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« OECD『日本の労働市場改革』明石書店の表紙 | トップページ | 日本全土で「ディーセントワーク」を叫ぶ! »

2011年1月12日 (水)

中小企業労働問題はどこへ行った?

若者の就職難に関わって、「中小企業にはいっぱい求人があるのに」という指摘が結構あります。

これは、求人量で言えばまったくその通りです。しかし、現に存在する中小企業の求人に応募しないことがマクロ経済的に不合理であるとしても、労働者(未満の学生)にとってもミクロ的に不合理であるかと言えば、もちろん必ずしもそうとは言えません。誰もが知っているように、中小企業になればなるほど賃金は低く、労働条件は悪く、雇用は不安定で、経営者の恣意に晒される危険性が高くなります。

もちろん、現実の中小企業にはさまざまな企業がありますが、不完全な情報をもつ市場のプレイヤーが「統計的差別」に走りがちであることは、労使いずれの側についてもおかしなことではありません。重要なことは、学生が「統計的差別」に陥ることなくより完全情報に近い状態で選択しうるような労働市場メカニズムの確立であり、それは商業主義的な就活産業などに任せておいて可能になるものではないでしょう。

ここではしかし、その前の段階として、なぜ「中小企業にはいっぱい求人があるのに」という言説が、あまり自己反省の感覚もなしに語られるのかといういささか知識社会学的な問題について触れておきます。

実は、高度成長以前の労働研究界においては、ただ「二重構造」といえば、本工と臨時工の差別以上に、大企業と中小企業の格差を指すことが一般的でした。あるいは、先日本ブログでも紹介した氏原正治郎氏のように、臨時工と中小企業労働者は連続的な存在であり、区別しがたいという認識も一般的でした。

非正規が主婦パート化するとともに、雇用形態の二重構造の言説が労働研究から姿を薄れさせていったのと揆を一にして、かつては華やかな議論の焦点であった規模間格差問題が、高度成長終了後にはあまり論じられなくなっていきます。企業内でも企業間でも、「二重構造」は流行らないテーマになってしまったのです。

確かに、高度成長期に人手不足によって規模間格差は縮小傾向にありました。しかし、経済原則からして、不況期になれば規模間格差は拡大していきます。にもかかわらず、規模間格差問題が忘れられていったのは、「そんなものは問題ではない」という認識が一般化したためでしょう。その一つが、中村秀一郎氏を始めとする「元気のいい」「ベンチャー礼賛型」中小企業論の流行であったことは間違いありません。

それと同時に、特に労働研究においては、小池和男氏の知的熟練論の影響で、年功賃金が生活給としてではなく、熟練に対応した賃金体系であると考えられるようになったことが大きいように思われます。もし中小企業の賃金が低いとしても、それは熟練が低いからであって、問題にするに値しないわけです。

しかし、アカデミズムの世界では規模間格差問題が論ずるに足りないものになったとしても、普通の国民の民俗知識においては、「中小企業に入ったら損するよ」という口承伝説は着実に伝承されていきました。それは、学者先生の言葉を真に受けて下手な中小企業に入って苦労した人々の姿が現実に存在する限り、抹殺することはできません。

なまじアカデミズムから「中小企業労働問題」が消えてしまったために、フォークロアとしての「中小企業労働問題」が政策的に掬い取られることのないまま、労働市場のミスマッチを招いている、という反省が、本当は求められるところではないでしょうか。

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コメント

直接労働問題を取材した記事ではないですが、こんな連載がありました。大企業のヤバい部署は機械化とか下請けに出すことで消えてしまったのかも知れません

ここは酷い足下の迷宮ですね 障害報告@webry/ウェブリブログ
http://lm700j.at.webry.info/200802/article_2.html
神戸新聞|オキナワの青年 特定失踪者を追う第2部
http://www.kobe-np.co.jp/rentoku/shakai/200801meikyu/

>中小企業になればなるほど賃金は低く、労働条件は悪く、雇用は不安定で、
>経営者の恣意に晒される危険性が高くなります。

中小企業、マジ終わってるから。

アジア優良中小企業、日本わずか2社に激減 米誌の200社調査
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/100902/biz1009021304019-n1.htm
平成21年度 賃金不払残業(サービス残業)是正の結果まとめ
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000ufxb.html

第3-3-18 図は、財務省「法人企業統計年報」の再編加工により、大企業と中小企業の労働生産性
(=付加価値額/従業員数)の推移を示したものである。それによると、中小企業の労働生産性
の水準は、製造業・非製造業のいずれも、大企業の労働生産性の水準を下回っている。
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h21/h21_1/Hakusyo_chap3_web.pdf

まず、違反企業の資本金額は平均で約2,950 万円(最頻値、中央値ともに1,000 万円)と、資本金額で見る限
り小規模企業である。情状で示される反省態度は77.7%、本税納付等は82.1%が判決書き上記載されている。
逆に言えば、有罪判決を受けた被告人でもこれらのことを行っていないのは稀であるということである。また本稿の
関心事項であるほ脱金の使用目的についてであるが、動機で示される個人的流用・情状で示される私的流用がある
と判決書きで記載されている件数が全体の件数に占める割合は29.5%である。ただし、実務上、法人税法違反を犯すよう
な小規模企業のほとんどの事案では、個人的利益目的で法人税法違反がなされているのではないかとみられている。
http://www.esri.go.jp/jp/archive/e_dis/e_dis200/e_dis192a.pdf

「IT人材白書2009」によれば、ITスキル標準を利用している、または利用を検討している情報サービス企業は、
大企業で約90%ですが、企業規模が小さくなると利用率が下がる傾向にあり、企業規模31名以上100名以下
では34%に留まっています(図1)。
http://www.ipa.go.jp/about/press/pdf/100129Press.pdf

一般的に就活学生は異常に強気か異常に楽観しています。今、正規雇用で就職するだけでも大変なのに、やりたい仕事をさせろ(しかも正社員で)なんて…要求は実はあつかましいことなのです。ある程度、やりたい仕事を考えるのはいいと思います。しかしストライクゾーンが狭すぎるのはダメです。だから就活が長期化するのです。たとえばマスコミ志望者、出版社は大変な不況で、新卒採用などできるところは少数です。あっても応募が殺到するので競争倍率は100倍以上、大手は1000倍を越します。マスコミ志望者は、安定を重視してマスコミ以外の業界もストライクゾーンに広げる→①か、夢を最優先して安定を捨てマスコミ1本→②か、いずれか選択です。
そもそもフリーライター、若手芸人、歌手などは②に入ります。こういう人生は、覚悟があればそれはそれでいいと思います。しかし現実はそれほどの覚悟のない若者が、やりたい仕事しか嫌で、かつ、生活の安定が欲しい、というような就活をします。…これは社会をナメています。こういう若者は面接で見抜かれて落とされ、フリーターになっていくのです

大企業(あるいは大企業系列の子会社・派遣会社)であっても遵法意識のない労働条件が過酷な会社があり、規模や知名度だけでは安全な会社かどうか分からなくなっていることも「中小企業労働問題」という捉え方を難しくしているのではないかと思います。そこで「ブラック企業」というように、企業単位で捉える見方が広がっているのではないでしょうか。

> それは商業主義的な就活産業などに任せておいて可能になるものではないでしょう。

仰る通りだと思います。60年代末から漸進的進んできた大卒市場の「自由化」に歯止めをかけ、労働市場・生活保障システム全体の改善と絡めながら就職問題にも取り組んでいく必要がありますね。

> 今、正規雇用で就職するだけでも大変なのに、やりたい仕事をさせろ(しかも正社員で)なんて…要求は実はあつかましいことなのです。

企業が学生に「やりたいことは何か?」と聞いてくる部分も大きいですよ。なぜ就職、広くは若者の労働問題において「やりたいこと」がキーワードになっているのか、もう少し構造的に捉えた方がいいと思います。

社会が変わったのか、学生が変わったのか?

前者に立てば、「社会システムの再構築が必要」という主張になるでしょうし、後者の立場に立てば、「本人の心がけが悪い」という自己責任論になります。

「社会が変わった」というのは、「記録的な就職難」jといった報道からも明らかなように、疑いのない事実だと思いますが、「学生が変わった」というには客観的な根拠がほしいです。

客観的な根拠なしの自己責任論というのは、「近頃の若者は...」といった若者論を酒の席で披露するオヤジと同じ次元です。

そもそも中小企業にいっぱい求人はありません。
大半の中小は不景気で経営が苦しい
いっぱい求人があるなら、有効求人倍率が0.57とかになるわけがない。

リクルートワークスとかのデータを見ると錯覚でそう見えるだけです。真に受けるとこんな煽り記事もでてきます。

中小企業の門戸は大手の9倍 就職事情
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/economy/policy/480310/
リクルートワークスの元データみると
民間企業就職希望者
総数 455,700

規模別就職希望者をすべて足すと
大企業希望者+中小希望者=希望者総数

大企業と中小企業を両方受ける予定の人はダブルカウントされてない
第一志望が大企業なら大企業希望者とカウントされて
仮に中小企業受ける予定があっても中小企業希望者にはカウントされない
リクルートワークスの倍率は採用予定数/第一希望者数

倍率だけ聞くと大手にこだわらず、中小受ければ簡単に内定とれそうだけど
中小が第一希望の人と答えた人が少ないってだけで、受けてる人はもっと多いのでそうはいかない

企業から金を貰って宣伝する立場の就職情報産業に、現状の労働市場を完全情報に近い状態へ変える役割を期待するのは筋が悪いとすると、既存組織でそのような役割を自然に担いうるものとしてはどこが考えられるでしょうか。
逆に学生から金を貰っている存在としては大学というものがあります。大学が卒業生に対して現状の職場の環境の報告を求めてその情報を集約して在学生に提示するというのはひとつの方策だと思います。ただし、個々の大学から各年度に個々の中小企業に就職する学生数は僅少なので、特に規模の小さな企業に関して有用な情報源となるためには、大学間での情報融通が必須と思われます。

昨年末に厚労省が発表したデータ(2010年末現在、1,000人以下四捨五入)では、歯科医師数がはじめて10万人を超えたとのことです。歯科医療従事者は9万8千人で、うち病院従事者は1万2千人(12%)、診療所従事者は8万6千人(85%)で診療所の開設者が6万人、勤務者が2万6千人となっています。平均年齢は全体で49歳、病院は37歳で診療所だけでは51歳とかなり高齢になっています。一方、技工士を見ると、技工士数は3万5千人、技工所は1万9千事業所となっています。もちろん高齢化も進んでいます。これらの数字からいろいろなことが見えてきます。なかでも特徴的なことは歯科には病院が少ないことで、全体の85%が個人医院で1診療所当りの医師数は僅か1.4人となります。同様に技工所も零細で、1技工所あたりの技工士は1.8人となります。いずれもほとんどが個人事業といって差し支えない数字です。
http://www.dipro.co.jp/news/2012/03/03.html

 現在日本のIT産業には、約13,000事務所(本社及び単独事業所)が存在していますが、売上高が100億円を超える企業数は200弱にすぎません。それ以外のベンダーでみれば従業員数は1社(又は1単独事業所)当たり平均40人強です。このような小企業/零細企業では、競争力を確保するための一定規模のシステムやサービスの企画・開発、及び効率的な開発ノウハウの蓄積・共有は難しいと言わざるを得ません。
http://mag.executive.itmedia.co.jp/executive/articles/1005/18/news093.html

2008 年以降、増加傾向にあるシステム・ソフトウエア開発業者の倒産。2012 年はさらに増加が顕著となり、4 月までに 88 件発生。過去最悪となった 2009 年(206 件、2009 年 1 月~4 月=67件)や 2011 年(202 件、2011 年 1 月~4 月=74 件)を大きく上回る勢いで推移しており、今後の動向が注目される。
http://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p120502.pdf

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