児美川孝一郎『若者はなぜ「就職」できなくなったのか?』
児美川孝一郎さんから『若者はなぜ「就職」できなくなったのか? 生き抜くために知っておくべきこと』(日本図書センター)をお送りいただきました。ありがとうございます。
http://www.nihontosho.co.jp/2011/02/post-183.html
ですます調で、大変やさしい語り口ですが、中身はハードです。帯にでかでかと「・・・崩壊!」とありますが、むしろその左下の
>ルールなき時代を漕ぎ渡るキャリアとは?
>無防備なままに若者を放り出すな!!
の方が、本書のメッセージとなっています。
内容は次の通りですが、
プロローグ
僕の構えが変わった理由/この本で書いてみたいこと
各章の見取り図
第1章 学校は、いつから「職業人養成所」になったのか?
社会人になるための能力ってなんだ!?/就職できる能力を証明する!?
「エンプロイアビリティ」の大合唱/対応を迫られた大学のゆくえ
大学は「キャリア教育」花盛り?/そもそも大学は、なんのためにあるのか?
「キャリア支援」流行りの弊害/就職できれば、いいのか?
小学校、中学校、高校にも影響はあるのか?/「キャリア教育」という妖怪
大混乱の学校現場/大学と学校の変化のゆくえ
第2章 なぜ若者の雇用問題は、学校教育を直撃したのか?
高卒就職はどう変わったのか?/大卒就職はどう変わったのか?
なにが変化を促したのか?/雇用問題が学校教育を直撃したワケ
少子化というインパクト/学校間競争というサバイバル・ゲーム
第3章 「新規学卒一括採用」の功と罪
―一九八〇年代までの就職模様―
新規学卒一括採用ってなんだ?/高校はどう就職斡旋をしていたのか?
就職斡旋システムの副産物/大学生の就職ルートはどうだったのか?
新規学卒一括採用から「日本的雇用」へ/日本的な就職プロセスの光と陰
日本的雇用は“安全なアリ地獄”?/職業的レリバンスの低い学校教育
従来型の就職プロセスを超えて
第4章 仕事の世界へのわたりを支援する学校教育の課題
急ごしらえのキャリア教育・支援では、なぜダメなのか?
正社員という「勝ち組」の虚と実/見落とされた正社員以外の進路
若者たちの意識と論理/大人はなにを教えるべきか?
「自分」から出発しないキャリアガイダンス/社会理解、職業理解が出発点
労働者の権利、そして働く場のルール/支援の鍵を握る職業的レリバンス
中・長期的視点から追求すべき課題―学校制度改革
労働市場の改革と生涯学習社会へ/課題は今すぐにでも追求できる
エピローグ
この社会に漕ぎでていく今どきの若者たちへ
個人としてしたたかであること、世代として支えあうこと
ブックガイド―僕の考えをつくりあげてくれた本の世界―
進路を考えるということ/学校におけるキャリア教育・キャリア支援
「学校から仕事への移行」プロセスの変容/新規学卒一括採用と日本的雇用
若者支援の課題
あとがき
広田照幸さんの『教育問題はなぜ間違って語られるのか?』とまったく同じ装丁で出されていますが、職業教育主義を批判する広田さんに対して、本田由紀さんや田中萬年さんなどとおなじ(といってもそれぞれ相当のニュアンスの差がありますが)職業レリバンス派のマニフェストといった趣です。
第3章で拙著の記述も引用されたりしていますが、それよりも、第4章でかなり明確なレリバンス志向の学校制度改革を提起している点が注目されるべきだと思います。
大学教育については、わたくしも参加していた日本学術会議の分科会での議論で示されていますが、後期中等(高校)教育についてもこう明確に言い切っています。
>・・・この目的規定にあるように、どんな高校に在籍する生徒も、全員が普通教育”および”職業教育(専門教育)を受けることができるような高校制度への改革を進めるべきです。
>端的に言ってしまえば、アカデミックな普通教科しか学べないような普通科高校という制度枠組みをなくして、すべての高校を総合制(普通教育の課程と職業教育の課程を併置する)の高校と職業高校(専門高校)にしていくという構想です。
>・・・そして、決して実現不可能な課題ではないと、わたし自身は考えています。
なぜ実現不可能ではないと言えるのか。
児美川さんが提示するのは、1990年代半ばまですべての中等学校がアカデミックな普通教科だけで構成されていたオーストラリアにおいて、現在では連邦全体の中等学校の9割以上が職業教育訓練科目を置くようになっているという事例です。
これが可能であったのは、学校教育セクターの外側の職業教育訓練機関と中等学校が連携して、週の特定の曜日に職業教育訓練機関に通うという仕組みをとったからだということです。
言ってみれば、中等学校と職業訓練機関のオーストラリア版デュアルシステムと言えるかも知れません(これは私の感想)。
最後のブックガイドは充実しています。拙著については、仁田・久本編『日本的雇用システム』と対比して
>もう少し軽めのものを、と思う方には・・・
と紹介されておりますです。
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