確かに日航の労組が整理解雇に絡んでILOに申し立てたのでしょうが、少なくとも「整理解雇することはILO条約違反」だなんて馬鹿なことは主張していないはずです。
http://www.asahi.com/job/news/TKY201102040388.html(日航2労組「整理解雇は条約違反」 ILOに申し立て)
いや、見出しはまことにミスリーディングですが、記事自体はまちがってはいない。
>会社更生手続き中の日本航空のパイロットでつくる日本航空乗員組合と、客室乗務員でつくる日本航空キャビンクルーユニオンは4日までに、昨年末に同社が実施した整理解雇の撤回を訴え、日本政府に対して是正勧告を出すよう国際労働機関(ILO)に申し立てた。
2労組は、整理解雇の際に「組合所属による差別待遇」「労組との真摯(しんし)な協議の欠如」「管財人の企業再生支援機構による不当労働行為」があったと指摘。これらは日本が批准する結社の自由と団結権保護や、団体交渉権の原則適用などに関する条約に違反すると主張している。
整理解雇された165人のうち、パイロットと客室乗務員の計146人は先月、解雇は違法で無効として、会社側を相手取り、労働契約上の地位確認と賃金支払いを求める集団訴訟を東京地裁に起こしている。
要は、組合差別だからILO条約違反だと訴えているわけであって、そうでなければ通用するはずがありません。だって、差別のような不公正さがない限り、整理解雇それ自体は正当な理由のある解雇ですから。
ところが、朝日新聞の記者は、ILOに通用する組合差別という点ではなく、通用しない整理解雇という点を見出しにしたわけです。
ここが、差別問題にはきわめて鈍感なわりに、仕事自体が縮小したことに伴う整理解雇に対してはとんでもない悪事であるかのように考える日本型メンバーシップ感覚と国際的な労働問題のスタンダードのずれがよく出ています。
このJALの問題については、電話取材も受けましたが、肝心のここがなかなか理解されないのですね。
(参考)
ILOのサイトに、158号条約(使用者の発意による雇用終了条約)がありますので、英語ですが参考にしてください。正当な理由と正当じゃない理由がどういうものかわかります。
http://www.ilo.org/ilolex/cgi-lex/convde.pl?C158
Article 4
The employment of a worker shall not be terminated unless there is a valid reason for such termination connected with the capacity or conduct of the worker or based on the operational requirements of the undertaking, establishment or service.
Article 5
The following, inter alia, shall not constitute valid reasons for termination:
(a) union membership or participation in union activities outside working hours or, with the consent of the employer, within working hours;
(b) seeking office as, or acting or having acted in the capacity of, a workers' representative;
(c) the filing of a complaint or the participation in proceedings against an employer involving alleged violation of laws or regulations or recourse to competent administrative authorities;
(d) race, colour, sex, marital status, family responsibilities, pregnancy, religion, political opinion, national extraction or social origin;
(e) absence from work during maternity leave.
(追記)
念のため言うと、これはあくまでもILO向けには整理解雇4要件違反といっても通用しないからであって、日本の裁判所向けには整理解雇4要件を根底から覆す無謀・非道云々と言っています。
http://www.jlu.co.jp/ph291.pdf(日本航空の不当解雇1/19 裁判提訴)
これが上述の「ずれ」であるわけです。
ちなみにこのビラには「国際運輸労連からの支援」云々という文字も見えますが、いうまでもなく国際運輸労連も整理解雇4要件などではなく、解雇基準が差別的だといっているのです。
http://www.itfglobal.org/news-online/index.cfm/newsdetail/5506/region/1/section/0/order/1
事実がどうであるかはともかく、なんにせよ、国際的には差別的な不公正解雇であるかが問題なのであって、経営上の理由による整理解雇の方が悪いなどという考え方は存在しません。
も一つ言うと、ヨーロッパの基準では整理解雇時には労働者代表ときちんと協議することが求められていて、ILOに対しての申し立てにもそれが入っていますが、今回の諸組合はいずれも少数派組合であって、日本独特の複数組合平等主義ではそれぞれごとに平等に協議すべきということになるということなのでしょうが、これまたヨーロッパの基準からすると考えられないことです。このあたりも、戦後日本の集団的労使関係法制が、国際相場からはかなり隔絶したところに来てしまったことがわかります。この辺も、分かる人は分かっているのですが、なかなか言わないところです。
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