相殺されうるかもしれない。

・・・厳しいけれど、正論ですね。(長期金利を高騰させることなく)金融緩和をして景気を拡大し税収を増やす。歳出の増加を抑えながら、消費税を上げ、歳入を増やし財政の健全化(ドーマー条件をクリアする)を図る・・・

その他、社会保障支出の拡大、新成長戦略、教育システム、労働市場、等に関する審査、どれもほぼ納得です。

それにしても不思議なのは、優秀であるはずの日本の官僚からこのような報告書が、何故上がってこないのかということです。言うが易し行うが難しということでしょうか?あるいは、日本というシステムに不具合があるのでしょうか?日本では、部分最適ばかりに目を奪われ、全体最適を見渡していないようにも思えます。

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