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2011年1月16日 (日)

与謝野馨『民主党が日本経済を破壊する』文春新書

9784166607174 政局でしか物事を見ることの出来ない方々は、この(おそらく文藝春秋編集部がつけたであろうタイトルだけでものごとを考えて)あれこれ論ずるのでしょうが、およそ経済社会政策の中身でもってものごとを考えようと思う人ならば、せめてこの扇情的なタイトルの本の中で、与謝野新経済財政担当大臣が本当のところ何を語ろうとしていたのか、ちゃんと見極めてから語り始めてもいいのではないでしょうか。

下のエントリで、山口二郎さんが紹介している「私との会談の中で首相は、神野直彦、宮本太郎両氏が進めている福祉国家再建の路線は共有していると強調していた。」という事実と照らし合わせて浮かび上がってくる、ある明確な経済社会政策の方向性が、そこには書かれています。政局に盲いた人々の目には映らない方向性が。

>・・・もう一人挙げれば、政治学者で北海道大学教授の宮本太郎さん。これは後から聞いた話になるのだが、やはり委員で入ってもらった連合会長の高木剛さんなどは「なぜ与謝野さんは宮本さんを知っていたのか」と不思議がっていたらしい。連合が雇用や社会保障の問題に取り組む上で、大変頼りにしてきた学者さんだという。

>・・・「目からウロコが落ちる」という言葉があるが、戦後日本の働く世代の安心感や社会保障は、民間企業が提供してきた終身雇用制度がその根幹を担ってきたのだ、という事実を、私は『福祉政治』を熟読して始めて認識した。

>・・・そうであれば、高齢者円形に傾斜してきた社会保障制度を、働く世代の支援、雇用のあり方と結びつけて、もう一度組み立て直してみる必要がある。こうした宮本氏の議論は私が思案していた「安心社会」とぴたりと一致するように感じられた。それで、是非委員に起用しようと思い立ったのである。

まさにこういう政策の方向性において「ぴたりと一致する」からこそ、政局主義者の目には異様に映るような閣僚人事が行われたのだ、と、素直に考えることがそもそも出来ない人々が、まさに定義上「政局主義者」なんでしょうけど。

さらにその先を読んでいくと、安心社会実現会議の報告書について

>報告書をよく読めば気がついていただけると思うのだが、これは明確な路線転換の書だったのである。

と述べています。

大変皮肉なことですが、同じ自民党政権の中で、ネオリベラルな構造改革路線から福祉国家をめざす路線への転換があり、それが政権交代で再び「事業仕分け」に熱狂するある意味でネオリベラル感覚全開の時代に逆戻りし、そして今ようやく再び、かつて与謝野さんが目指そうとした福祉国家再建の政策に再転換しようとしている、と、評することも出来るのかも知れません。もちろん、政治評論的には「お前が言うかお前が」のネタがてんこ盛りなのでしょうが、とりあえずそれらを全部抜きにして政策論のみでざっくり言うならば、そういうことになるのでしょう。

上に続けて、与謝野さんはこう語っています。

>自民党は正式名称は言うまでもなく「自由民主党」という立派な名前だが、税制と社会保障制度に限っては、戦後長く、実はきわめて欧州型社民主義に近い路線を歩んできたと私は認識している。福祉社会を創ろうと最初に提唱したのはかつての民社党だが、国民政党を名乗り、融通無碍が特質の一つである自民党がそういうものを吸収しながら政権を維持してきた。

>会議立ち上げの旗を振り、社会保障、雇用から日本の社会のあり方についてまで踏み込んで議論を進めた担当大臣として私の責任は重いと自覚している。党派を超えて具体化を進めよという有識者の皆さんのご提言である。今後どのような立場に置かれようとも、政治の場でこの報告書に超党派で息吹を吹き込んでいかなければならないと心に誓っている。

この高邁な志と、政局主義者たちの卑小な論評の対比が、現在の日本の政治状況を、何よりも見事に物語っていると言えるのでしょう。

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コメント

与謝野さん登用は、社会保障改革、というより、消費税による社会保障財源調達のための登用ということははっきりしていますね。
社会保障、それも、セーフティネットとしての雇用対策まで含めての社会保障を拡大してゆく必要はもちろんあるし、それもできるだけ先送りせずにせねばならないことですから、識見のある人を登用することは当然だと思います。
ただ、与謝野さんにしても、宮本さんにしても、「消費税増税が基本」というのが、私にはどうも納得できません。宮本さんが座長の「社会保障改革に関する有識者検討会報告~安心と活力への社会保障ビジョン~」(平成22年12月10日発表)に、財源として具体的に述べられているのは「消費税の基幹性」ですし
(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/kentokai/dai5/siryou.pdf)、与謝野さんが経済財政相のときの経済財政諮問会議が、やはり「消費税を主要な財源」としていますね(「持続可能な社会保障構築とその安定的財源確保に向けた中期プログラム」平成20年12月24日閣議決定、など
(http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/cabinet/2008/decision081224.pdf)

ここは、労働問題のブログですし、私自身、財政問題には詳しくはないのですが、でも、「働く者」の一人として、社会保障財源を考えると、いくつも疑問があります。それも労働問題にかかわって。
 まず、社会保障財源の内訳は、税と社会保険料ですが、どちらにしても、働く人間がかなり納めているものです。けれども、その徴収と使途、つまり、財政の問題について、とりわけ経済財政諮問会議のときは、政府・有識者・経営者は入っていても、ステークホルダーである「働く者」の代表は入っていませんでした。ちなみに、平成20年時点の経営者は二人、トヨタと新日鉄の会長さん達です。労働問題については政労使の「三者構成」となっていますが、国の財政については、三者構成になっていません。ヨーロッパの場合には、それこそ、オランダのワッセナー合意が「税と社会保障の一体的改革」についての合意だったと思いますが、政労使の三者構成でしたね。
 で、財源が、まず消費税、というのも、とても疑問です。消費税を選択肢の一つとして考えることに異論はありませんが、消費税ありき、というよりも、消費税しかない、という議論やムード作りを見ていると、そもそも政策選択の議論などする気がないのではないかという印象を受けます。消費税の他にも、選択肢があるはずだと思います。まず、所得税の累進化です。日本の所得税は、90年代に低下していますが、国際的にも高くない累進率を高める、という方法が一つ。それから、社会保険料の話がなぜ出ないのかがわかりません。社会保障財源の一つは社会保険料なのに、税の話だけ出て、労使からとっており、サラリーマンの場合には、給与から天引きされている社会保険料、これについて、経済財政諮問会議でも、社会保障有識者検討会でも議論はなかったように思いますが、社会保険料の使用者側負担をあげる、というのはじゅうぶん選択肢になりうると思います。理由としては、まず第一に、近年、雇用者所得は伸びないのに企業収益は伸びていること、第二に法人税は企業側のいう「国際レベル」に下げていること、第三に、ヨーロッパ諸国では日本よりも使用者側負担割合を多く制度設計している国が多いこと、などです。
与謝野さんの経済財政諮問会議には労代表は入っていなくて、使代表だけでしたので、高額所得者の負担増とか、企業の社会保険料増、という話は出なかったのはわかるのですが、宮本さんの有識者会議でも、経済財政諮問会議とほぼ同じ結論なのが理解しがたかったです。
 
 消費税がだめだ、というのではなく、働く者の側から見ると、他の選択肢もありうるはず。増収が必要なら、その政策選択の材料をきちんと示して、そのうえで議論すべきだと思います。与謝野さんが、これまでの議論に詳しいのはけっこうだと思いますが、論議については、菅内閣全体の問題でしょうね。

本件についてはhamachan先生のご意見に全く賛成できないです。

政局ばかりやってないでもっと政策を真摯に考えるべきという考えには同感ですが、民主主義国家として最低限必要な「正統性」はあって、管政権や与謝野氏はそれを致命的に欠いているのが問題なのです。

「無駄を削れば財源はある、増税はしない」と明言して政権とった以上、社会保障充実のために消費税を増税するのであれば、解散総選挙を行うべきです。

自民党の比例復活で当選した与謝野氏は、小選挙区で戦った政党の内閣に入閣するのであれば、議員辞職した上で民間人として大臣になるべきです。

解散総選挙を行えば、自民党も民主党も消費税増税による社会保障強化を打ちだしている以上、どちらが勝っても消費税増税についての「正統性」を持った政権が誕生するわけで、「正統性」を失った管政権が続くよりも、消費税増税は実現しやすくなります。

逆にいうと管政権は政権に固執するあまり、消費税増税の実現を妨害しているに等しいわけです。また与謝野氏にしても入閣によって自民・民主の政策協力の可能性を減らしているわけで、やはり消費税増税の実現を妨害しています。

自らが持っているものを手放すことが、自らの理想の実現につながる場合に、あくまでも自らの手で理想を実現することに拘泥する人が、高邁な志を持っているとは思えません。

政治過程論的には、charleyさんのご意見に同感するところがあります。上記は、あくまでもそれを抜きにした政策論のみでの議論です。

ただ、あえて反論(というより別の議論の筋かもしれませんが)を申し上げれば、そもそもここ十数年間の「自由民主党」と「民主党」が、小選挙区においてどちらを選ぶかが政策の大きな方向性の選択に直結するような意味での、政策的に明確な対立軸を持った二大政党制などとは、似ても似つかぬものであったということを抜きにしては、この問題を十全に論ずることはできないのではないかと思います。

自民党が構造改革を唱えれば、民主党は「もっともっと構造改革」を唱え、自民党が修正しようとすれば民主党は「生活第一」と唱え、どちらにも公共サービスを目の仇にして、減税が最上の政策だと信ずるネオリベ派もいれば、福祉国家の再建を目指す人々もいる。選挙区ごとによって、それぞれの政党の中の違いの方がはるかに大きい、というような状況の中で、形式論理としては正しい「民主主義国家として最低限必要な「正統性」」を、どこまで(内心の思いとして)本当に尊重すべきものと考えるのか、なかなか難しいところではないでしょうか。

というより、「生活第一」とは公共サービスの充実だと思って民主党に投票したら、「事業仕分け」されてしまったという人にとっては、政策論的にはまさに裏切りそのものでしょうけど、政治過程論的には全然問題ないことになってしまうわけです。

そもそも政策の大きな方向性で二大政党制になっているのであれば問題にならないような事態が現に生じているということを前提にした上で、どういう議論を立てるかということではないでしょうか。

(参考)

権丈善一先生のところでも、取り上げられていますね。いつもおなじみの表とともに。

http://news.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/work/korunakare347.pdf

この、経済社会政策の基本哲学においてまったく対立する人々が同じ政党に属し、基本哲学を共有する人々が対立する政党に属して、二大政党制と称して小選挙区制に基づく選挙を行うことのもたらす悲喜劇こそが、今日の日本の政治の混迷の最大の原因なのでしょう。

hamachan先生、ご返答ありがとうございます。

>この、経済社会政策の基本哲学においてまったく対立する人々が同じ政党に属し、基本哲学を共有する人々が対立する政党に属して、二大政党制と称して小選挙区制に基づく選挙を行うことのもたらす悲喜劇こそが、今日の日本の政治の混迷の最大の原因なのでしょう。

という点につきまして、強く同意します。

ただ、昨今の過剰な公務員バッシング・政治不信の大きな要因の1つは、戦後長らく冷戦という特殊事情があったにせよ、国民が示した「民意」と異なる政策を時の政権があまりに頻繁にとってきたという過去にあると思います。

昨日落選した鹿児島のトンデモ市長や、橋下大阪府知事が、特に前者に関しては常軌を逸した酷い市政を行いながら、なおかつ(地元において)管政権よりもずっと高い支持率があるのは、実施されている政策は自分たちが支持した政策であることが大きいと思います。

今また増税しないことを選挙公約として政権を獲得した民主党政権が、正統な形での国民の信任(=総選挙)を経ずに消費税増税を行った場合、特にそれによって景気がより悪化した場合(※)、ただでさえ過激な「みんなの党」の政策をさらに過激化したような凄惨なバックラッシュが起きる可能性は非常に高いと思います。

※より悪いことには、与謝野氏にしても現民主党執行陣にしてもマクロ経済政策にかなり疎いので、その可能性は高いと思ってます

その点、幸いにも自民党・民主党ともに現執行部は消費税増税に賛成であるため、実質的に選択肢のない今の状態で選挙をやれば、消費税増税は「民意の選択」として立派な「正統性」のある政策になるわけで、これは本当に千載の一隅の機会だと思います。

 皆さん、今晩は。

 私は、この論点については、哲学の味方さんの御意見をおおむね支持いたします。

 社会保障の財源を消費税に求める考えについては、私は強く反対せざるを得ません。
 なぜなら、橋本龍太郎内閣の時に消費税税率引上げの時のように、消費税の税率引上げ→経費増大→物価上昇→内需縮小→収益減少→可処分所得の減少→内需縮小→収益減少及び税収減少という泥沼にはまってしまうからです。

 つまり、消費税の税率を引き上げても、所得税や法人税の税収の減少が消費税の税収増加を上回ることになり、財政が却って悪化してしまいます。消費税の税収増加は所得税や法人税の税収減少の穴埋めに使われるだけで、社会保障の財源には到底回らないでしょう。

 私は消費税の税率引上げに断固として反対しますし、仮に引き上げても過去と同様、無残な結果にしかならないと考えております。

「前」阿久根市長への支持が予想以上に強いのは、「貧すれば窮す」ではないかと。

これだけ財政が苦しくて税収が少ないことが喧伝されてても、国民は増税を許さないと思います。
ランドセルを贈ることはしても、国全体のための増税は許せない、それも社会保障に使われることがわかっていても、という、この意識はなかなか変わらないと思います。
消費税増税を掲げて解散総選挙をしても、みんなの党の躍進と、権力の座からの転落を恐れる国会議員で構成される政党が与党になるだけだと思います。

だから今こそ上げどきやと思います。

NSR初心者さん

>これだけ財政が苦しくて税収が少ないことが喧伝されてても、国民は増税を許さないと思います。

とのことですが、各種世論調査をみる限り、国民は消費税増税については6:4くらいでは肯定的なようですよ。

前回の参議院選挙で消費税増税発言をして民主党が負けたことをおっしゃっているのであれば、あれは管総理の姑息なやりくち(※)が否定されたのであって、消費税増税自体が否定されたわけではないと思います。

※抜本的な政策変更にも関わらず、選挙直前にちょろっと発言して、もし選挙に勝利していたらさも「消費税増税は国民の信任を得た」とでも言いだしそうなやり方

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