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2011年1月30日 (日)

菅山真次『「就社」社会の誕生』

6542 菅山真次さんの『「就社」社会の誕生 ホワイトカラーからブルーカラーへ』(名古屋大学出版会)は大著です。物理的にも分厚いですが、内容的にもずっしりと重い本です。

http://www.unp.or.jp/ISBN/ISBN978-4-8158-0654-5.html

「就社」社会というのは、「就職」社会ではなく、という意味ですね。特定の職(ジョブ)に「就」くことをめざす就職じゃなく、特定の会「社」の一員(メンバー)になることを目的とする社会。

まさに、メンバーシップ型労働社会のあり方の根源に切り込んだ研究書です。

>「サラリーマン」はどのようにして生まれたのか? ——
新卒就職・終身雇用を常識としてきた「就社」社会・日本。製造業大企業労働者のキャリアと雇用関係の変遷を辿り、新規学卒市場の制度化過程を検討することで、その成り立ちを解明する。学生の就職活動のあり方が問い直され日本的雇用慣行が終焉を迎えつつあるかにみえる今、必読の書

確かに、新規学卒定期採用制という日本型雇用慣行のコーナーストーンに位置する仕組みが労働問題の焦点となってきている現在、まことに時宜を得た出版というべきでしょう。

いくつも興味深いところがありますが、たとえば明治期の労働市場の流動性については、ブルーカラーについては当時の『職工事情』などにも書かれており、労働関係者にとってはある程度知られていますが、ホワイトカラーの方もあっちこっちと飛び移っていたということを実証的に示したのは、菅山さんの研究が初めてではないでしょうか。

戦間期に、ホワイトカラー層について新規学卒者定期採用制が次第に確立されてくるプロセスを執念深く追求している第2章も、あまりほかの研究者が手を付けていない領域ですね。野村正實さんの『日本的雇用慣行』が、やはり戦前期ホワイトカラー層の採用のあたりを追求しているのが記憶に新しいくらいです。

戦後の新規学卒市場の制度化については、苅谷剛彦さんらとの共同研究がベースになっていますが、こういうある年代以上の職業安定行政の中の人にとっては常識的であったものでありながら、ほとんど明示的にアカデミックな言語化されることなく次第に消え失せつつある領域を、こうして見事にえぐり取った業績は、とても貴重なものだと思います。

その間に挟まれた戦時期から終戦直後期の日本的企業システムの形成の分析も、まさにわたくしの言う「社会主義の時代」(1930年代半ばから1950年代半ばまでの国家社会主義的及び社会民主主義的傾向の時代)が雇用システムにいかなる影響を及ぼしたかについての見事な分析です。

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