日弁連シンポ要録@『BLT』の中身
雪降る聖バレンタインの夕べに、日弁連シンポジウム「どうする? これからの正規と非正規」に参加したことは、その日のエントリでお伝えしたところですし、
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/02/post-d648.html(ホワイトバレンタインの日弁連シンポ)
そのごく簡単な記事が『労働新聞』に載ったこともすでに書きましたが、
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/02/post-0f18.html(日弁連非正規シンポジウム@『労働新聞』)
もう少し詳しくやりとりまで再現した記事が、1月前に出た『ビジネス・レーバー・トレンド』4月号に載りました。それが、次号が出たのでHPにアップされたので、ネット上でも読めるようになっております。
http://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2011/04/048-051.pdf
この記事は、有期研報告の説明とシンポの実況と労使団体の意見書などを取り混ぜながら書き進めているので、シンポの実況の部分だけを以下に書き抜いていきます。発言者としては、やや違うというところもないではないですが、まあおおむねこんなやりとりではありました。発言者で色分けしてわかりやすくしておきます。
>パネルディスカッションでは、まず正規労働者と非正規労働者の均等・均衡待遇の捉え方について西谷教授が、「現行法制では全く不十分。正規・非正規を超えて処遇が均等でなければならないとの原則を法律で明記することが先決だ」と口火を切った。そのうえで、「日本では、何をもって等しい扱いを要求するのかがまだ十分詰められていないので、その実現にあたっては、『均等待遇』とはどういうことなのかの議論を詰める必要がある」と指摘。「『同一価値労働同一賃金』原則を基本的な方向としながらも、日本の伝統的な賃金体系を考慮せずに純粋に原則を貫くと家族手当などを支給していること自体が問題になりかねないので、『原則プラス合理的な賃金慣行』の内容を設定して、その実現を図っていくべきだ」と訴えた。
>西谷教授の均等・均衡待遇の考え方は、「労働の価値を客観的に分析・職務評価する」ことに加えて、「日本的賃金慣行に基づき、伝統的に取り入れられてきた年齢・勤続給、扶養家族手当、住宅手当などの属人給的なものに基づく格差は合理的な賃金慣行として是認する」というものだ。
>これに対し、濱口研究員は、「均等・均衡問題は非常に厳格な理想型を描いていて、それは日本では現実的でなく、できない」と主張した。「例えば、今年の経労委報告で期待や義務が違うとの指摘がある。中長期的にはそこも見直していくべきだろうが、当面の話としては、現実にそういう働き方があるのは事実。ならば、その基準に従って『これぐらい等しくないからこれだけの差が付いている』などといった議論をしてみたらいい」と語った。
>・・・ 濱口研究員の発言は、実際にそういった主張があるのだから、それに乗って議論してみるのも一策との発想から出された格好。「今の正規労働者と非正規労働者は土俵が全く違う。一方は基本的には年功的な生活給のなかで、形としては職能資格制度でやっているし、もう一方は外部労働市場で時給◯◯◯円などと決められているから接点がない。それをある程度前提にしながら、どういうやり方が妥当なのか議論したら良い」と訴えた。
>濱口研究員は、この問題を話し合う際には、当該労働者が議論に参加する集団的労使関係システムの構築も見落とせないとの見解も示した。
「均等・均衡は最終的には納得の問題なのに、当事者が意思決定に加わっていないところで決められている。どう決まっているかの問題であるとともに、それをどう決めるかの手続き論の問題でもある。非正規労働者も含めた職場の労使関係のなかで『こういう義務の違いがあるから、こういう差がある』との納得性があれば、中長期的には義務の違いの善し悪しの議論はあるとしても、当面はそういう均等・均衡論があっても良いのではないか」
>この考え方に対し、西谷教授は「働き方にもいろいろあるし、責任や義務に違いがあるので、ある程度を賃金決定の考慮に入れるなど、職場の正規・非正規労働者の納得が大事というのはある意味では賛成だ」とする一方で、「内容と手続きは区別して考えねばならない」と指摘。「非正規労働者の組織化が進んでいるとはいえ、組織率が依然低いなかで手続き的に『非正規労働者も含めて職場で一定の協議をして合意したから納得しているはず』とは必ずしもならない」と反論した。
>そこで濱口研究員は、「実質的にその属性持った人たちの意見が集約されて意思決定プロセスに入っていることが重要。強調したかったのは、今までは集団的意思決定のなかで非正規労働者の問題を議論する観点がなかったこと。正規・非正規の問題を解決していくためには、職場レベルで正規と非正規を包含した連帯を構築していくことが、この問題の改善の鍵になるのではないか」と付言した。
>連合の山根木局長は、正規労働者と同じ労働をしている非正規労働者が存在していることを問題視している立場から、「正規労働者として働きたいのに働けない人の正規化を進める一方で均等・均衡処遇を担保する法的な整備が必要。正規労働者と同じ労働をしているのに差別的な待遇で働いている非正規労働者がいるのは、職場をみれば明らか。職場の点検活動で一つひとつ改善していく取り組みが大事だ。もう一つ、非正規労働者は単に時給が低いだけではなく、その状況がずっと続く問題がある。ある一時だけ時給を上げても、差はなくならない。どうやって賃金カーブを上げて、将来設計の見通しを立てるか。そして、スキルアップの機会をつくり、自らの昇給につなげていくような制度を整えていくことも重要だ」と訴えた。
>この議論の延長上で、正規労働者の働き方も話題に上った。「正規労働者と同じ仕事をしている非正規労働者がいる」との意見がある半面、現行の正規労働者は転居を伴う転勤も辞さないし、休日も含む残業を厭わない人が少なくない。こうした働き方をしている人と、非正規労働者の働き方はやはり異なるとの意見も根強いからだ。
>西谷教授は、「これは正規労働者の働き方をどう見直すかの問題。暴力的に『どこそこに行け』と命じて、応じられなければ『転勤ができない社員だから賃金に差が生じてもやむなし』との考え方は改めるべきだ」と述べ、「基本的には正規であっても労働者の同意が必要で、仮に遠隔地に転勤してもらわねばならない時は、使用者から転勤手当を出すとか転勤が終了した際には特進させる等の変更内容を付けて新しい労働条件を申し込む」ような姿に変えるべきだと発言。長時間労働や遠隔地への配転がごく当たり前に行われている正規労働者の働き方を見直すことなしに、格差の有無を論じてはならないとの考えを示した。
>これに対し、濱口研究員は、「長期的には何でもやるような(アブノーマルな)ことのない(ノーマルな)働き方が中心になり、命令一つでどこにでも行くような働き方を選んだ人への対価として一定のインセンティブがあることが自然。そうなれば、正規労働者と非正規労働者の間にノーマルな働き方のクラスターできて、それが拡大していけば今のように必要もなく有期の細切れ雇用をすることも解消していくだろう」などと述べた。
>正規労働者の問題に関しては、経営側からよく聴かれる「解雇規制が厳しすぎる」との意見を踏まえ、正規労働者の解雇規制をどう考えるかについても話し合われた。
>西谷教授は、「正規労働者に対する解雇規制は、整理解雇の四要件が設定されている。その枠組み自体は企業も労働者側にも考慮されており、とりわけ解雇は最終手段との考え方に基づいてできているので、変える必要はない」とのスタンス。
>山根木局長も、企業の雇用責任を問う考えから、「使用者はよく『長期雇用に伴うリスクがある』というが、元々、日本は長期雇用を前提に、その維持を図るために雇用調整助成金という制度がある。実際、リーマンショック後の〇九年には八万事業所に六億五〇〇〇万円が助成されている。企業だけが雇用をひたすら抱えて大変だということではない」として、規制の見直しは不要との主張を展開した。
>こうした二人の発言に対し、濱口研究員は「解雇権濫用法理は文句のつけどころがないが、整理解雇の四要件は見直す必要がある。これは、明らかに正規労働者を優遇し、非正規労働者を差別している。もっと言えば、大企業の労働者だけが特をするような解雇規制のあり方は見直すべきだ」と述べ、公正な解雇規制を実現させる観点から、一定の改定は必要との見解を表明。そしてその理由を「日本は解雇権濫用法理があっても、不公正解雇の概念がない。だから、『社長の言うことをきかないからクビ』、『能力不足だからクビ』あるいは無茶苦茶な要求を出されて『達成できないからクビ』などの案件が、裁判所という高い敷居を跨ぐ前の段階でまかり通っている。こうした実態を踏まえてどう見直すかの議論をしなければならない」などと説明した。
ではなぜ、そんな歪んだ形になっているのか――。それについては、「アブノーマルな働き方をする正規労働者を前提に判例法理が構築されてしまうから」で、それ故に「仕事がちゃんとあって働いている非正規労働者が不当解雇されたり雇い止めされたりする」と述べたうえで「そういうことのない仕組みをつくるために、公正な解雇規制の観点で見直す必要がある。ある面では規制の緩和だが、別の面で規制強化でもあることだ」と訴えた。
>この意見に関して西谷教授は、「現在の状況を解雇法理だけの問題で見てはいけないという点は賛成。付け加えれば、退職強要が非常に広範囲に広がっている。これをどう規制していくかも法制度、法解釈上、かなり大きな課題だろう」と発言。山根木局長は「趣旨は理解する」としながらも、「非正規労働に雇用安定面などの問題があるから長期雇用にしようとの流れのなかで、正規労働者の解雇規制を緩める動きには問題がある」と警鐘を鳴らした。
>冒頭に記したように、有期研究会の報告には「多様な正社員」のモデルを労使が選択できるよう検討しようとの提言がなされている。従来型の正規労働者とは別に、職種や勤務地を限定した無期雇用が提起されていることに対し、西谷教授は「現在の有期雇用と期間の定めのない正規雇用の間に中間的な雇用のあり方を求めようということだろうが、その言葉自体、誤解を招きかねず、私流に言えば、『二級正社員』だ」と強く反対して、具体的な問題点を二つ、以下のように指摘した。
「この議論は、現在の正規労働者と非正規労働者の働き方を前提としたうえで、その中間にもう一つ設けることにより、非正規労働者から正規労働者に上がる可能性を求めれば多少はましになるのではないかとの考えているように思える。だが、第二の正規をつくれば第一から第二への転落が当然でてくるわけで、正規労働者の働き方の競争がもっとシビアなものになる」
「もう一つ、中間的な正規労働者には解雇規制を思い切って緩める方向性が示されている。期間の定めはないが解雇規制は緩められた一定層が正規労働者のなかに入り込んでくることで、今の解雇規制の重要な一角を崩すきっかけになるのではないか」
>山根木局長も「正規労働者の解雇規制の議論と同じで筋が悪い」と断言。「既に地域限定正社員や期間の定めのないパート労働者が、職場や企業、働く人のニーズのなかでどんどん増えているなかにあって、危険なのは審議会の議論のなかで政策論的に『日本全体で進めてはどうか』となることだ」と強く懸念。「非正規労働者がこれだけ増えたのは一九九五年に当時の日経連が新しいポートフォリオ論を打ち出した途端、右へ習えとなったことが大きい。こうした話は政策論ではなく、個別企業の実態や職場の労使関係のなかで公正処遇を前提にして、選択肢は働く側が担保される仕組みを労使で構築していくことが大事だ」と訴えた。
>濱口研究員は「私が中長期的にイメージしている『ジョブ型正社員』の考え方だ」と研究会報告に賛意を示したうえで、西谷教授が問題視する一級正社員から二級正社員への転落の不安について「アブノーマルな一級正社員を前提にして良いかを考えるべきだ」と反論した。
濱口研究員の考える「働く人の中長期的なイメージ」とは、①アブノーマルな何でもありの働き方をしている今の正規労働者の義務を下げるとともに、それに見合った形で保障されていた「例え仕事が無くても雇用は維持される」ようなことを見直す②そして、「仕事があるのに切られる」といった不公正な解雇や雇い止めをどう規制していく③そうすれば、仕事がある間は無期雇用でノーマルに働く「ジョブ型正社員」が中心になる――というもの。「中間的な正規労働者がいないと、『仕事が無くなっても雇用は守るから、その代わり会社の言うことを全て聞け』と『仕事はあっても契約終了だからクビを切るぞ』の二択になってしまう。さらに、後者はそれだけでは済まず、『仕事があってもお前はおしまいだぞ』と脅されるなど、それ自体が労使関係や労働条件に対して極めて権力的な機能を果たすことになりかねない。労使関係の一番の基本は文句がいえること。『仕事があるのにクビを切られるかも知れないから文句が言えなくなる』のが最大の問題だ。今の正規労働者の働き方を前提にそこから(条件等が)落ちることは、現実には生活報酬面などでいろいろ問題もあるだろうが、中長期的なあるべき論としては、むしろそうでない働き方を前提とした期間の定めのない雇用がデファクトルールになるべきだ」との持論を展開した。
>・・・なお、西谷教授は、連合の対応指針と同様、「労働者が長期にわたって雇用に依存して生活せざるを得ない以上、有期で人を採用する合理的な理由で制限の仕方をする必要がある」と発言。濱口研究員は、「入口か出口かという話があるが、基本的には出口規制が一番重要だと思っている」などと語った。
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